刀剣乱舞 にか石かり





「石切丸って、背丈相応に大きくて太いのかと思っていたけど、意外とそうでもないよね。……腕の話だよ?」
「思わせぶりに不名誉なこと言わないでもらえるかな!――で、腕がなんだって?」
「戦場ではあんなに頼もしく見える腕や背中も、脱いでしまうと細いよね、という話さ。そういえば内番服のときも随分となで肩だったね」
「そうかい?外から見た自分の姿なんて分かりっこないから自覚がないけれど」
「へえ……君のカラダにどんな秘密があるんだろうね?すごく興味があるよ」
そう言って青江は、寝間着である浴衣の上から石切丸の肩から腕をすすっと撫でた。
「じゃあそれも『三条七不思議』のひとつに加えておいてくれないか」
自分も知らない自分の謎を不思議がられても困るのでやや投げやり気味にそう言えば、青江の表情がいつもの笑みの形のまま若干強ばった。
「初めて聞く言葉だね……。学校の七不思議とかなら幽霊も怪異も叩き斬ってさしあげようかと思えるけど、『三条七不思議』なんて、深入りしたら祟られそうだ」
「退魔の刀である君までそんなこと言わないでくれないかな」

曰く、それはこの本丸の審神者や一部のノリのいい刀剣たちが言い出したことで、マイペースで胡散臭いのが揃った三条派に対して訊きたいけどなんとなく訊けない疑問を総称して、『三条七不思議』と呼んでいるのだそうだ。
「小狐丸の左右の毛ハネは髪なのか獣耳なのか」とか「非実在刀剣の付喪神って一体何なのか」とか「なぜ三条は真剣必殺のときしか本気を出さないのか」などがそれにあたるらしい。

「なんていうか、心底くだらないものから彼らの闇に触れるものまでの落差が凄まじいね」
「所詮謎や所感の寄せ集めだからね。――というか、真剣必殺の件に関しては、本気だの遊びだのと言っているのは他の4人なんだから私をそこに含めないで欲しいんだけどな。私はいつだって本気で戦っているのに」
「わざわざ出陣前に始め出す加持祈祷と、鈍足のくせして走る気のない草履をどうにかしてから言ってくれないかな」
そこをつつかれると苦しい石切丸はうっと声を詰まらせて、それでもなお、他の面子よりはまともな方だと思う、とぶつぶつ言っていた。
きっとそれは5人全員が「他の面子よりマシ」と思ってるんだろうなあと青江は思ったが口にはしなかった。本物の天然は自分が天然であると自覚してないのと同じ原理だ。

石切丸はいささか気落ちしたような様子で枕に顔を埋める。御神刀としてずっと慕われてきた彼にとって、理解しがたいものや恐怖の対象だと認識されていることが受け入れがたいのだろう。
そんな彼を前に、正面きって「祟られそう」などと軽々しく言ってしまったことに少しばかりの後悔をした青江は、石切丸の頭をそっと撫でる。宥めるように慰めるように。
「主も他の皆も、本当に三条派を怖がってそんなこと言ってる訳ないって、君も気付いてるんだろう?きっと、ちょっとした言葉遊びみたいなものだよ」
「そうかな……?じゃあ、そろそろ一緒に三条に挨拶しにきてくれるかい」
「いや、それはちょっと」
青江の口からとっさに出た否定の言葉に、石切丸はショックを隠しきれず、より深く顔を枕に埋めた。
今の台詞が悪手だったと、青江も認識してはいる。だがそれはどうしようもなかった。
魑魅魍魎の時代に生きた不可思議なあの面々を相手に、「息子さん(?)を僕にください」と言える度胸は青江にはなかった。
怪談には滅法強い幽霊斬りの青江とて、怖いものはあるのだ。






和ホラーが似合うラスボス臭漂う三条も好きですが、マイペースジジイ集団な三条も大好きです
三条の怖さは多分青江の得意分野とは45度くらい離れてる。