ヘタリア 普独 ※9割モブ(APH一般人シリーズ) 1.秘書・H氏の証言 君、どうしたんだい。うん? これの使い方が……ってこれ! どこで手に入れた!? ――、――…… ははあ、あの方が。なんというか、変なところで意地を張られる……。 うん? あ、もう作動しているよ。ついでにテストしていくといい。 なんだっけ……そう、『過保護』の話だったか。兄君の過保護っぷりといったら、我々の間で知らないものはいないほどだね。君も噂には聞いているだろう? 例えば、そうだな……ああ、あれがあった。一週間前、天気予報を大きく裏切った大雨が降っただろう。風も強くなくて嵐でもない大雨が。祖国様はエコと健康のために時々徒歩で出勤されるんだけど、その大雨の日が丁度徒歩通勤だった日でね。 私は車で来ていたから、家までお送りしましょうか、と言ったんだ。そしたら「こういうときのために折りたたみ傘を持ってきているんだ」と言って見せてくれたんだよ。本当にそういうところはしっかりなさってるお方だなあ、と思いながらこの建物の正面玄関を一緒に出たとき、目の前に車が止まったんだ。――ふふ、そう、あのお兄様だ。「雨降ってきたから迎えに来たぜ!」ってね。折りたたみ傘を持ってるのを知ってるのに迎えに来るなんて、本当に過保護だなあとつくづく思ったよ。 それに……ああ、いや……、このデータ、他の誰かに渡すことはあるかい?――そうか。ではこれも言ってしまおう。他言無用と言われたのだけどね。 あれは確か、二カ月ほど前だったかな。祖国様が一旦こちらに来てから出張に行くことがあったのだけど、その出かける寸前に息を切らして兄君が来たんだ。忘れ物だと言って。 そんなに急いで何を渡しに来たのだと思う? ……防犯ブザーだよ。しかも、子供が持つようなくまのぬいぐるみ型をしたやつさ! くっ、ふふっ……いや、失礼。何度思い出してもおかしくて! 並みの警官なら十人まとめて組み伏せてもかないっこないあの方に子供用防犯ブザーって! 「こんなものいらない!」ってもちろん祖国様も抗議したのだけどね、「でもお前敵意見せずに近づいたらガードゆるゆるになるじゃねえか!」ってお兄様も言い返したんだ。そこからは私の、というか我々も悪いんだけど、「あー確かに」って思ってしまってね。お兄様が我々を指さして「ほーら見ろ! みんな俺様と同じこと思ってるぜ!」って。振り返った祖国様が顔を真っ赤にしてて、申し訳なく思ったよ……。 でも、大事な御身なのだからちゃんと自衛していただきたいね。よほどのことでは傷つかないとは分かっているけど。 うん? これ以上は言えないよ。あの方に怒られてしまう。 2.兄弟の隣に住むM夫人の証言 ごきげんよう、お兄さん。私に何か御用かしら。 ――、――。 あら! ふふ、面白いことをなさってるのね。それで、聞きたいことって一体何かしら。――あの御兄弟の過保護な話? そんなの、私なんかが話さなくてもご存知ではなくて? だってこのあたりではとっても有名ですもの! ……そうねえ、では先日目撃した話でいいかしら? そう、ほんの三日前の、日曜だったわ。ここ最近猛暑が続いてるでしょう? あの日も随分と早くから気温が上がっていたわよね。 私、毎日午前はお散歩するのを習慣にしているのだけど、その日はちょっとお休みするべきだったかしら、と思うくらい暑かったの。そしたら御兄弟のお兄さんがね、三匹のわんちゃんを散歩させているのに行き会ったのよ。彼とは時々その時間によく行き合っていて、話しながら一緒に歩いているの。だから挨拶しようと近づいたのね。 