ジョジョ5部 ホルイル





ギャングにはゲン担ぎやジンクス持ちが多い。不安定で堅気ではない職業柄、心の安定がより必要になるからだ。
それが明日の命をも知れない暗殺者なら尚更で、イルーゾォが髪を伸ばし始めたきっかけもその類に近い理由だった。厳密に言えばそれは願掛けと呼ばれるもので、掛けた内容は身勝手な想いだったから、とても口外できはしなかったのだけど。



イルーゾォは夢を見た。酔い潰れて眠っている夢だ。
現実感のないふわふわとした感覚の中ソファに横たわり、あまつさえ膝枕までされているのだけ分かっていたが、ほとんど視界は無い。枕の主に猫を撫でるように優しく髪を梳かれているのがひどく幸せだった。
不意に髪の束が持ち上げられ、ちゅ、とリップ音がした。更に焦がれる彼の声で低く囁かれる甘い言葉が心に灯る温かい気持ちをかきたてて、このまま彼の飼い猫になってしまいたいと思っていた。

目が覚めると、そこはホルマジオの部屋のベッドだった。
任務の成功を口実にしたささやかな祝杯をあげた翌日はほとんどそうで、酔いで先に眠ってしまうイルーゾォをベッドに寝かせてホルマジオはどこかに行っている。その優しさがいつも嬉しく、しかしまた「迷惑をかけてしまった」「醜態を晒してしまった」という後悔も生んでいた。ただこの日は、霧散して記憶に残らなかった夢の幸福感が胸にとどまっていて、比較的良い目覚めといえた。
「起きたかイルーゾォ」
「ああ、おはよ」
「お、今日は機嫌いいな」
「悪かったな、いつもは機嫌悪くて。――なんかいい夢見た気がすんだよ。ほとんど忘れちまったけど」
「よかったじゃねえか、今日はきっといい日になるぜ。飯食えるか?」
「ん」
ホルマジオが持ってきたカフェラッテを啜りながらイルーゾォは考える。些細な後悔があろうとも、優しさを感じながらホルマジオと一緒に朝を迎える日がいい日じゃない日なんて無い。ただそれを伝えようとすれば喉がぐっと詰まり言葉が出てこないということを毎回繰り返してるだけなのだ。
「どーした、二日酔いかぁ」
「それは大丈夫」
「そっか」
ニィと陽気な笑顔を向けられて、なんとなく目を逸らしマグカップの中を見つめる。そこには嬉しいのを一生懸命隠そうとしているようなイルーゾォ自身が映っていた。



『髪を伸ばしたらホルマジオが俺を気にかけてくれる・好きになってくれる』
ささいな気まぐれで始めた願掛けは、このときからイルーゾォの中で唯一好きな体のパーツとなりアイデンティティのひとつとなった。
ただその願い事はとっくに叶っていることも、『夢』が現実であったこともイルーゾォは知らない。今はまだ。






我が家のイルはよく寝る子です。貧弱なイメージだからか…。
両片思い期間が馬鹿みたいに長いホルイルを応援します。