刀剣乱舞 一期+審神者

※創作男審神者注意
※一期一振女体化



あまりに一身に注がれる視線に耐えかねて、"彼女"は書類に落としていた目線をそろりと審神者の方に向けた。
「何か、御用でしょうか」
「いーや?いつ見ても美人さんだなーって思って」
「……余計な口を動かしている暇があるなら早く仕事を進めてください。それと、こことここ、漢字間違えてます」
「あっ、本当だ。ありがとうな、いちねえ」
「いえ、これが仕事ですので」
にこーっと相好を崩す審神者に、うまく愛想笑いさえできないまま、彼女は再び書類をっ確認する作業に戻った。
うつむいた拍子に耳にかけていた空色の長い髪がさらりと零れ落ちる。

『いちねえ』と呼ばれた彼女は、この本丸2人目の一期一振だった。


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ことの始まりは、とある集会所で彼が女審神者に1枚の写真を見せられたことだった、と彼女は聞いている。

妙な術に長けているらしいその女審神者は、男士顕現のときの術式に細工をし、一期一振を女性の姿で顕現させることに成功したらしい。彼はその写真を一目見て惚れ込み、是非とも本丸にもいちねえを!と奮起したのだそうだ。
本丸の男士たちはあまり乗り気ではなかったらしいが、審神者たっての願いならば仕方ないと連日厚樫山に行軍し、散々『物欲センサー』とやらに邪魔をされながら、ようやく二振り目の一期一振を手に入れたらしい。
女審神者に教わった細工を施して儀式を行えば、果たして女性の姿としての一期一振が姿をあらわした。
顕現したときの主の狂喜乱舞っぷりや、近侍だった鳴狐のかわいそうなものを見るような目、お供の狐の「主殿、ほんとうに成功してしまったのですね」という言葉はそういう意味だったのかと、その話を聞いた彼女は思ったのだった。
ちなみに以上のことは審神者本人ではなく、本丸の案内をされているときにお供の狐から聞いたことだ。その話は私が聞いていいものだったのかと問えば、鳴狐は「口止めはされてない」と言っていた。

女性の姿として呼ばれたことに関しては、最初こそ戸惑ったものの、元より人間の姿をとったことがない身だったからかすぐに慣れた。
本丸の皆に挨拶をして回ったときに、半数以上に哀れみに近い目で見られたのには辟易したが、それもすぐにおさまって本丸の新入りとして皆優しく接してくれた。
完全に巻き込まれた側ともいえる1人目の一期一振などは、「私と同じ存在があれほどまでに主に気に入られるとは、光栄ですな」と言って微笑んでいた。
粟田口の弟たちからは新しい保護者として歓迎されて、いちねえと呼ばれ慕われた。弟たちと関わっているときは自然と心が和んだし、『いちねえ』にいいところを見せようとする彼らはよりやる気をだして士気が上がった。実際戦績もよくなったそうだ。

望まれて、求められてここにいる。それだけで満足するべきだとは分かっている。
それでも彼女の表情を曇らせることが、ひとつだけあった。


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にわかに外が騒がしくなった。出陣していた部隊が帰って来たようだ。玄関から「ただいまー」と隊長だった蛍丸の声がする。
「あっ、蛍が帰って来た!」
言うなり審神者は立ち上がり、止める間もなくそちらへ向かってしまった。仕事は放りだしたままである。もうそろそろ小狐丸が率いる遠征部隊も帰ってくる時間だからしばらくはここに戻ってこないだろう。

二人きりの空間から解放されて、彼女はそっと溜息をつき、目の前に手を広げかざしてみた。
我ながら綺麗な手だ、と思う。白く細い白魚のような指は、一度も傷ついたことがない。それどころかほとんど刀を握ったことすらない。

彼女は一度も戦に出たことがなかった。

顕現したその日に、「いちねえは出陣も遠征もさせないで大事に大事にするつもりだ」と言われ、「承知いたしました」と答えた。そのことはよく覚えている。
だけど、日を経るにつれてそれがもどかしくなっていった。他の男士たちが生き生きと出陣して帰ってくるのが羨ましく思えて仕方がないのだ。
本来の自分は再刃され実戦に耐えうるものではないことは知っている。だからこそ、戦える体を持ったのなら武器本来の力として戦ってみたいという気持ちは大きい。それこそが本来の姿なのだから。
実際、男士として呼ばれた1人目の一期一振は戦に出ているのだから余計にそう思う。

美術品として大切にするのもひとつの愛の形だとは理解している。でもそれだけが審神者の愛の形ではないことも知ってしまっている。彼が贔屓している男士、鳴狐・小狐丸・蛍丸の三人は戦に出ているからだ。
一見体格も性格もばらばらなように見えるこの三人の共通点は、銀髪だということだった。


求められてここにいる。
愛されていることも理解している。
それでも本来の姿を見て欲しいと思うことは過ぎた望みだろうか。
髪を白く染めれば戦に出してもらえるだろうか。

詮無い事とは分かっていてもそんなことを考えずにはいられない自分に嫌気がさして、目を瞑り俯く。
空色の髪がまた一筋零れ落ち、紙面に落ちた。






某所の審神者が『いちねえ』に開眼してhshsしてたのでうっかり書いてしまったブツ。
その審神者がこぎつね推しだったので、ぬしこぎ話に続きます。