そしたら、あの暑い日なのにお顔が真っ青で、足元もちょっとふらついてて具合が悪そうだったの! わんちゃんたちも心配そうに見上げていてね、私も声をかけようと思ったのだけど、こんなおばあちゃんじゃあの体を支えられないでしょう? だから慌てて助けを呼ぼうと周りを見渡したら、ぐらっとお兄さんが倒れそうになってしまったの! そしたら、すっと弟さんが私を追い抜いてお兄さんを抱きとめたのね。そのスマートさといったら、王子様みたいなんて思ってしまうほどだったわ! 「心配になって追いかけてみたら、やっぱり! この暑いのに徹夜明けで外出するから!」 そんなことを弟さんは言っていたっけね。お兄さんの方は、ちょっとよろけただけだ、なんて強がりを言っていたけど、声音はいつも通りとっても元気なのが不思議だったわ。なのにお兄さんの不調に気づいて助けに来られるなんて本当によく見ているのね。 あら、過保護、というのはちょっと違ったかしら。ごめんなさいね。あのお二人はいつ見ても本当に仲睦まじくて、お互いを大事にしているのね、って思った出来事だったの。 こんな話でよければ貴方のお役に立ったかしら? 3.兄弟の斜向かいに住むW少年(とその兄・Y少年)の証言 なあに、おじさん。――ぼくに聞きたいこと? いいよ……あっ、だめ、知らない人とお話したらだめって。 ――、――。――? あっ、それ、ルッツさんがいつもつけてるバッジ! ――ほんと? じゃ、いいよ。なに聞きたいの? 過保護? 過保護ってなに? ……――、――。 えーっと、心配性なムッティみたいな、ってこと? それなら知ってる! ルッツさん時々ギルのムッティみたいだもの! え? ギルはぼくたち側だよ。この間もね、ぼくとお兄ちゃんとぼくの友達とでサッカーしてたらね、犬の散歩帰りのギルが仲間に加わってきたんだ。ギルね、すごくサッカー上手いし教えるのも上手なんだけど、調子に乗るとずっとボール離してくれないんだよ! 「お前たちを訓練してやってんだよ。俺様からボールを奪ってみせろー!」なんていうんだけど、絶対自分が遊びたいだけだってお兄ちゃんは言ってる。ぼくは別にヤじゃないけど。 それでね、ギルからボールを取ろうとぼくたちで一生懸命挑戦してたら、いつのまにか日が暮れてきちゃってたんだ。っていってもまだ夜じゃないよ? でもこんなに遅くなったらムッティに怒られるなあ、っていう時間。一番最初に気づいたのがお兄ちゃんで、ギルがヤベッて言って、みんなで慌てて帰り支度してたらね、ルッツさんが公園にきたんだ。 「こんなところで何してるんだ!」ってすごい大声で言うから、ぼくが怒られたのかと思って、ちょっと泣きそうになっちゃった。すぐ違うってわかったけど。あんなにこわい声で怒鳴られたのに、ギルはへらへらしながら「悪い悪い」って言って犬たち連れてルッツさんの方に向かってって、そこでバイバイしたんだ。あれ、たぶん帰りが遅いギルのこと迎えに来たんだよね。ムッティでもそんなことしないのにって、今思ったんだ。 ――あっ、お兄ちゃんだ!クラブ終わったの? 「おう。――おじさん誰? オレの弟に何か用?」 ――、――。 「ふぅん?」 ルッツさんって心配性のムッティみたいだよねって話、してたの。 「あー……あれは、ほら、ギルってあんなんだけど実は結構なお偉いさんだから」 えっ!? そうだったの! いつも買い物と犬の散歩とぼくたちと遊んでるとこしかみたことないよ? 「そーだけど。ほらおじさん苦い顔してんじゃん。……だから、ほっとくと変なトラブルに巻き込まれてたりするんだって、ルッツさんが言ってた」 へえ! でもギルって強いんだよね? ルッツさんが迎えに来なくても自分でなんとかできるんじゃないの? 「強いから自分から顔つっこんでくんだろ、多分。――あ、おじさんもそう思うんだ」 それはなんかわかるなあ。でもやっぱりカホゴってやつだと思う! 「で、話は終わり? じゃあオレこいつ連れて帰るけど」 ――。――。 え、お兄ちゃんもぼく迎えに来たの!? カホゴだ! 