刀剣乱舞 青江+大太刀組
※神剣やキャラの振る舞いに関する自己解釈を多分に含みます




「何百年かすれば、またかわるかもしれないよ」
そんな冗談だか慰めだかわからないような言葉で神剣への興味が消えるほど、青江の執着は浅くはなかった。
だから、たった一言神剣本刃からの意見を聞いてしまえば、あとは何人に訊いても同じように思えた青江は、他の者にも意見を聞いてみることにした。
神剣にどうやったらなれるのか。神剣とはどんなものなのか。神剣と妖刀の違いは何なのか。




神剣といって安直に思いつく条件といえば、神社暮らしが長いということだ。神社暮らしと言えば大太刀である。実用性の高い刀種は武将の元に居ることが多かったし、現存する大太刀のほとんどが神社所有のものであるからだ。
つまるところ、大脇差とはいえ太刀ほど大きくはない青江が神剣になれるヒントが聞きだせるかもしれないと思った。


青江が大太刀部屋に行けば、そこにいるのは蛍丸だけだった。
「どうしたの、青江」
「大太刀の皆に訊きたいことがあってね」
「何?」
青江は神剣についての興味や知りたいことなどと話す。
「どうしたら神剣になれるか、かぁ……。つまり『これから』どうすればいいかってことでしょ?行方不明になってる俺よりも、今も神社暮らししてる刀ひとに訊いた方がいいと思うよ」
「それもそうかな。うん、ありがとう」
丁度そこに太郎太刀と次郎太刀が大太刀部屋に戻って来た。
「たっだいまー!あれ、青江じゃん」
「何か用事ですか?」
「ああ、ちょうどいい。君たちにも訊きたかったんだ」
そう言って青江は同じ内容を二人に話した。
「神剣なんて、進んでなるようなものではないかと……」
「アタシも同感だよ。神剣になるってことは、人の道具ではなくなるってことだからねぇ」
「そうなのかい?」
「現世から離れたいのなら止めはしませんが」
「人の世から離れたいわけではないけどね。ただ神の領域というものに興味があるんだ」
ふぅん、と呟いた次郎太刀は、ちらと時計を見やって言う。
「兄貴、蛍丸、そろそろ15時だ。演練に行く時間じゃないかい」
「おや、もうそんな時間ですか」
「訓練訓練!行こう、太郎太刀」
二人が去って少しした後、青江が先に口を開いた。
「あからさまに人払いをしたってことは、何か言いにくい話でもあるのかな」
「おや、ばれてたかい?」
そう言って次郎太刀はにっと笑う。
「確かにあんまり他言したくはないことさ。――ここだけの話だけどね、兄貴は浮世離れしすぎて現世のことをかなり忘れてるんだよ」
「えっ?」
「だから、あんまり神格あげたり神剣になったりすると、自分の逸話や前の主の記憶がなくなるかもしれないよ」
「前に石切丸と話した時はそんなこと一切訊かなかったけど」
「アタシが思うに、もう『忘れたことすら忘れてる』んだろうね。だって、あいつが前の主の話をしてるところを見たことがあるかい?」
言われて記憶をさらうと、確かに思い当たるものはなかった。そのことに気づかされた青江は背筋に悪寒が走るのを感じる。
「アタシも、現世から離れたいのなら止めやしないけど、そこんとこはよーく考えることだね」
言い残し、次郎太刀は厨の方へ向かった。




部屋に残された青江は立ち尽くしたまま次郎太刀の言葉について考えていたために、背後から近づく気配を察知できなかった。
「おや、青江。こんなところでどうしたんだい」
不意打ちで聞こえたその声に、青江は大仰に肩を跳ね上げ、ゆっくりと振り向いた。
「い、石切丸……」
「驚かせてしまったかな、すまなかったね。――顔が青いようだけど、体調でも悪いのかい」
「ふふ、顔色が悪いのはいつものことだよ」
「そうだったかな?」
いつもの笑顔で誤魔化して、青江はひとつ腹をくくって本題に踏み込む。
「ねえ石切丸、つかぬことを訊くようだけど、君の刀としての武勇を聞いた覚えがないけどもしかして秘密にしていたりするのかな?」
「唐突だね」
「御神刀になるための情報収集さ。もっと派手な武勇や来歴があったら、何か変わっていたかもと思ってね」
完全に嘘という訳ではないが簡単なブラフだ。記憶の有無を単刀直入に訊くよりかは警戒されにくい訊ね方をする。
「研究熱心なことだ。――武勇や来歴、といわれても……私は物心ついた時から、という表現が正しいかどうか分からないけど、ずっと神社暮らししかしたことがないからね」
その言葉に青江の表情が強張るが、石切丸はそれに気付かないまま続ける。
「人の手にあった頃には何かあったようだけど、私は覚えていないな。きっとまだ付喪神ではなかったのだろうね。……参考にならない話ですまない」
「いや、参考になったよ、とても」
「そうかい?ならいいのだけど」
「じゃあ、そろそろ夜戦の準備をしなきゃいけないから部屋に戻るよ」
「京都か。随分危ない敵が多いみたいだから気を付けなさい」
「ありがとう」
ひらりと手をふって青江は大太刀部屋を辞した。




廊下を歩きながら青江は考える。
付喪神でなかったから刀としての記憶がない、ということはありえない。なぜなら青江自身が、ただの刀でしかなかったときの記憶も保持しているからだ。


記憶を失くすということは一度死んでいるということに近い。
自ら彼岸に足を踏み入れるような真似までして、自分は神剣になりたいのだろうか。いくら考えても答えは出なかった。






蛇足的なでかい大太刀3人+青江に関する所感 → 
讃岐うどんすすってる青江の横できしめんすすってる大太刀兄弟という図を見たい。