ヘタリア 普独未満 ※ こぐまのケーキ屋さんパロ ※ 元ネタの都合上ルッツさんがだいぶアホの子です 町のはずれにある自分の家の近く、森の傍を通る細い道沿いにさびれた店の跡地のようなものがあることには、ギルベルトは5年程前に気づいていた。ほんとうに「ああ、越してきたころに見たなあ」くらいの認識だったが。 そのことを思い出したのは、いつもと違う道で帰ってみるかとふと思い立ってその森の傍を通ったからだった。掘っ立て小屋のようだったあの店は、いつのまにか誰かの手が入ったようで、建物の形はそのままで補修されており、『改装中』の立て札がかかっていた。 いつのまにか売りに出されていて、いつのまにか誰かが買ったのだろうか。こんな辺鄙な場所にある建物を。客が入るのだろうか、なんてことが少し気になって、開店したころにまた来てみよう、と思った。 それが1カ月前のことだった。 よく晴れた休日に家に籠っているのもなんだか馬鹿らしくなって、靴を履いた瞬間、あの改装中だった店のことを思い出した。 もうそろそろ営業しているだろう。その予測はぴたりと当たった。というのも、ちょうど今日開店だったので。 店の外に立ててあるブラックボードに『本日新装開店』という文字と、その文字の隣に小さくショートケーキの絵が描かれているから、新しく開いたのはケーキ屋さんなのだろう。そういえば風の噂で、昔ここにあったのもケーキ屋だと聞いたことがあった気がする。 甘いものは好きな方であるギルベルトはためらわずその扉を開いた。 カランカランとドアベルが鳴って、店の奥から人が出てくる。 「いらっしゃいませ」 そう言う声は低くどこか不器用で、接客用の笑顔もできていない。まあ今日開いたばかりなら不慣れなのも納得だ、と思いながらギルベルトはディスプレイされたケーキをさっと見渡した。 ここはオーソドックスにショートケーキとチョコケーキでも買ってみるか、と「これとこれ、ひとつずつ」と指さして言ってからふと気づいた。ケーキに値札がついていない。 「なあ、値札ついてねえけど1個いくらだ?」 そう尋ねれば、ケースからケーキを取り出そうとしていた店員の青い瞳がくるりと丸くなった。そのことに逆にギルベルトは驚く。値段を尋ねられて驚かれるなんて思ってもみなくて。 そこでようやくギルベルトは店員をまともに見た。奥に人がいる気配もないからこの金髪の青年はパティシエ兼店長なのだろう。背が高く筋肉質でアスリートでもやっていけそうな見た目をしている。だけど調理は体力を使うというからこれでちょうどいいのかもしれない。 ギルベルトの質問を受けて、ふむ、と首をかしげる仕草は、立派な美丈夫なのに雰囲気がどこかあどけなかった。 「すまない、考えてなかったんだ。ええっと、1個1ユーロでいいだろうか」 「はッ!?安すぎねえ?2,3ユーロは取っていいだろ!普通そんくらいするし」 「そ、そうなのか……?他の店のことはよくわからなくて」 「マイスターの店で修行とかしてたんじゃねえの?」 そう尋ねると青年は困ったように薄く笑った。 「俺の師匠はもう店を閉じたマイスターだったから」 「へえ、引退した人が弟子とったりするんだな?」 ギルベルトは進学したからマイスター制のことはよくわからないが、彼がそう言うならそうなのだろう。 「とりあえず、2つで5ユーロ渡しとくな」 小銭入れしか持ってきていなかったので硬貨で払うと、その硬貨をじっと見て青年は言う。 「本当にこんなにもらっていいのか?」 「俺が出すって言ってんだからいいんだよ!お前ヘンな奴だな!」 「そうかもしれない。ケーキのこと以外はあまりよく知らないから」 初対面の人間に対して言うには半ば暴言じみている冗談をあっさり肯定されて、ギルベルトは面食らったあと盛大に笑った。その大声に青年はひどく驚いたあと、少しだけ不愉快そうに口をむっと曲げた。 「お前、ではなくルートヴィッヒと呼んでほしい。『店長』でもいいが」 「ルートヴィッヒっていうのか。俺はギルベルト。ここの近くに住んでんだ。よろしくな」 「ああ、よろしく。――そうだ、そこに小さいが飲食スペースもあるからよかったら食べていかないか?コーヒーはサービスしよう」 「お、まじか。じゃあ遠慮なく」 その日食べた新人店長のケーキは、ギルベルトが今まで食べてきたどのケーキよりもふわふわで甘くて美味しくて、たった一口で天国にも昇ったかのような多幸感につつまれた。ルートヴィッヒが淹れてくれたコーヒーとも絶妙に合う逸品で、それだけでもここに毎日でも通うに値すると思った。 なのに、その1か月後には店員として通うことになるとは、このときのギルベルトは全く思いもしなかったのだった。 こぐまのケーキ屋さんの本を読んだら書きたくなってしまったので。 これシリーズ化したいんですが、私ドイツ風クーヘン食べたことないので描写に自信がないんですよ…… |