ジョジョ4部 形(+)億
※時期的に形兆生存パラレルor杜王町に来る前という設定です





そういえばもう冷蔵庫がほぼ空だったっけ。そんなことを思いながら向かったスーパーの自動ドアが開いた瞬間、クリスマスのときのようなきらきらした装飾が視界に入る。不可解に思って目を凝らせば、英語に詳しくも無い億泰でも理解できる単語が見え、「またこの季節が来たか」とぱちくりとした。
そんなことを思うにはまた若すぎる歳ではあるが、引越しと転校を繰り返し季節感を失いかけていた億泰には丁度良い刺激でもあった。でも昔から交友関係がモテる男ばかりで疎外感を感じていたこともあって、憂鬱な季節でもあった。
それでも甘党な彼はそのキラキラした装飾に惹かれ――

「なんで買っちまったかなァ」
右手には買いだめた大量の食材が詰まった複数のビニール袋、左手には紙袋、その中には輝かんばかりに包装されたチョコ菓子。遺された学費や食費はあるものの無駄遣いは褒められたものではないと知っている分、億泰は深く深く溜息をついた。
誰に渡すわけでもないのに元から過剰包装されてるそれはなんとなく自分で開封するのは躊躇われ、結局行き場所を思いつかないまま家にたどり着いた億泰は、思考を放棄してダイニングテーブルの上に放置したまま家事にとりかかった。クラス委員の都合で形兆の帰りが遅くなるのは聞いていたから、この日の家事の担当は億泰だった。

「なんだ、これは」
億泰が思考を放棄したこと自体を思い出したのは、形兆にそう訊かれたときだった。形兆は自他共に認める几帳面故に、無駄遣いに厳しい。衝動買いしたとでも言おうものならバッドカンパニーに蜂の巣にされるのは必定だった。しかし下手に嘘を言おうものなら即座に見破られてやはり蜂の巣にされるので、状況はすでに詰んでるといえる。結局のとこと、正直に、しかしはぐらかすように喋るという選択肢を億泰は採った。
「えーっと、チョコ?」
「は?なんで……ああ、バレンタインか。貰ったのか」
「俺が貰えるわけねえじゃんよォ……自分で買ったんだよ。あ、夕飯食ったら一緒に食わねえ?デザートとしてさ」
「別に構わんが」
「よっしゃ!」
我ながら名案、とばかりに億泰は笑む。きらきらしい装飾にひとりで立ち向かうより二人のほうがよほど気が楽なように思えた。



「やっぱンまい!俺の目に狂いはなかったぜ!」
生チョコを口に入れた瞬間、雄たけびとともに謎のリアクションをとる億泰を形兆はやや呆れたように見つめる。
「そこまでか…?まあ、確かに悪くは無いが」
「だってこれ、超うめえよ!口に入れた瞬間香る甘い匂いと共にふわっととけr「あーハイハイ、感動は充分伝わってる。そんなに気に入ったなら俺のを半分やるぞ」
「マジで!サンキュ、兄貴!」
自分の分すら食べ終わってないのに形兆の分まで嬉々として手を付けながら、億泰ははたと思い当たる。確か形兆は甘いものが苦手じゃなかったかと。顔だけなら綺麗な部類をしている(と億泰は思っている)形兆がそれなりにモテないわけはなく、それなのにこの季節にチョコを持って返ってきたのをついぞ見たことはなかった。
それでも、ほぼ常に仏頂面な形兆が珍しく向かいの席で僅かに口元を緩めているのだから、きっとそれは記憶違いか思い違いだと思うことにした。いつも苦労を抱え込んでいる兄に何かを送ることが出来たのだと思えば億泰の笑みはより一層深くなった。






一度は書きたかった虹村兄弟。外見的にはベタベタしてないというかどちらかといえばドライだけど、心の底では思い合ってる感じが素敵だと思います。