「過保護じゃねえよ! お前すぐ知らない人についてくから、――!」 4.共通の友人(?)F氏の証言 俺に聞きたいこと? いいよ、なんでも聞きな! この美貌の秘訣でも聞きたい? それはちょーっと企業秘密ってやつかなぁ……え、あいつらの話ィ? ああ、その腕章よく見たらドイツんとこのじゃん。え、直属の上司の話を俺に訊くの? 本人に聞けばいーじゃん。 ――、――…… あー……あいつらもバカなことしてんねえ。仲良くて大変結構だけどさ。 「過保護かどうか」って言われたらそりゃあ過保護だよ! 特にプロイセンの方! でもそれに関してはまああいつだけじゃないっていうか、兄貴連中みんな程度の差はあれどそんな感じっていうか。――あれ、知らない? 君んとこの国って歴史的に見ると小国家のあつまりで出来てるだろ。その元小国家が今で言う連邦州だったり地域だったりしてて、そいつらがみんなドイツの兄で、みーんな過保護なんだわ。一度わらわら集まってるの見たことあるけど、すごいから! まあ言ってみれば我が子みたいに思ってるんだろうから過保護になるのも分かるけどさぁ、別に危害加えようってんじゃないんだからちょっとしたふれあいぐらい許してくれてもいいって思わない? ふれあい、スキンシップ! ちょっとした親愛とか気やすさを伝えるために、尻撫でるくらいよくあるじゃない。――ない? ほんとに? はーーっ!さすがあいつんとこの子だねえ! まあ俺は挨拶代わりにドイツの尻撫でるとかよくやるんだけど、同じ現場にプロイセンがいたら鉄壁のガードしやがるからね、あいつ。しかもそっからずーっと俺のこと怖ぁい顔でにらみつけてくるの! でもイタリアが同じ事しても黙認するんだぜ! ひどくない? 差別よくない! あ、今思い出した。前俺ちょっとへこんでたときに、ドイツから許可とっておっぱい触らせてもらったんだけどさ。――ほんとだって! 0.05秒ならいいって確かに言ったもん! そしたら後日プロイセンにバレてぼっこぼこにされたの本当ひっどいと思う!! 本人に許可とったのになんであいつに殴られないといけない訳!? うん? ああ、逆の話も聞きたい? ドイツの方からの過保護は、まあ見ない訳じゃないけどプロイセンほど過激って感じはしないなあ。さっきも言ったけど俺は挨拶に尻撫でるのが好きだからプロイセンにも仕掛けにいくんだけど、そうするとだいたい触る前にドイツが俺の首根っこひっつかんで止めてくるくらいで。っていうか、あいつらお互いの危機察したら気づくアンテナでも持ってんのかね? でもプロイセンみたいに殴ってくることないし、ちょっと不機嫌そうな顔してるくらいでカワイイもんよ。気持ちは分からないでもないしね? あれ、あいつらの関係知らない? いや兄弟ってだけじゃなくて……あー、これはお兄さん言ったらだめなやつかな。じゃあこの場ではヒミツにしておくわ。多分君もそのうち気づくと思うよ。 ほら、隠す気のない方がすぐ後ろにいるし。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 持っていたレコーダーを後ろからひょいと取り上げられ、僕が驚く間もなく耳元でバキン、グキャッ、とどこか哀れを誘う音がした。細かい傷の残る厚い手のひらがゆっくりと開かれ、粉々になったレコーダーの破片が僕の肩と床にぱらぱらと落ちていく。 「最近俺たちの周りをかぎまわってる男ってのはテメエだな? 何が目的だ」 地を這うような低い声が聞こえ、背中を恐怖が駆け上がった。思わず飛び退って振り向くと、ドイツさんに似た顔立ちのひと――プロイセンさんがすぐ後ろに立っていた。以前数回お会いしたときは似てるなんて思わなかったのに、今は表情の抜け落ちたような真顔で、機嫌が悪い時の祖国様にとてもよく似ている。 