刀剣乱舞 審神者×同田貫×審神者

※ 創作男審神者注意




Side:QUESTION


実戦刀故に鑑賞しても面白味のない刀であるという自覚が、同田貫正国にはある。
だからこそ、自分を呼び出した審神者がきらきらした瞳でこちらを見つめてくるのには面食らった。
彼に対する第一印象が「なんなんだこいつ」だったのを同田貫はよく覚えている。



同田貫がこの本丸に来たのは、まだまだ刀が少ない頃で、審神者が彼を近侍にしたのは人手不足故だと思っていた。
しかし、刀が集まり書類仕事の得意そうな刀が増えても審神者は同田貫を近侍から外そうとはしなかった。
近侍と言えば腹心の部下のようで聞こえはいいが、実際のところ、仕事の合間の話し相手になるくらいしかできることはない。それこそ主命を欲しがる長谷部のような者の方が審神者の仕事の手助けになりそうだと思って、そう訊いたことがあった。
戦するしか能のない俺を何故いつまでも近侍にしているのか、と。
すると審神者は少し首を傾げ、
「何故って……俺が同田貫の傍にいたいし隣に居てほしいってだけだけど?」
あたりまえだろう、という顔でそう言った。
「あ、もしかして近侍もう嫌だって意味だったか?」
「いや、そーゆー訳じゃねえけど」
「ならよかった。俺は折れず曲がらずなお前が好きだから、自分を曲げてまでそばにいて欲しい訳じゃないんだ。だから近侍が嫌だと思ったら言ってくれれば変更するよ。……ああ、でも同田貫の声を傍で聞けなくなるのは寂しくなるな」
そう言って笑う審神者に同田貫は口先で「変な奴だな」と答えながら、不思議と顔が熱くなるのを感じていた。


しかしそんな話をした数日後、いきなり近侍が同田貫から初期刀の陸奥守に変更になった。
近侍という役職に固執する訳ではないが、なんとなく裏切られたような気になって、言いようのないもやもやが胸の奥に巣食っていった。
それからの同田貫はどことなく注意散漫になっていった。
ずっと聞いていたあの声が聞こえないことに違和感を覚えるようになり、内番や鍛練をしていてもいつも視界の端にいた背が高くひょろっとした影を見かけることがなくなって、審神者の姿を無意識に探すようになっていた。
審神者がいるはずのない戦場でこそ以前と同じように戦果をあげていたが、ずっといらいらした様子の同田貫を心配する仲間も多かった。


「おーい、同田貫、いるか?」
剣道場で素振りをしていると、入り口から呼ぶ声がした。
「……御手杵か、なんか用か」
「今から俺と遠征だって」
「ハァ?聞いてねーぞ。戦は?」
「今日は休み。で、出発できるか?」
「まあ、行けるけどよ」
苦い顔をしながら木刀をしまってから同田貫が出入り口に向かうと、御手杵は難しい表情をしていた。
「なんだよ」
「なあ同田貫、そろそろ機嫌直せよ。近侍外されたのがそんなに不満なら俺からも口添えするぞ」
「なんっ……!ちっげーよ!」
「そうなのか?まあ何でもいいけど、主力のお前がそんなんだと士気に関わるって気にする奴もいるからさー」
「……」
近似を外されたのが問題なのではない。傍にいたいだとか好きだとか言っておいて、理由も話さずぱったり姿を見せなくなったのが問題なのだ。そのせいで無意識に彼の姿を常に探している。
今だって、彼に似たシルエットの御手杵を見つけて一瞬期待してしまったのだ。
期待してしまった自分に腹が立って、八つ当たりなのを承知で御手杵の脚を蹴飛ばしてから大股で遠征ゲートに向かった。

