ジョジョ5部 ブチャアバ





誰かが美味しそうに食事する顔は良いものだ、と思った瞬間、そのあまりにも母親じみた感情にアバッキオは苦笑した。しかし、そんな感慨が沸き起こるのも無理はないほどブチャラティの笑顔は幸せそうで、多くを語られなくともそれだけで作り手冥利に尽きるものだった。

「オレ、このパスタ好きだな」
そう言われて、そうか、と返したとき、はたと思い当たる。
「ブチャラティ、あんた南側<こっち>の生まれじゃなかったか?」
「そうだが……それがどうかしたか?」
「南の人間は『アルデンテじゃねえパスタはパスタじゃねえ』って言うもんだと思ってた。っていうか言われた」
言ったのは学生時代の友人だったか警官時代の同僚だったか、と思い返しながらアバッキオは食べかけの皿をフォークで軽くつつく。今回作ったのは生パスタのカルボナーラだ。北の方の生まれであるアバッキオは乾麺よりもこちらの方がなじみがあるためよく作る。どちらかと言えば、の話ではあるが。
「言われて見れば確かに昔は硬いパスタをよく食べてたが気がするが、なんだろう……こっちの方が落ち着くんだ」
「ふうん」
普通故郷の味は忘れないもんだと思うがな、と思いながら流しかけて、唐突にひとつの可能性に行き当たった。
(もしかして、無意識のうちに餌付けしてたのか……?)
いやいや、と脳内で即座に否定しつつ、可能性は捨てきれないと思うくらいに手料理を振舞う回数は多かった。「男は胃袋で釣れ」という言葉は聞いたことがあるが、スパゲティで餌付けとか、何処かの誰かではあるまいし。

「じゃあ、今度ブチャラティの故郷の味を食わせてくれよ」
「なんで?お前が作った方が美味いじゃないか」
「あんたのことをもっと知りたいんだよ。――まあ、嫌ならいいんだが」
「そういう言い方をされて断るわけがないだろ。……でも、不味くなっても知らないからな」
「それもまた一興だ」
「そういうもんか」
「そういうもんだ」
好きなヤツの手料理なら不味くても焦げてても食うもんだろ、と続けかけて、やめる。言った方がきっと彼は喜ぶのだろうけど、どうにも気障な気がして口にした瞬間羞恥で死ねそうな気がしたからだ。
にこにことパスタを食べるブチャラティを眺めながら、フォークにくるりと繰る。こんな些細なことで相互理解ができるなら安いものだと思う。そしてそれをしたいと思う己の心境の変化に驚き、それをパスタと共に嚥下した。






なんで自分が書くブチャアバは、だべってるか飯食ってるかなんでしょうかね… (この二人に限った話ではないけど)美味しそうな名前してるからですかね。
南北差の話書いておいてあれですが、ヘタリアファンのくせにイタリア文化詳しくありません。