ヘタリア 普独 物事に熱中しているとそれ以外のあらゆることが気にならなくなる、ということは往々にしてよくある。少なくともプロイセンはそういうタイプだった。さすがに倒れる寸前まで身体を動かしていたり寝食を削って仕事をしていたりということは昔に比べればなくなったが、読書に熱中するあまり文字が読めなくなるほど暗くなるまで部屋の明かりをつけないということは今でもしている。 この日も最近はまっているネットゲームで、長いメンテナンス明けに始まった大型イベントを手探りでプレイしたり改修されたUIのバグ報告をしたりゲーム仲間とチャットをしたりしていたら、一区切りつく頃にはすっかり真夜中で午前2時をまわっていた。 弟も犬たちもすっかり寝静まった家はしんとしていて、元々冬向きのつくりの家ではあるけども室内はひどく寒い。エコに五月蠅い彼の弟が暖房をタイマーで切れるように設定していたためだ。(曰く『電気を無駄にしてまで夜更かしするな』とのことだが、その程度で諦めるほど彼は根性無しではなかった) 「ああ、道理でタイプミスよくすると思ったぜ……」 ぼそぼそと独り言を呟けばその息が白くて、さすがにこの室温に気付かなかった自分にプロイセンは眉をしかめた。ちょっとした冷蔵庫のようになってることは想像に難くなく、温湿度計からなんとなく目を逸らす。 「まったく、ヴェストもひでえことしやがる! この責任はとってもらわねえとな!」 自分の悪行は棚に上げてそう言ったプロイセンは、冷えきった自分のベッドから逃げ隣のドイツのベッドに忍び込むことに決めたのだった。 足音を消して部屋に侵入すれば、愛する弟は目を覚ます気配もなくすやすやと眠っている。出来るだけ外気が入らないように厚い布団をめくり広いベッドの隅にぐっぐっと身体をねじ込むと、ドイツの高い体温で温められたそこはぽかぽかと冷え切ったプロイセンの身体を温めた。 冷えで血の滞った手先足先がじんわりと血流を取り戻していくのを感じ、ふおおお、と感嘆の息をつく。しかしその分体温を奪われたドイツはさすがにぼんやりとではあるが意識を浮上させざるをえなかった。 「なんだ……またお前か……」 寝ぼけ眼でそう呟いて頭を優しくなで、また眠りの淵に戻ろうとした。しかしそれをはっきり聞いたプロイセンは眠るどころではない。 彼自身はこの愛する弟のベッドに黙ってもぐりこんだことなんてないし、『お前』なんて呼ばれたこともない。頭を撫でることはあっても、撫でられるようなことはほとんどない。つまり誰かと間違えられているということだ。仮にも恋人である弟が他に同衾する相手がいるという事実ではっきりと目がさえてしまった。 「おい! なあお前、今俺を誰と間違えた!?」 寝ようとしているのも構わずドイツのかたを容赦なく揺さぶる。 「ん……うるさ、い……あれ、にい、さん……? なんで、ここに……?」 重たそうな瞼をぱしぱしさせてようやく青い瞳がプロイセンを向いた。 「なあ今『またお前か』って言ったろ!」 「ん? ああ……イタリアかと思って」 「あー……あの子か……」 時々無断でドイツのベッドにもぐりこんでくると聞いている友人の名を聞いて深くため息をつく。あくまで聞いているだけだ。プロイセンはその姿を見たことがないし、ドイツが飲んだはずのないエスプレッソのカップが朝残っているのを見ただけなので。 「あーもー、いつのまにかお前が浮気したのかと思ったぜ」 「するはずないだろう……そんな時間なんてないの、兄さんだって知ってるくせに」 「知っててもドキッとすんの! くそ、お兄ちゃんをビックリさせた罰だ!」 そう言ってプロイセンは冷え切った足を思いっきりドイツの足に絡ませくっつける。 「うわあああ!? やめろ兄さん冷たい!」 「俺はあったかい!」 「だろうな!」 喚く弟に気をよくしてプロイセンは弟の身体をぎゅうぎゅうと抱きしめる。知ってたことだがこの筋肉質の身体はぽかぽかと温かくて冷えた体に染みわたる。 「はー……むきむきあったけえー!」 「兄さんまでイタリアみたいなこと言うな」 「おい、ベッドの上で他の男の名前出すのはマナー違反だぜ?」 「そんな話の流れじゃなかっただろう。…………今日はシないからな」 「別にそんなつもりじゃ……え、うん?」 普段ドイツの方から性的なことを匂わすような発言はしない。照れ屋で初心なのもあるし、だいたいにおいてプロイセンの方がリードするからだ。だからドイツが翌日休みの日の晩はプロイセンからさりげなく誘導するのが常である。――のだが、今日それをした覚えがない。ゲームで大型のイベントが始まったからだ。そっちの方に気を取られて今日が何曜日なのかすっかり忘れていた。 「あっ!!!」 「にいさん、うるさい!」 「今日セックスする日だったんじゃんか! 言えよ! 忘れてたの気づいてただろ言えよ!!」 「い、言えるはずないだろう……! 兄さんが楽しみにしてた趣味を無理矢理中断させるようなことは、俺にはできない」 できない、と言いつつドイツは口元を不満げにもにょもにょとさせている。それがたまらなく可愛くてその唇に唇を寄せる。唇を浅く食むようにキスをしながら、触れると可愛らしい反応を見せる耳をさわさわと撫でる。耳殻の内側に沿って親指を滑らせたり、余った指で耳たぶをくすぐってみたり。その度に、んっんっと鼻に抜ける声が聞こえて楽しい。それを堪能してるとぐいっと肩を掴まれて体が無理矢理引きはがされる。 「っは、ぁ、も、やめっ……!す、すっぽかしたのは兄さんの方なんだからな! 今日は絶対シないぞ!」 そう言ってドイツはまるっきり拗ねた顔をして、ぐるっと背を向けてしまった。さすがにやりすぎたかな、とは思えども、すっかりあったまった身体を自室のベッドに押し込むのも億劫でプロイセンは暫し悩む。そして、「まあ、出ていけとは言われてないし」と開き直って居座ることにした。 背中を向けた代わりにのぞく白い項にそっとキスをして、ふふっと笑う。 「今日はごめんな。明日いっぱいいちゃいちゃしようぜ」 その言葉に沈黙のみが返る。けどもすっかり真っ赤になった耳が雄弁に返事を告げていて、プロイセンは満足げに笑んで瞼を閉じた。 冬の日に冷たい脚をくっつけたりしながらいちゃついてるギルッツ、というお題で書かせていただきました。冷え冷えの空気でもアツアツだねヒューヒュー!(オッサンのようなヤジ) |