驚きと恐怖で何も言えない僕のフォローをしてくれたのは、さっきまで聞き込みをしていた相手であるフランスさんだった。 「おい、弟さんの部下相手になに凄んでんのよ」 「部下ァ?」 赤い瞳を訝しげに眇めて睨まれ、僕はこくこくと頷くことしかできない。 「ドイツ直々の特殊任務だって。ほら、説明してやって」 フランスさんに促されて僕はやっと喋ることができ、慌てて必死に説明した。 以前懇親会で、プロイセンさんが子供用ブザーを届けに来た件(秘書さんが言っていたやつだ)について先輩方からドイツさんがからかわれていたこと。記憶に新しいそれの羞恥で顔を真っ赤にしながらビールを呷ったこと。アルコールが入ったことで少し箍がはずれ、たまたま隣にいた僕に『特殊任務』と称して、御兄弟の周りの人からいかにプロイセンさんが過保護でみんな呆れているか、第三者目線の証言を集めてほしいと言われたこと。 「そのときにドイツさんに渡されたのが、今あなたが粉砕したしたやつです……」 「え゛ッ、マジ?」 「ご本人に裏とってもらえれば確かかと」 「マジか……悪いな、なんか変に疑っちまって。ヴェストの弱みでも握ろうとする敵かなんかかと思ったからよ」 そう言ってプロイセンさんは苦笑し、僕の肩をぽんぽんと叩いた。 「で、成果はどうだった」 うっかり口にしようとしかけ、しかしこれは『特殊任務』の結果を部外者に漏らすことになるのではないかと思い至ってやめる。でも言わなければ離してもらえそうにない気もしたので、婉曲的に感想のみを述べることにした。 「えっと……お二方とも、お互いを大事になさってるんだなあって感じる調査でした」 言ってか小学生みたいな感想だなって思ったけども、そんな感想を聞いたプロイセンさんの表情が妙に印象的だった。最初に嬉しさ、それを素直に表現するのが恥ずかしいような作った無表情になって、そしてどこか呆れたようなような鼻笑いへ。 「好きな奴を大事にすんのなんて当たり前だろうが」 どういう意味なのかを僕が受け止めかねている間に、プロイセンさんはくるりと背を向けて手をひらひらさせながら去っていった。 「ミッション未完については俺様からヴェストに言っておくぜ」 そう言い残して。 「ほんと嵐みたいに急にやってきては去ってく奴だねえ。で、俺がさっき言ってた意味、分かったでしょ」 「え、ええ……ただの御兄弟ではなかったんですね」 「そーゆーこと。で、聞き取り調査の方はどうするの? 機材壊されたことはプロイセンが言っておくって言ってたけど」 「あのレコーダー最新式らしくて、記録したはなからサーバーにバックアップを取っておくようにできてるそうです。なので粉々になったのは、まあ、一応は大丈夫かなと」 「おや、それはよかった。じゃ、そのバックアップを元に報告書くだけか」 「はい。ご協力ありがとうございました!」 「いいってことよ。じゃあね、オ・ルヴォワール」 フランスさんと挨拶を交わしたあと、僕は記憶にある録音記録を思い返しながら報告書の文面を頭のなかで練っていた。音源についてはそのまま渡して、内容をかいつまんだものを書面にすればいいだろう。機材を砕かれて録音できなかった分――僕からの証言も書面には入れておこう。 『補遺・調査員からの証言 何があったかは聞き及んでいるかと思います。それを踏まえて言わせていただくなら「お兄様は大変な過保護でいらっしゃいますが、ドイツさん自身も人のことを言えない程度にはそうかと思われます」』 そんな文面でいいだろうか。多少ふざけている文かもしれない。けど彼らの兄弟喧嘩……もとい痴話喧嘩に巻き込まれたんだからこれくらい言ってもいいだろう。 「相互過保護なギルッツ」というお題で書いたものでした。 手紙とか日記とか報告書みたいな形式の話書くのって結構好き。 |