胸を掻き乱すその感情の名を、彼はまだ知らない。




side:Answer

今になって思えば、政府から勧誘があった時に全ては始まっていたのだと彼は思う。
貰った資料を捲って目をひかれた、大きく傷が入った精悍な顔に、戦意に輝く金色の双眸。黒一色の装束に身を包んで敵に向かっていくその写真を純粋に格好いいと思い、それをきっかけに彼は審神者になろうと思ったのだ。
だからこそ、本丸を稼働してすぐに同田貫が鍛刀で来たときには飛び上がるほど喜んだ。
喜びすぎて何を口走ったかは覚えていないが、不思議そうな瞳でこちらを見上げてきたことだけは覚えている。


それからの審神者業は同田貫を中心にして回った。
同田貫を近侍にして書類仕事の合間に話をして楽しんだし、同田貫が鍛錬してる姿を見ていたくて、書類仕事を早々に終わらせては剣道場に居座った。
同田貫の話を聞く度にそのスタンスを好きになったし、手合わせで生き生きしている姿を見るたびに格好いいなと惚れ直した。
同田貫が居るだけで審神者業の充実感ががらっと変わるなと思いながら過ごしていた。



ところで、ある種の審神者には入り口が見える集会所というものが演練施設の片隅にひっそりと存在している。
刀剣男士の傍ではとても吐き出すことのできない、いわゆる「うちの子かわいい」を吐き出す場所である。彼もその集会所の入り口が見えるひとりであった。
そこで「同田貫かっこいい」「俺の前で同田貫をエロい目で見ることは許さん」などと言っていたら、いつのまにか彼には『たぬすき』というあだ名がついていた。(逆に彼はここに居る淑女諸氏を親しみを込めて変態と呼んでいる)
ある日、ふと思い立って彼がその部屋に足を運ぶと、一人の女性が手持無沙汰に座っていた。
「よう、たぬすき。最近なんか面白いことはなかったかい」
「面白いことか……。今日も俺の同田貫はかっこいい。というのと、昨夜何故か俺が同田貫の首に咬みついてる夢を見たってことくらいか」
後半の台詞と聞いた瞬間、彼女はガタッと立ち上がった。
「何それkwsk!!」
「え、ええ…?詳しくったって、さっき言ったままだぞ。同田貫にちょっと申し訳なくなったけどな」
「ファアアアア!!!」
「何そんなに興奮してんだ!四足出てるぞ!」
言われて女審神者はひとつ深呼吸をしてから肘をついて手を組み、所謂ゲンドウポーズをしながら言った。
「たぬすきよ、良いことをおしえてやろう。首へのキスは『執着』って言われてるんやで」
「……まじか」
「髪へは思慕、額には祝福や友情、みたいな感じでな。首へは執着」
「え、ってことは、夢とはいえ、キスどころか咬みついた俺は……」
「んふふふ、良い恋してますなあ」
「えええ……同田貫のことは尊敬したり憧れてはいたけど……」
「憧れから恋に発展するなんて、よくあることやでえ」
実に嬉しそうな顔でそう叫ぶ変態その1の脚を蹴飛ばして、踵を返し部屋を去った。
その背中に向かって、
「悦い夢見ろよ!」
と叫んだ女審神者の呪いは聞かないことにした。



その晩彼は夢を見た。
お互い上半身裸で、同田貫と抱き合う夢だ。
自分より少し低いけれど筋肉質な同田貫の身体を抱え込んで、胸と胸をくっつけあって、お互いの鼓動を確かめ合う夢だ。
同田貫の顔がすぐそばにあって、自分の鼓動はこれ以上ないほど高鳴っているけど、同田貫のはどうだろうか。夢故にそれは判然としない。



その朝、彼は目を覚まして頭を抱えた。夢の記憶は鮮明で心を誤魔化すにはあまりに鮮烈だった。
「これは……ごめん、同田貫」
しばらく同田貫の顔は見れそうにないと思い、近侍を変える令を出した。

夢にまで見て焦がれるその感情の名を、彼はもう知ってしまった。






諸事情で別垢作ってそこで上げたさにたぬさに。
ネタは半分くらいは頂いたもので構成されております。ネタ元さんに多謝。