ジョジョ3部 アヴポル
※3部後パラレル設定注意





「寒っ」
目がさめて第一声がそれだった。それを見たアヴドゥルは他人事のように淡々と言う。
「そりゃあ、今は冬だし、雪が降ってるからな」
「うげっ、まじかよ!あー、ベッドから出たくねぇ…」
言いながら、じっとしてても部屋が暖まる訳ではないからポルナレフは逡巡の後にベッドから這い出る。カーテンを開ければ本当にちらちらと白いものが舞っていて、庭は早朝なのに雪の反射で薄明るいくらいだった。その明るさが余計に冷え冷えとして見えてぶるりと体を振るわせる。
「寒みいよ、あっためてくれよ」
「馬鹿を言うな」
「…だよなぁ」
ひとつため息をつくと、室内なのに息がほのかに白い。急いで暖炉形ストーブに火を入れれば暗い部屋に明かりが灯って少しだけ暖かく見えた。

起きる予定の時間はもう少し先だったが、ベッドから出て体が冷えたせいで眠気など吹き飛んでしまった。雪がもたらした静寂は、とりとめのない思索の時間をもたらす。
子供の頃は雪が降ればシェリーと一緒になって喜んで遊んだのに、大人になった今はそんな気持ちなんて全然沸かなくて、その差異を思う。同じ家の同じ部屋、過ぎ去った多くの月日が変えたものは、家族と不在と隣に立つ男の存在だった。
「アヴドゥル、行くとこあるんじゃねえの?」
「急ぐ用事でもないからな。もっと後回しにする」
「寒いから?」
「そうかもしれない。――ポルナレフ、お前は?」
「今日は休み」
「そうか」
暖炉の前に陣取り続けるポルナレフを置いて、アヴドゥルは窓辺に立ち外を見ている。それを横目で確認したのち、ポルナレフはベッド横に置いてあった金の腕輪を手に取って目の前に翳す。暖炉の光を受けてそれは熔けそうな色で煌めいた。
「こんなん持ってるからか…?」
ほとんど口の中でそう呟きポルナレフは目を伏せる。



金の腕輪、それは窓辺に立つ彼が残した唯一の遺品だった。アヴドゥルは今や、声や姿こそ変わらないが、その腕に温度は無く触れることすら叶わない。同じ部屋に居るふたりに生と死の隔たりがあった。
彼に魂の安らぎを、という気持ちがある。愛する人にもっと傍に居てほしい、という気持ちがある。矛盾していることなんてとうに知っている。
執着と称する恋情の鎖がいつまでも彼を縛りつけているのだろうか。そうだとしたらそれはいつまでだろうか。このままずっと、同じ家の同じ部屋で同じように暮らし続けて、離れていた歳の差すら追い越し、年老いて、死ぬまで?
嫌な推測に寒気がする。暖炉の火力を上げてもまだポルナレフの震えは止まらなかった。







日記に上げたものを加筆修正。叙述トリックっぽく書こうとして挫折した痕跡が…