BASARA 政小+慶次





装飾の美しい煙管をくるりと弄びながら、天下人の有力候補である竜は言う。
「恋ひとつで天下が泰平になるんだったら俺ァお役御免で食いっぱぐれちまうな」
慶次の持論を政宗は鼻で笑った。言われ慣れている言葉なだけに、慶次は苦笑で返す。
「理想論だって分かっちゃいるけど、なかなか賛同してくれる人はいないもんだ」
「戦の無い世は俺も望むところではあるが、アンタと違って俺は、国を治める難しさも人を恋うことの醜さも十分知ってんだよ」
最後の一言だけは聞き逃せなくて、慶次はキッと目つきを鋭くし少しだけ喧嘩腰になった。
「恋が醜いってどういうことだい!」
「ふわふわして甘ったるいガキの初恋みたいなモンだけが恋だと思ってるんなら、その認識を改めるべきだな」
そういうものだと信じているだけに、慶次はぐうっと言葉に詰まった。人を想うというのはきらきらしてあったかくて幸せになれる、そういうものじゃあないのか。少なくとも今まで経験したものも見てきたものも皆そうだったし、それを子供みたいだと揶揄されるのは心外だった。
反論したいのは山々だがあの独眼竜の恋愛論などという珍しいものも聞いてみたくて言葉に迷っていると、政宗がほとんど独り言のようにぽつりと喋った。
「愛しくて守りたい思っているのに、同時にこの手で壊したくなる。大切に思われてるのに、同じだけのものを返せない。そういう愛し方しか、俺は知らねえよ」
煙管の中身が燃え尽きているのにも気づかぬ様子で、政宗は物思わしげに怜悧な隻眼を瞼に閉ざした。その頬は確かに乾いていたのに、慶次にはなぜかその貌が静かに泣いているように見えた。



振るっていた刀を収めながら、竜の右目の異名を持つ男は言う。
「恋ひとつで天下が泰平になるんだったら、俺ァそんな世には生きられねえな」
想定することすら馬鹿馬鹿しげに小十郎が言えば、慶次はぱちくりと瞬いた。
「政宗と同じような事を言うんだねぇ。さすが双竜の片割れ、ってところかい?」
「そんな御大層なもんじゃねえ。――そんな世になったら、俺のこの刃は本当に人を殺すためだけに殺す凶器になる、そういうことだ」
「なな、なんだってそんな血生臭いことになるのさ!」
世にも稀な竜の右目の恋愛談義を拝聴しようとしていたら唐突に物騒な話になって、慶次はびくりと身を震わせた。
「想う心が綺麗な思い出のままで止まってくれればいい。想いの濃度が浅瀬のように澄んで見える深さであればいい。だが俺はそういう想い方はできねえ。枷になるような想い方しか」
そう言って小十郎は慶次を睨みつけるようにして問う。
「テメェは相手を想い過ぎて嫉妬に狂ったことはあるか?想う人が自分だけしか見えないように、その他の者共を全て斬り殺しても構わないほどの。 武人としての誓いから放たれた俺ってのは、そういうことができちまう狂ったバケモノだ」
吐き捨てるように語って、小十郎は黒龍の鞘をじっと見つめた。鞘の中に収められた誓いの言葉を透かして見、理性の楔を穿っているのだろうということは、彼の内情を深くは知らない慶次にも見て取れた。



あの二人は深く深く想い合っているのだろう。話を聞く前から薄く察していたことは、聞いたことで確信に変わった。しかしだからと言って慶次にはどうすることもできない。想い合った二人は、一歩でも踏み外せば共依存の果てに潰れてしまうのだということは、慶次にも二人自身にも分かっていたからだ。一思いに踏み出して潰れてしまえるほど、彼らの肩にかかった『奥州』という重責は軽くない。
はぁ、と慶次は深く息を吐いた。恋の話を聞いてここまで鬱々とした気分になったのは初めてだった。
これからも慶次は恋の大切さを説いていくだろう。ただそれで皆が皆幸せになれるわけではないかもしれない、ということを少しだけ考えることにした。






ヤンデレ×ヤンデレ(双方自覚あり)を考えてみたら、慶次の「恋を成就させる程度の能力」(適当)をもってしてもドン詰まりになった。
もっと男前だったりオトメンだったりするこじゅも大好きなのに、3の追い腹を見て以来なんかヤンデレのイメージが先行しちゃいます。