ペルソナ4 主→完





俺は馬鹿だ。大馬鹿者だ。
人を助けようが街を救おうが、所詮ただの馬鹿ひとりだったんだ。

明日都会に帰るから今日が最後だってことに甘えて、ずっと抱えてた想いを最後だからって理由で吐き出してしまいたくて、俺の言う事ならほとんど盲目に快諾してくれるあいつを連れ出して。「お前の優しさに今日だけ甘えさせて」と言ったらきょとんとした後に笑顔を見せてくれて、やっぱりこいつが好きだなあなんて再確認したりして。

「ずっとずっと好きでした」
俺がそう言った直後、少し高いところにある薄い色の双眸がくるりと丸くなって、数瞬の沈黙。
だめだったんだ、と悟った瞬間背筋が凍って、気がついたらあいつを置き去りにして全力で走り去っていた。

俺は一体何を期待していたんだろう。あいつが直斗を好きらしいってことなんかずっと前から知ってたはずのに。いい答えなんて返ってくるはずないって知ってたはずなのに。本当に恋ってやつは人を盲目にさせるんだ。そんな簡単な事にさえ気付かなくなるなんて。
走る事にだけ夢中になりたいのに後悔だけがぐるぐると頭を駆け巡って、それを振り払いたくて、部活で鳴らした健脚を更に加速させ――

ようとした瞬間、腕を引かれて体がバランスを崩す。
「うおあっ?!」
「あぶねっ!」
転びかけた体は勢いのままにに受け止められて、俺には傷ひとつないが、後ろから痛そうなうめき声が聞こえた。それが完二だと気付いてまた駆け出そうとしたが、鈍器を軽々振り回す腕に後ろからがっちりホールドされて立ち上がることすらできはしない。座ったままぬいぐるみみたいに抱えられて、気恥ずかしいやら嬉しいやら青ざめたくなるやらで訳が分からない。
「もう逃がさねえっスよ」
「逃がしてくれよ…だいたいなんで追いつい――」
言いかけて、すぐ理由に気付く。リーチの差か。俺だって身長は平均以上あるけど、完二には敵わない。頭のてっぺんから足の先、心の奥底にかかえてるものまで全部大好きだけど、ここだけがちょっと憎たらしい。
「なんで言い逃げみたいなことするんスか」
「振られた相手の前にずっと居られるほど俺の心は強くありません」
「振られた…って、俺まだ何も言ってねーし……。ってかやっぱりそういう意味での『好き』だったんスね」
「この期に及んで嘘だとか冗談だとかであんなん言えないって」
「だって俺、あの『影』のせいでヘンなからかわれ方するじゃないスか」
俺のせいで妙なこと思い出させてほんとすいません。
「だから、理解と感情が追いついてなかったっていうか……。俺からの返事、言ってもいいですか」
「……うん」
叩っ斬られる覚悟はできた。介錯は頼む。俺が死んだ眼でそんなことを考えてるとも知らず、完二はぽつぽつと考え考え喋りだした。
「正直、そういう意味での好きとか嫌いとか、よくわかんねえっす。でも、いろんな人の悩み聞いてあげたり支えになってあげたりしてる先輩が、さっき『今日だけ甘えさせて』って言ってくれたときすっげー嬉しかったんス。先輩の支えになれるんだ、って。先輩の後ろや下じゃなくて、横に並んで立っていいんだ、って。でっけーもん倒した後でスゲー今更スけど。だから――」
後ろで完二が大きく息を吸う。ホールドする腕が強張ったのが分かった。
「これからずっと先輩を支えさせてください」
そこからまた沈黙が落ちる。風が土手の草むらをさわさわと揺する音だけが聞こえた。
「先輩、何か言ってくださいよ」
「えっと、俺も理解と感情が追いついてないっていうか……」
もしかして俺は、俺がした不恰好な告白よりもずっとかっこいい告白をされたんじゃないだろうか。
「俺は、OKをもらえたってことでいいの?」
「……はい」
「遠距離恋愛になっちゃうけど、大丈夫?」
「……はい」
「ほんとに?」
「……はい」
だんだんと完二の声が小さくなる。それは悩んでるとか拒否じゃなくて、今更照れが来たからだというのは雰囲気で分かった。そして俺の肩口にぼすんと頭が押し付けられた。照れが極まったらしい。
きっと耳の先まで真っ赤になってとっても可愛いことになっているだろうけど、ホールドされているせいで見えない。言葉にできないくらい嬉しさでいっぱいなのに、それだけが物凄く悔しくて、でも「クールでかっこいい先輩」ぶってた俺だって真っ赤になってるのは見られたくないから、お互いの顔の熱が冷めるまでしばらくそうしていた。






都会に帰る前日の挨拶回りにて。
1週目、完二をパーティーからはずしたことないくらい溺愛してたのに完二の口調がいまいち把握できてません。