SBR ウェカ+マジェ





ひゅうと凍てつく風がマジェントの黒いコートを撫で、静かな雪原にくしゅんと声が響く。やることがないから風邪を引きそうなのか、風邪を引きそうだから大人しくそりで蹲っているのか、どちらなのか彼にはわかっていなかったが、いずれにせよこの沈黙が退屈すぎて耐えられなくなったのは間違いなかった。
「飛行機があればよォ」
「またその話か」
仕事そっちのけで喋るマジェントをウェカピポは呆れた声音で遮る。ウェカピポ自身は標的を見つけ出すという任務を遂行中なのだから、それが遮られるのはありがたい話ではない。
「まぁ聞けって。飛行機があればあっという間にこんな場所に来れるだけじゃないんだぜ。空を飛べるんだ!人間が鳥みたいに空を飛ぶ!夢みたいな話じゃねえか」
聞けと言っておきながらマジェントは話の終着点を提示しないままぼんやりと空を眺めだした。なんとなくその視線を追えば、白く煙る息すら凍てつく氷点下35℃の寒空はすっきりと晴れてはいるが、鳥なんて影すら見当たらない。
さして長くもない付き合いでありながら、ウェカピポはとうにマジェントの夢見がちな性格を見抜いていた。何せスタンドに未来の名前をつけている男なのだ。仕事相手としては面倒だが、あんな生き方が出来れば人生も少しは楽しいんだろうかと微かに思った。



「そんなに空が好きか」
ウェカピポが珍しく話に乗ってきたことに、マジェントは少しだけ驚く。驚きはしたものの、退屈が紛れるならそれは歓迎すべきことだった。
「そーだなぁ。だって空は人類の夢だろ」
「…なら、そうだな、あのあたりにある崖の淵にでも立ってくればいい」
「は?」
「オレが後ろから思いっきり蹴飛ばしてやるから。そしたら少しは鳥の気分が味わえるだろう」
「ちょ、それ死ぬ!」
「なんのためにスタンドがあるんだ」
「少なくとも崖から落ちるためじゃねえよ!!」
憤慨してウェカピポの方を見れば、ほんの少しだけ口角が上がっていた。あまりの意外さにマジェントはぱちくりと瞬く。その一瞬の間で彼の表情は見慣れた仏頂面に戻っていて、さっきの笑顔は気のせいのように思えた。
「あんたでも冗談言うことがあるんだなァ」
頭に浮かんだことをそのまま言えば、ウェカピポは無言のまま心外そうにぎゅうと眉を顰めた。
「なんだよ」
「……なんでもない。少し無駄話が過ぎたな。移動するぞ、奴らはここには来ない」
「りょーかい」
2頭の馬の向こうに見えるウェカピポの背中を見ながらマジェントは思う。さっき見えた笑顔が幻覚ではないのなら、彼にも人間らしい感情があったんだ、と。その事実になんとなくほっとしていた。






登場シーンでもうちょっとウェカがマジェにやさしかったら、くらいのif設定で。対等っぽいのに保護者と被保護者っぽい関係が好きです。