確恋02「僕は恋の素人だから」
ヘタリア 独伊独





「オツキアイ」を始めてからドイツが本をよく読んでいる姿を目にするようになった、とイタリアは思う。前から良く本を読む人だったが、今の食い入るように読む姿は、ちょっと妬ける。
だからそれはほんの些細な出来心であり悪戯心だった。

読んでる真っ最中を邪魔するのは狙撃手の潜む平原に単身躍り出るようなものだ。
作戦決行時間は深夜、どうせ一切の物音を立てずに目的の物を探し出すなんて無理なのだから捜索個所は1点に絞って、つまりはドイツの寝室に忍び込み――これができるのはどうやらイタリアだけらしいということが彼の独占欲を少し満足させる――、勤勉なドイツが寝る直前まで読んでいて枕元に置いてあるであろうその本を、隠す。
それを作戦と呼ぶにはあまりにぼんやりとしすぎていてドイツに怒られそうなものなのだが、どうせ決行人員はイタリア一人なのだから気にしなかった。ついでに寝る準備もしっかり整えてドイツのベッドにもぐりこみ枕元を探せば、案の定それはベッドライトの傍に鎮座していた。
あまりに簡単に始終が終わったことに返って不安を覚えるなんてことは一切なく、しばしの間だけライバルだった本の正体を確かめるべくベッドから少し離れ持参したペンライトをかざした。
「あれ……これって…」



ジリリリリリ…
目覚ましのベルとほぼ同時に起き出すと、ドイツはすぐそばにイタリアが、それも珍しいことに目を覚ました状態で居ることに気付いた。
「Buona mattina、ドイツ」
「あ?ああ、Guter Morgen…何をしている?」
「へへへ、ちょっとねー」
イタリアが少しばかり意地の悪い笑顔でもって読んでいた本をちらりと見せると、ドイツの顔色がさっと変わった。
「お前っ…!なぜそれを」
「ドイツが熱心に何を勉強してるのかと思ってさ、『イタリア人との付き合い方 恋人編』だなんてびっくりしちゃった」
「それは……」
「なんでもマニュアルをきっちり読破しようとするのはドイツのいいとこだと思うけど、こういうのまでそれに則ろうとするのはどうかと思うよ?この本結構間違いだらけだし」
「少し言い訳をさせてくれ。俺は…お前相手に言うのも恥ずかしいんだが、その、誰かと恋人同士とか恋愛感情だとか、そういった方向は初めてだし不慣れなんだ。それに比べてお前は軟派というか、手慣れてて、だから俺があまりに子供すぎて馬鹿にされないかとか、要するに、嫌われたくなかったんだ……」
たどたどしく言葉を紡ぐたびに声は小さくなり斜め下方に視線は逸らされ、ドイツの顔は首の根元まで真っ赤になっていた。その様子がたまらなく愛しくて、イタリアはドイツにタックルをかますように抱きついた。
「イタリアぁ!?」
「もう!そんなこと考えなくてもいいのに!だって俺も童貞なんだもん、まじめなおつきあいなんてドイツが初めてだよ」
「そ、そうか」
「だから、ドイツは俺をいっぱい愛してくれればいいし、俺の愛を受け止めてくれればいいから!そんでわかんないとこはお互いこれから知っていこう?」
「……そうだな」
お互い視線を交わらせて同時にゆるりと笑む。それだけで安心できる何かがあった。
「その第1歩としてー、俺といるときは他のもの見ちゃだめっていうのとぉー、いっしょに……」
段々語尾が伸びてイタリアの体から力が抜けていく。
「なんだ、眠いのか」
「うん。珍しく徹夜しちゃったからぁー…」
そこで言葉が途切れ、軽くゆすっても起きる気配は無かった。
「まったく……もう少し聞きたいこともあったんだがな」
朝にやるべきことがドイツの脳裏をかすめもしたが、『俺といるときは他のもの見ちゃだめ』という言葉通りに、再び眠りに落ちるまでの間愛する人の寝顔を見つめることにした。






すれ違いばっかり書いてたので久々に甘いのを。
「イタリア人との付き合い方 兄弟編」があるなら他のバージョンもあるはずだ。