ジョジョ5部 ブチャアバ





カラ、とウィスキーグラスのなかで氷が音を立てる。そんな些細な音が部屋に響くくらいに此処・パッショーネ護衛チームのアジトは静かだった。この場所にはオレとアバッキオの二人きりしか居なくて、二人とも言葉が多いタイプじゃないからそれも道理だった。
そんな静かな夜には、ほとんど無意識に気持ちが沈んで心が剥き出しになるらしい。リーダーを張ってるこのオレが弱音を吐きたくなるくらいまでに。
「なあ、アバッキオ。オレな、結構ドジなんだ」
「そうか」
「さっきグラス割った」
「そうか」
「こないだ玄関で派手に転んだ」
「そうか」
「あと、クッキーくれた娘に派手にビンタされた」
「それはドジっていうか、余計な事言ったんだろ。ブチャラティは天然…いやニブいのか、鈍感だからな」
「ああ、よく言われる」
「でも原因がわからないから結局改善されないんだよな」
言って、アバッキオはくくくと笑う。いつも仏頂面で血色の悪い顔が今傍目に見ても上機嫌なのは、アルコールのせいだろうか。仮にそうだとしてもコイツがそんな様子を見せるのはオレと二人きりのときだけだ。でもこっちの心が弱ってる分、ポジティブな酔い方ができるコイツがほんの少し妬ましい。
きっと話の半分も耳に入ってないだろうと勝手に思い込むことにして、オレは続ける。
「12んときに人殺してんだ」
「そうか」
「堕ちるとこまで堕ちた場所で生き続けてもう8年だ」
「そうか」
「かっこいいリーダー様なんかじゃないんだ」
「そうか」
初めて聞いたかのように「そうか」と返すアバッキオは、視線で「知ってる」と言っている。オレが完璧でもないし賢くもない駄目な奴だと知っている癖に、コイツはその薄蒼い瞳でオレをまぶしいものでも見るように見つめている。
オレな、ヒーローなんかじゃないんだ。
オレな、聖人なんかじゃないんだ。
オレな、ただの人間なんだよ。
汚い部分を全部吐き出しても、アバッキオは「そうか」と言って受け止めてくれるだろう。でもコイツはきっとオレを崇拝するのをやめないだろう。それを重荷に思っているのに、コイツがオレといるときでだけ安らいだ表情を見せることが、オレの心を常に浮上させている。

職業柄、懺悔室で告白なんてガラじゃないが、アバッキオの前でならどれだけ汚いことをやってきたか吐き出せる。
だけど――
『オレな、お前に無条件に好かれてていい人間じゃないんだ』
その一言だけずっと言えずにいる。






タイトル拝借元:創作者さんに50未満のお題
原作はアバがブチャに依存してるっぽかったので逆を書いてみたら…誰だテメエ。すいません。
覚悟決まりきっててもまだ20の若造なんだもの、弱音だって吐くさきっと。