ジョジョ5部 ブチャアバ
※アバッキオが妖精さんという馬鹿馬鹿しいパラレルです。





ブチャラティがそれに出会ったのは、担当地区内での蚤の市のショバ代を回収した帰りだった。
一般人の入り込まない裏路地の一部で開催されているこの蚤の市は、ガラクタ・バッタ物から盗品まで流通する一種のブラックマーケットだ。騙されても構わないという覚悟があるならば、見る分には面白い市場といえる。
「店主、そのティーポットを少し見せてくれないか」
「気に入ったかい」
「ああ、なんとなく、な」
随分と砂埃を被ったティーポットと淵の欠けた数個のカップ。有名な窯の磁器というわけではないそのセットははみすぼらしいと言えるものだったが、目を奪われる何かがあるように、ブチャラティには見えていた。
「兄ちゃん、そんなボロでも気に入ったんだったら譲ってやるよ。それだけ売れ残っちまって帰るかどうか迷ってたとこだ」
「そうか。ならその言葉に甘えよう。Grazie」



ブチャラティは普段はコーヒー党だ。それなのにティーセットを貰ってしまったことに、自宅に着いても不思議に思いながらそれを洗い、茶葉の有無を確認した。幸い、以前フーゴに貰ったハーブティーがまだ残っているのを確認した。
「貴方は根を詰めすぎなんです。こういうので少しはリラックスしたらどうですか」
そんな言葉と共に貰った茶葉は、フーゴの意図に反して美味しい時期を逃したようでブチャラティは少し申し訳ない気分になる。
「まあ、これだけあればいいだろう」
それを携えながらティーセットの元に戻れば、見覚えのない人形のようなものがちょこんとティーポットの上に座しているのが見えた。長い銀の髪と黒い衣服を纏った3頭身くらいの『何か』がそこに居た。
ブチャラティは目を擦って再びそこを見ても同じものが見え、マスコットまで貰った覚えはないのだが、と思いながら考えていると、
「言っとくが、オレは幻覚なんかじゃねえぞ」
見かけに反した低い声でそれは喋った。
「あー…今聞こえたものが幻聴じゃないとしたら、今オレの目の前に見えているお前が喋ったのか?」
「そうだ」
「オレは精神科に行った方がいいのか?」
「そうするかどうかはお前の勝手だが、オレはこのティーポットの妖精としてここに居ることには変わりはねえぞ」
「そうか。……妖精?」
「ああ」
「お前が?」
「……ああ」
言いながら「それ」は背中を気にしだしたようだった。天使といえば白い翼、悪魔といえば蝙蝠のような翼、妖精といえば蝶のような羽根があるのが通説だが「それ」にはそのどれもがなく、ティーポットのそばにふわふわと浮いているだけだった。
「まあ、お前がそう言うならそうなんだろう。で、3つの願いを叶えてくれるのか?」
「そりゃあ魔人だろう。オレは美味い茶を淹れるくらいしかできねえよ」
「なら良かった。オレはこういうことには不勉強でな、せっかく良い物をもらったのに淹れ方が分からないんだ」
「……オレは、ここに居ていいのか?邪魔だったりしないか?オレ、ほとんど何もできねえし」
「何故だ?一人暮らしの辛気臭い部屋に明るさが増えた気分だ。むしろ歓迎するぞ。お前が悪戯妖精とかの類じゃないなら、の話だが」
「オレをあんな行儀の悪い奴らと一緒にすんな」
そういうのが存在するのは否定しないのか、と思いながら見ていると、妖精はティーポットと共にふわふわと湯沸しの傍に飛んでいった。それが傍目にも危なっかしくて思わず駆け寄る。
「何か手伝うことはないか?えーと…名前を聞いてなかったな」
「……アバッキオ」
少しの間の後にぽつりと呟かれた声は潤んでいるようだった。
「なんだお前、泣いてるのか?」
「泣いてねえよ!その、ちょっと、砂埃が目に入っただけだ!」
それはさっき洗い流したはずだけどな、とブチャラティは口に出さず心に留めておく。隠しきれていないくせに強がっているのだから、そこは見ない振りをするのが男の情けだと思ったからだ。



数分後差し出された紅茶は香り高く丁度良い温度で『美味い茶』ではあったが、少しだけ涙の混じった味がしていた。






ティーポットの妖精さん……チャットからいただいたネタの派生だったんですが、なんかこう、すいません。