ジョジョ3部 アヴポル





「例えばさ、俺がもう一人現れたらどうする?」
「……どういうことだ?」
恋人の唐突な質問にアヴドゥルは呆れたように訊ねる。
「魔法のランプで、『ポルナレフの無鉄砲なとこや考え無しなとこが直りますように』って願ったら、そんな感じの俺がもう一人現れた、みたいな」
「それはまた、斜め上な解決の仕方だな」
アヴドゥルは笑いながら、質問に質問で返す。
「お前は『短気じゃなくて口煩くない』私が目の前に現れたらどうするんだ?」
「俺?俺は…」
ソファで熟考するポルナレフをアヴドゥルは意地悪い笑みでもって見守る。
「俺は……五月蝿くないほうを選ぶと思う。んで、しばらくしたら「これはアヴドゥルじゃねえ」って後悔する。そんな気がする」
「そうか」
『今居る自分』ではないという選択をされながらもアヴドゥルは笑顔のままポルナレフの様子を見守っていた。それに気分を害したポルナレフは些か不機嫌に睨み返し本題に戻った。
「で、あんたはどうなんだよ?」
「私は…そうだな。なんだかんだでお前を諌めるのは性に合ってる気はしていたんだ」
「まじで?」
「ああ。だから聞き分けのいいお前が現れても、今の欠点だらけのポルナレフの方を選ぶだろうな」
「へえ」
ポルナレフは嬉しさと憤りを綯い交ぜにしたような顔で相槌を打った。
「それもこれも、完全に在り得ない話だから言える事だ。それともお前は昔の傷を掘り起こす趣味でもあるのか?」
「そんなわけあるかよ!」
ポルナレフが本気でキレかかる寸前、上方からノックのような音がし、声がかかった。
「ポルナレフさん、アヴドゥルさん、今マフィンが焼きあがったんですけどどうですか?」
菓子と聞いてたちまち目が輝くアヴドゥルは、だいたいのアラブ人がそうであるように大の甘党だ。それを見てポルナレフは聞こえるようにいらえを返す。
「2人分貰おう。甘い紅茶もつけてくれると嬉しい」
「分かりました。少ししたら持って行きますね」
ジョルノの気配が去ったあと、アヴドゥルがぼそっと感心したように呟く。
「彼らにそういう口調と態度をとってると、お前が賢くなったように見えるから不思議だ」
「『見える』ってなんだよ。歳だってとれば賢くなるだろ」
「ほら、馬鹿は死んでも直らないっていうじゃないか」
「馬鹿じゃねーよ!」
「さっき、後悔するような選択をする気がするって言ったのはお前自身だろう」
「ぐっ…――ああ、でも無鉄砲で考えなしで馬鹿で叱り甲斐のある俺が好きなんだっけ?」
ポルナレフは口角を吊り上げるように皮肉げに笑って見せれば、アヴドゥルは物凄く不本意そうに同意する。
「そこまでは言っていないが、まあ、否定はしない」
表情とは裏腹な言葉に暫しの沈黙が落ちてから、
「俺も、堅物なくせに激情家で短気で口煩いのが死んでも直らないあんたが好きだぜ」
「それはそれは、恐悦の至り」
「あんたのそれ、もしかして口癖か?」
そんなやりとりの後に、再び上部からノックが聞こえた。

趣味のいい調度品に心地よい日当たり。美味しい菓子と好みの紅茶。それと時々騒がしい来客。現世にある彼岸は随分と庶民的且つ居心地のいい場所だ。
そんな場所に幽霊がふたり。
「「死んでも直らない馬鹿と堅物の楽しい『死後』に乾杯!」」






というわけで亀の中パラレルでした。
『魔法使いサラバント』(SoundHorizon)を発想元にしたはずなのに面影がランプのみという暴挙。上記の曲がアヴポルに聞こえたらSKYと同じ病気です。