ジョジョ5部 ペシ(+)プロ





気がつけばペッシはまっさらな道を歩いていた。先ほどまであった体の芯から冷えるような感覚は無い。
「あれ、何でオレこんなところに…?」
疑問はあったが、それでも進むべき方向だけは分かっていて、ただ前へ歩き続ける。すると、そう時間も経たず見慣れた黒いスーツ姿が目に映り、
「兄――」
駆け出しかけて、立ち止まる。
「――オレは失敗しちまった…」
ブチャラティに敗けて。プロシュートは最期の力を振り絞って覚悟を見せてくれたのに、全てを賭してくれたのに、ペッシは敗けた。会わせる顔が無いと思った。
立ち止まっているのにスーツ姿はぐんぐん大きくなる。つかつかと歩み寄るプロシュートの顔は予想通り眉間に皺がくっきり寄っていて、憤怒を隠す気もないようだった。
「あ、兄貴…」
ガンと強烈な蹴りがひとつ。想定していない攻撃にペッシはその場で尻餅をついた。
「ごめんよ、任せてくれたのにやられちまって」
「あァ?オレがそんなことで怒ってると思ってンのか?」
「え」
「ペッシよォ…オマエ、殺しを『なんて事はない』ってほざいたそうだな」
「あ、ああ…そんなこと言ったような気も――」
蹴りがもうひとつ。肉体が無いため痛覚も無いが、衝撃や精神的な痛みは失われていない。ペッシの目に涙が滲む。
「いいか、オレたち暗殺者は標的がガキやジジイでも手は抜かねえ!常に本気を出す!どんなに弱い奴でも命がかかれば思いもかけない方法で反撃してくることもあるからだ!ずっとオレの傍にいてそんなことも理解してねえたァ、だからオマエはいつまでたってもマンモーニなんだペッシ!そんなんじゃこれからいつまでたっても立派な暗殺者に――」
そこでプロシュートの怒声が止まる。
「『これから』なんて無えんだったな」
「……そうだね」
少しばかりばつの悪そうな顔でプロシュートが黙り、場に沈黙が落ちる。しばらく後にそれを破ったのはペッシの方だった。
「でも、こっちで兄貴に会えて、オレ嬉しいっす」
「オレはオマエに生き残って欲しかったけどな。……でも、ペッシを遺してとっとと『先』に行っちまうなんてこともできなかったな、オレは」
「どういうことですかい、兄貴」
「あっちにバス停が見えるだろ。アレに乗らなきゃいけねえ。手のかかるマンモーニを放っていけるかって話だ。ホラ、立て。行くぞ」
「はいっ!」
二人の表情に、既に怒りや困惑はない。



「あっちでホルマジオたちに会えるかな」
「オレたち暗殺者が天国みたいな上等なとこに行けるはずがねーんだ。行き着く先はみんな似たようなもんだろ」
「ですね。リーダーたち、うまくいくといいですね」
プロシュートは暫し思い悩む。この裏切りが上手くいかないという『勘』があったのだ。しかしそれは裏切った当初から感じていたし、それによって死者となった自分たちの未来がどうこうなるものではない。
「……そうだな」
弟分の展望する明るい未来を根拠のないもので傷つける必要もないと思った。
「せいぜいこっちに来ねーことを祈っとくか」






そんなに時間をおかずに死んだなら同じバスに乗ってたらなぁ、という願望。同じバスに乗ってても乗ってなくても兄貴がペッシに会って真っ先にすることは説教な気がした。