ジョジョ3部 マジ赤×チャリオッツ (+ほんのりアヴポル風味)





スタンドの気配が遠い、とポルナレフは気づく。
意図的に遠くへやっているわけではないし、射程距離としてもそんなことはできない。しかし彼(スタンドにその代名詞を使うのが適当ならば)が彼自身の意思でもって行動する時はその縛りをたやすく超えられるらしい。生まれつきのスタンド使いであるのに、ポルナレフがそれを知ったのはつい最近だった。
チャリオッツが自我を持って行動するのを止めようとは考えてはいない。スタンドがもう1人の自分だというなら、無闇に束縛されるのはチャリオッツにとっても嫌な筈だからだ。それに何より、今日は酷く疲れていたのだ。軽く『帰れ』と念じてみても帰ってこないチャリオッツをうろうろと探す気にならなかった。
体が求めるままにベッドに倒れこめば、ジョセフが金にものを言わせて借りた上等なホテルの部屋のやわらかなベッドが癒すように体を受け止めた。



ポルナレフが眠りに落ちるか落ちないかのうつつに入ったころ、ふわりと熱が漂った。
違和感に意識を少しだけ浮上させれば、猛禽のような鋭い瞳とがちりと目が合い一瞬ぎょっとした。だがそれはすぐにマジシャンズレッドだと気づく。
彼もまた近距離型で、本体の意思では遠くまでは動けない。几帳面なところのあるアヴドゥルがスタンドをこうやって「遊ばせる」(とポルナレフは称している)ことがあるなんて意外で、そして少し嬉しかった。
マジシャンはポルナレフに更に近づいて覗き込み、すぐ離れてきょろきょろとし始めた。
「……どした?」
訊いてはみたが嘴は黙したまま動かない。ただ、少しだけ躊躇うような動作をしたあとに、熱すぎない温度でもってポルナレフの髪をそっと撫でた。
意図がつかめずにもう一度訊こうとする前に、来た時と同じようにふわりと遠のいた。そして扉を通過するように出て行こうとする瞬間、
「「……!!!」」
無言の驚きが伝わった。扉の傍でチャリオッツとマジシャンが出くわしたようだった。本体の意思の外で動いているものだから詳細な思考は分からないが、あふれるような喜びと嬉しさが雪崩れ込むように伝わってきた。どうやらお互いがお互いに用があって探していたらしい。抱きしめあっている姿が寝ぼけ眼の視界の隅に映った。

なんで同じ建物の狭い範囲でそんなすれ違っているんだ、とか
あの雪崩れ込んできた過剰なまでの歓喜の感情は一体何なのか、とか
優しく髪を撫でたあの仕草は結局何だったのか、とか
気になることや考えたいことは一瞬で降り積もった。しかし今は疲れと眠気が勝っていた。それに、その疑問をすぐには解決してはいけないと、直感が囁いていた。
「まあいいか」
自分に納得させるために小さく呟いて再び目を閉じる。チャリオッツを通して伝わってくる熱が、数日前に自分を焼き殺そうとしていたはずの熱が、なぜだか堪らなく心地よかった。






ポルが加入してちょっとしたころかな?
アヴポルを書くときは「熱」というものをなんとなく意識するんですが、銀が金属の中で一番熱伝導率がいいと聞いてなんか滾りました。