刀剣乱舞 石(かり)+女審神者
※女審神者が出張ってます





審神者はモニターを見つめながら唸る。
「むっちゃん以外の打刀を育ててないことがこんなことで弊害になろうとは……」
そして今使われていない刀装の種類と数を数えて、眉根を顰めた。
「うーむ、加州もへしべも遠征中だし、歌仙は出陣かー……今日の近侍って誰だったっけ」
この本丸の近侍は持ち回り制である。自分で書いた書類の内容もろくに覚えていない審神者は、数日前書いた一覧表を探り当てた後、にわかに瞳をきらめかせた。
「パパー、いるー?」
審神者部屋から顔をのぞかせて呼べば、丁度お八つの茶と茶菓子を二人分持った石切丸があらわれた。
「はいはい、今ここに。どうかしたかい?」
その盆の上のものに誘われるように縁側まで這い出た審神者は、お茶を一口すすってほうと息を吐いた。
「お茶してからでいいんだけどさ、あとで刀装作ってくんない?」
「どの種類が欲しいんだい」
「投石兵。品質は問わないけど、当然より高い方・より多い方がいい」
「承知したよ」
「レシピ覚えてる?」
「50/150/50/50でよかったかな」
「そうそう。それでよろしく」



「パパぁー……投石兵、って言ったよね?」
「うん……」
「これ、なに」
床には刀装がいくつも転がっている。金銀のものが多いのは流石といえたが、その中に投石兵のものはほとんどない。約半分が弓兵、3割軽騎兵、2割弱が軽歩兵で、投石兵は残りのひとつふたつ、といった有様だった。
「確かに弓兵も消耗品だし要るよ?だけど私は検非違使狩り用の打刀投石部隊作りたかったんだよぉー」
「ああ、そのための投石兵だったんだね」
「パパが玉鋼使いきっちゃったから他の子に頼むことも出来ないじゃんかぁー」
審神者が四つん這いになってうなだれていると、それをなだめるように石切丸はその頭を撫でたが、逆効果だったようでギリリと睨まれた。
「すまない……」
「パパの下心のせいで資材が溶けたぁー」
「それは言いがかりとうものではないかな?!」
「じゃあ刀装作ってるとき何考えてたか正直に言ってみてよ」
「ええっ?!あー……出陣してるみんなは無事かな、とか、この装備が皆を守ってくれるように祈願したり、とかかな」
まっとうな言葉を述べてはいるが、石切丸の視線がそわそわと出陣ゲートの方に向いたのを審神者は見逃さなかった。隠蔽値の低さをこんなところで発揮しなくても、と彼女は思う。
「嘘は言ってないけど本当のことも言ってないよね、それ。正・直・に、言いなさい?」
「……青江は無事かな、とか、また怪我してないかな、とか」
「やっぱり!」
「何で私は京都行けないんだろう、とか、今剣に頼んで代わってもらえないだろうか、とか」
「そんなこと考えてたのか!大太刀は夜戦苦手なんだし怪我したら資材めっちゃ消費するからやめてね!」
「昼間は私が出陣してるし、帰ってきたら丁度青江が京都に行く頃合いだし、早く帰って来たかと思えば大怪我して手入れ部屋に籠ってるし……青江分が不足してるんだよ、切実に……」
「パパにとって青江ってシュークリーム分だったの?」
審神者のツッコミが耳に入っていない石切丸は、溜息をついてうずくまってしまった。その姿は萌黄色の狩衣と白い袴のせいで、大きなずんだもちのように見える。
ずんだもちと化した御神刀がどうにも哀れに思えて、彼女は気を持ちなおした。
「ええっと?結局この惨状は――」
「三条?」
「違う。惨状の原因は、巡り巡って出陣予定を組んだ私の責任ということになるのかな」
「私が自分の穢れを断ち切れなかったせいだよ……」
「まあ、私も二人の仲を裂きたい訳じゃないから、ちょっとシフト考えなおしてみるよ。二人ともここんとこ隊長頑張ってくれてたし、近いうちにそろって丸1日非番の日を作れるようにしておく」
「ほ、本当かい!」
勢いよく顔を上げた石切丸の気迫に、審神者は1歩後退る。
「おおお、そこまで喜んでもらえるとは思わなかったな。――ただし、翌日の出陣や遠征に影響は出さないでよ?」
「…………彼の出方次第だけど、まあ、善処しよう」
「何、今の間」
藤色の瞳は気まずそうにすっと反らされ、審神者はそこで色々と悟る。隠蔽値の低さをこんなところで発揮しなくても、とさきほどと同じことをちらりと思った。嘘やごまかしが苦手なのかもしれないが。
贔屓にしている近侍の言葉を疑う訳ではないが、彼の体力とパワーに関しては充分に信頼していた。故に、一応の保険として休暇は1日半にしておこうと、彼女は心のメモ帳に書き留めておくのだった。






一時期我が本丸一番刀装職人であるパパがマジで弓兵しか作ってくれなかったので。
弓を持つ青江を見たい石切丸、と妄想して萌えたはずなのに、いつのまにかでかいずんだもちになっていた。ふしぎ。