ジョジョ5部 ブチャアバ 死臭が濃い。 憔悴しきっているのを隠し切れないブチャラティが帰って来たとき、一番最初に感じたのがそれだった。 ふらりと入ってきて、ふらりとアバッキオの隣に座す。他のメンバーの前でなら気丈に何事も無かったように振舞うブチャラティが、アバッキオ一人しかいないとはいえアジトでふらついているということは、それだけ疲れているということだった。 「おつかれさん」 そういえば、さらに力を抜いたように大きく息をついたあとアバッキオに寄りかかった。 「どうした、とかは言わないんだな」 「凡そは予測がつくからな」 「そういうもんか」 卒業したての新人警官とベテランの警官とでは纏う雰囲気がまるで違うのをアバッキオは知っている。その要因のひとつが、どれだけ洗っても完全には消えない『死臭』だということも知っていた。この世界に堕ちてからは皆が多少の差はあれど纏っていたものだけに、久々に思い出す感覚でもあった。 「ああ、そういうもんだ。言いたければ言えばいい、言いたくなければ言わなければいい」 「そうか」 そしてまたひとつ大きく息をつく。 「覚悟はとうに決めたつもりだった。刃向かう者に容赦なんてしないつもりだった。でも……彼らが生きてきた数十年をこの手で終わらせると思うと、心が沈むのを止められやしないな」 反組織勢力の始末でも任されたのだろう、とアバッキオは推測する。だいたいの場合はそういう輩の抹殺というのは専門のチームがやるはずなのだが、今回ブチャラティにそれが任されたということはそうすることに何かしらの意味があったのだろう。たかが1チームの構成員でしかない彼には推測することしかできないし、詮索する気も無かった。 「それで、あんたは俺にどうしてほしい」 訊けば、察しろよと言うようにブチャラティが軽く睨んだ。 「俺はあんたのためならなんでもやってやるよ」 「そうだな……傍にいてくれればいい。俺が此処に生きていて、お前が隣で生きている、それが確認できればいい」 そう言ってブチャラティはアバッキオの肩に寄りかかる。 「随分と無欲なことで」 「いいだろ、別に」 「まあな」 そしてアバッキオは少し抱えなおすような仕草をし、すぐにブチャラティの耳元にやわらかな熱とゴウという音が伝わった。アバッキオが片腕でブチャラティの頭を抱えるようにして片耳を塞いでいた。 「この音が聞こえるか」 「ああ」 「これが『生きている』音だ。俺が生きてこの音をたてて、あんたが生きてこの音を聞いている」 「ああ」 「あんたが求めた答えになったか」 数瞬の後に小さく頷く振動があった。 どれくらいの間そうしていただろうか。腕にかかる重みが増したのに気づきアバッキオが視線をそちらに向ければ、穏やかに眠る顔がそこにあった。 「いくら疲れてたって、こんな場所で寝なくてもいいだろうが」 呟く言葉は相手には伝わらないが、別に伝えたい言葉でもなかった。 死の匂いが付きやすく拭いがたいのをアバッキオは知っている。それが決して心地よいものでないのもまた知っていた。 死の匂いを生きた音で少しでも掻き消せたら、少しでも意識の外に追いやることができたら、と思う。それができたかを答える人は静かな寝息を立てるだけで沈黙を守っているが、緩やかに笑んだ口元をその答えとすることにした。 タイトル拝借元:創作者さんに50未満のお題 何故だかのこの二人には「ソファで隣に座ってる」というイメージがあります。 カップリングのつもりで書いたのに、雰囲気薄いなぁ…。 |