確恋03「忘れられない味が、また増えちゃったね」
ヘタリア 伊独





「イタリア、1日遅れたがHerzlichen Gluckwunsch zum Geburtstag」
何気ない夕食の後にテーブルに出されたのはホールケーキ、しかもポップな飾りやかわいらしい装飾のされた手作りのバースデーケーキだった。ドイツが顔や体躯に似合わず可愛いもの好きでお菓子作りが趣味なのはあまり知る人の多くない事実であるが、知ってさえいればそのデザートの制作風景を想像できて、嬉しさ以外でも頬が緩む。
「ありがとうドイツ!すっごい嬉しい!食べていい?」
「待ってろ、今切り分けるから。――ほら」
「へへへー。じゃあいただきまーす」
きれいに皿に盛られたケーキにフォークを刺すと柔らかな感触を伴ってさくりと沈む。口に含めばフルーツとパンケーキの爽やかな甘みが広がって、家庭の菓子らしい味が言いようのない安心感を与えた。
「うん、美味しい!ありがとう!俺の誕生日忘れられちゃったと思ってたからびっくりしたよ」
「忘れる訳ないじゃないか、お前の特別な日を。昨日は誕生日、と言っても統一記念日だろう。兄弟二人で過ごすと思って一応気を使ったつもりなんだが」
ロマーノはドイツに会う度に罵声を浴びせかけたり地味な嫌がらせをしたりする、ということを思い出してイタリアはにやっと笑った。
「別に兄ちゃんがいるからとか気にしなくてよかったのにー。本当に嫌がってたら逃げるか隠れるかするから、口で言うほどドイツのこと嫌ってないんじゃないかな」
「そ、そうか。だったらケーキの残りはお前の兄にも包んでおく」
「分かった!兄ちゃんにも忘れられない味になると思うよ」
「なんだ、お前たちの『忘れられない味』はボロネーゼじゃなかったのか」
「えーっとね、昔にくれたヴルストのあの味が忘れられないんだ 」
思いがけない返答をされて理解の追いついてないドイツにイタリアは言う。
「もちろんボロネーゼもピッツァもカルボナーラも大好きなだけど、昔ずっと友達だって約束したときに青空の下で食べたヴルストがあったでしょ?あれも俺の中ではずっと思い出に残ってる味なんだぁ」
鋼鉄協約のときにそのようなことがあったな、とドイツは思い返していた。確かにそのときはとっておいた一番いいヴルストを持っていったしイタリアもおいしいと言っていたが、舌の肥えたイタリアに「忘れられない」などと言われるとは思っていなかったし、聞かされるとひどく恥かしい気分がした。
「……その記憶力をもっと別のことに活かせないのか」
「俺の記憶力は好きなことにしか向かないから無理だぁ。俺が覚えてられるのは料理とー、芸術とー、ファッションも好きだしー、あとドイツ!」
「ん?」
「ドイツのことならなんでも覚えてられるよ!」
なんでそんなことを冗談でもなく言えるのかとか、だったら教えたことも覚えていろとか、それは脳の容量を無駄遣いしているんじゃないかとか、説教じみた言いたいことは沢山あったがドイツは口を噤んだ。一日遅れているとはいえこの場は祝いの場であるし、なによりイタリアの言葉がどうしようもなく嬉しく思えたからだ。だから。
「Danke」
それだけを言って幸せに満ちた彼の頭を撫でた。






イタ誕3日後くらいに日記に上げたブツ。
実際のところドイツの料理の腕ってどれくらいのもんなんだろう。