ヘタリア 普独



いつもなら数分で落ちる眠りの淵に、なぜか飛び込めないまま一時間が過ぎた。目が冴えているというほどではないが、まどろみと覚醒の間でうろうろしている感覚が長い。じれったくなってベッドから起き上がり時計を検めて確認すると、兄さんが夜更かししてるならまだ起きていそうな時間だった。
起きている、だろうか。もしそうならこの寝付けない夜に付き合ってもらおう。そう思って自室の扉を開くと、丁度思い浮かべてた人が目の前にいてひどく面食らった。
「うわあ!?」「おおお!?」
丁度鏡合わせのような体勢で同じタイミングで声をあげたことに気付き、瞬きひとつの後ふっと笑いがこぼれた。
「どうしたんだ、兄さん。こんな時間に」
「あー、なんか、寝付けなくてさ。ヴェストんとこ潜り込んだらあったかくて寝れるかと思って」
「イタリアみたいなことをするな……」
「お前は? トイレ?」
「いや、俺も寝付けなくて」
「そっか! じゃあちょっと付き合えよ」
ひとつ頷いて、手招きする兄さんについていく。似たようなことを二人して考えていたというのが、なんとなく嬉しくて頬が少し火照った。
 
兄さんに言われるまま厚手の大きな毛布を二枚リビングまでもってきてソファに乗せる。照明は明るくしすぎないように橙色の小さなあかりだけを灯し、つけっぱなしにしているセントラルヒーティングの暖房は最小の目盛りから一段階だけ上げる。
その用意をしている間に兄さんはキッチンに立ってホットミルクを作っている。俺がイライラしてたり眠れなかったりするときに作ってくれる、そして俺では再現できない柔らかな甘さのあるそのホットミルクが俺は好きだった。今日のそれはチョコも融かしているのが特に強く香る。
身体に毛布を掛けソファに座って待っていると、兄さんがマグカップを二つ持って毛布にもぐりこんできた。一枚は二人の膝にかかり、もう一枚は二人の肩にまとめて巻き付けるかたち。底冷えのする冬で暖房も強くは効かせてないが、お互いの体温で案外寒くない。
ほのかに明るい暗闇の中、熱を分け合うように寄り添い、甘くてあたたかな液体をこくりと飲み下す。こういうのも、たまにはいい。二人して寝付けなかったのがある意味幸運のようにすら思える。
「兄さん」
「ん?」
「なにか、喋ってくれ。――自慢話以外で」
「オイそれ俺の言論八割封じてるって分かって言ってるか!?」
「はは、わかってる。栄光とか自慢とかじゃなくて、兄さんの今の日常が聞きたいんだ」
「そうかよ……。そうだなあ、んー、あ、こないだクヌーデル夕飯に出しただろ。お前の好きなやつ。あれ犬の散歩してるときにいつも会う奴に安売りの情報聞いてさ――」
するすると言葉がこぼれ出るのを確認して、俺は耳を澄ませたままそっと目を瞑る。穏やかな日常の話を聞きながら、それに相槌を打ったり疑問を返したり。体温のぬくもりに寄り添ったり。時折ホットミルクを飲んで、ふうと息をついたり。外側から感じる兄さんの体温と、お腹の底からほかほかするあたたかさを同時に感じる。こんな時間がずっと続けばいいなと考えた瞬間、ああこれが幸せというものか、なんて思ったりした。幸せついでに手でも握ってしまおうかと腕を絡めると、俺から握るよりさきに兄さんに手を握られ、外側から感じる熱がまた一段上がった。
目を開いて兄さんの方を見れば、同じように兄さんもこちらを向いていて至近距離で目が合う。
ああ、幸せだな。




フォロワさんのつぶやきに触発されて。身も心もぽかぽかとろとろして寄り添っておねんねしてほしい。