ジョジョ3部 アヴポル





「お前は然る場所へ行かなくてもいいのか、ポルナレフ」
隣に座る人が怪訝に問うのを、ポルナレフはとうとう来たかという心持で苦く聞いた。いつか訊かれるだろうとは思っていた。
「あー……もうちょっと後かなぁ」
「何故だ?あちらにはお前を待つ人たちが居るんだろう」
「確かにそうなんだけどさ、しばらくはこうしてたいんだよ」
にっ、と笑顔を見せて手を握れば、アヴドゥルは困ったような、でも嬉しいような複雑な顔を見せた。それだけでごまかされてくれれば助かるのに、という考えに反して恋人は更に突っ込んだことを訊く。
「何か、理由があるのか?」
「……無い訳じゃねえけどさ」
人を見つめ導いてきた黒曜の瞳にまっすぐ見つめられると、きっとその場限りの嘘なんかすぐにばれる気がしてきてポルナレフは落ち着かない。本当に隣に座っててもいいのかとすら思えてくるのは、偏に心に隠し事を抱えているからだ。
「何も一人で行けというわけじゃあない、私も共に行こうと言っている」
「ん、ありがとな」
でもきっと一緒には行けねえよ、という言葉は心に留めておく。かつて浅慮だ馬鹿だと散々言われたことのあるポルナレフとて、それくらいの知恵は持っているつもりだった。



ポルナレフは死の世界というものを知らない。ポルナレフに限らずともこの世の殆どの人はそれを知らないはずだ。ただ、死後に行く場所はきっと善人と悪人とでは違うのだろうと思っていた。そうでなければ、正しく生きたシェリーと極悪人である仇敵が同じ場所に行くことになってしまう。三年の放浪を経て得た結果がそれじゃああまりにもやりきれない。
ポルナレフが善人か悪人か、自身でそれを考えたとき、後者だろうなという自覚があった。仇敵を討ったということは人を殺したということだ。更に仇敵以外も手にかけた。いかなる理由があろうと、複数の人間を殺した者が善人に括られるとは思わなかった。
人を殺す旅に出るという覚悟はあった。そのときの覚悟はそれだけだった。地獄に堕ちる覚悟も、耐える覚悟もなかった。
復讐の旅もDIO討伐の旅も後悔をしたことなど一片たりとも無い。ただ、十年以上の孤独に耐えて、死した後も現世に居るという奇妙な現実の今、そこから先へ踏み出すには恐怖しかなかった。長い孤独から救われたのに、仲間も家族も居ない永劫の孤独へ踏み出す勇気が出なかった。



俺も随分弱くなったもんだな、という言葉も心に留める。しかし知らずのうちに眉間がぎゅうと寄った。
「どうした?」
「なんでも、ねえよ」
言いながらも力が抜けることはなく、白い手が褐色の手を握り締めた。ポルナレフの目にはそれが、清らかな手に血まみれの手が縋り付いているように見えた。






3部作中で「人間」を「殺して」るクルセイダーズはポルだけなんだと思ったら、どうしてこうなった的な亀の中パラレルでした。
話の展開的には『雪の温度』と対っぽくみえれば。