刀剣乱舞 三条





雪がうっすら積もる庭を見ながら、三日月は縁側でほかほかと湯気の立ち上る甘酒をすすっていた。いつもの服装の上からしっかりとどてらを着込み、足元はもこもこの靴下を履いて更に靴用カイロまで貼ってある。甘酒のストックである水差しが腰の横に置いてあり、水差しの下にはIHが稼働していて、常に温かい甘酒を供給できる状態だ。冷えの対策は万全である。
「おや、こんなところにいたのですか」
小狐丸が足取り軽く寄ってきて、三日月の隣に座った。
「ご相伴しても?」
座ってから言うのがこの狐の少々狡いところではあるが、三日月はそんな些事など気にしない。
「勿論」
と言って鷹揚に笑い、盆から予備の湯のみをとって水差しから甘酒を注ぐ。それを受け取った小狐丸は礼を言って一口すすった。ふう、と大きく息が漏れる。
「酒程濃くはないが良いものだろう」
「ええ。あたたかいところで食べる蜜柑も素晴らしいですが、寒いところで飲む温かい甘酒もなかなか。――ああ、そういえば」
「うん?どうした」
「いつもなら貴方は炬燵にこもりきりなのに、今日は何故こんなところに。冷えは苦手だと言っていたでしょう」
「俺もそのつもりでいたんだが、生憎炬燵が満員でな」
「満員?あの広い炬燵が?」
この本丸に唯一ある炬燵は審神者が特注で調達したもので、10人ほどが座れる大きさのものだ。それ以上大きなものとなると温かさが隅まで行き渡らないし、いくつも置くほどこの本丸は裕福ではない。そういう訳で炬燵占有権は先着順となるのがこの本丸の暗黙の決まりである。常であれば三日月が真っ先にいい席を取っていたはずなのだが。
「昨夜は大晦日で皆かなり夜遅くまで宴会をしていただろう。それで夜十分眠れなかった粟田口の面々が皆炬燵で居眠りをしていたのでな」
「ああ、それは割り込めませんな」
「そうだろう」
究極のマイペースを誇る三日月とて、兄弟水入らずのところに割り込めるほど空気が読めないわけではなかった。
代わりといってはなんだが、といって甘酒の瓶とIHヒーターを用意してくれたのは、粟田口の中で炬燵の魔力に打ち勝った少数派である薬研だった。元々は粟田口の兄弟たちと一緒に飲むはずだったのだが、出来上がる前に皆眠ってしまったようで、それをそのまま丸ごと三日月に譲ってくれたのだ。
三日月はこういった現代機器にはとんと疎く厨に立つのも禁止されているので、こういった心遣いは本当にありがたい。遠慮なくそれを受け取って自室にでも戻ろうかと廊下を歩いていると、庭で面白いことを始めようとしている二人に遭遇したので、そのまま縁側に居座ってそれを眺めることにしたのだ。
甘酒を飲んで一息ついて庭に視線を向けた小狐丸も、その二人を見つけたようだ。
「岩融と今剣は一体何を……餅つきですか」
「そうだ。厨番から夕餉に雑煮を予定していると聞いたそうでな、どうも体力のありあまってたらしい二人が餅つき役を買って出たらしい」
「この寒い中、本丸全員分の餅を作る、と?随分元気なことですね……同じ三条でも片やこれでもかというほど着ぶくれして甘酒をすすっているというのに」
「はっはっは、不思議なものだな」
「……。貴方はあれを手伝うつもりはないのですか」
「単純作業で簡単そうにみえるがな、杵を振る側と餅を返す側の息が合わないと危ないのだそうだ」
「ほう。ならば下手に手出しはできませぬな」
餅つきをしている二人を見れば、岩融はやたらと高い打点から杵を振りかざしているし、今剣はその振りあがった隙を見事について餅を返している。そのスピードはやたらと速く、阿吽の呼吸でなければ確かに大怪我をしてしまいかねない。
「随分気合が入っているようで」
「うむ。雑煮に使う分より余分に作って、髭切と膝丸に食べさせるつもりだと言っていた」
「源氏兄弟祈願も兼ねているのですね。特に膝丸は彼らと縁のある刀だから早くこの本丸に迎えたいですね」
「ああ。松の内までには来ると良いな」
「膝丸は、まあ大丈夫でしょう。問題はその兄の方ですよ。期間内に来るのかどうか」
「否定できないなあ。何せお前が来るまでに随分かかったくらいには主殿のドロップ運は良くない」
「またその話ですか……」
小狐丸は渋面を作りそれを湯呑で半分隠すようにして甘酒をすする
「そういえば此度の連隊戦、石切丸が随分と嬉し気にしていましたね」
「練度が十分あれば夜戦でも大太刀の攻撃が通るらしいからな。俺は遠征隊だから知らんが」
「それもありますが、今回の編成変更のとき、ハイタッチをするでしょう。あれが楽しいようで」
「うん?俺は知らんぞ」
「夜戦対応昼部隊2つと室内戦特化部隊1つの3隊が出撃しているでしょう。それで石切丸と交代するのが小夜で、こう背伸びして手をつき出してくるのですけど、背の低い小夜の手の高さは当然石切丸の肩ほどの高さにもならない。その高さに合わせて低い位置でハイタッチするのが楽しいそうですよ」
「なんだそれは!絶対可愛いやつだろう!」
「それで隣で蛍丸と愛染がちゃんと頭の上の高さでハイタッチしてるのがまたかわいらしい、と」
「羨ましいなあ。俺もハイタッチしたいぞ。一人で遠征するのは飽きた!」
「まあこればかりはぬしさまの采配ですからね」

そんな話をしていると、縁側の曲がり角から新たに二つの影があらわれた。歌仙と石切丸だ。
「おや君たちもここにいたんだね。ちょうど良かった」
「二人そろって餅つき見学かい」
「まあそんなところだ」
「噂をすればなんとやらですね。歌仙は餅の回収ですか」
「そのとおりだよ。ついでに追加のもち米があと10分ほどで蒸し上がるという報告もしにね」
そう言うと縁側にあった下駄をつっかけて歌仙は足早に臼の傍に駆け寄って行った。
「石切丸は何か私たちに用が?」
「ああ、主から預かりものをしていてね」
石切丸は袂をあさって二つの小さな封筒を取り出した。
「はいこれ。主からお年玉だよ」
「お年玉?普通子供にあげるものでしょう。我々も貰ってよいのですか」
「いいんじゃないか?臨時収入とでも思って、貰えるものは貰っておけ」
「これで半分は目標を達成できたかな。ふう、こういうおつかいを頼むなら人探しの苦手な私などではなく、もっと適任の者にさせてほしいよ」
「我々の中で居場所が一番分かりやすいのは石切丸ですからね」
「だいたい祈祷所にいるからな。はっはっは」
「まったく……。一番見つけやすいと思った三日月は炬燵にいないし、小狐丸だって部屋にも大広間にいないし、途中で歌仙に会わなければ岩融と今剣の居場所も分からなくて本丸中を彷徨い歩いてたはずだよ。まさかこんな寒い中外で餅つきしてるなんて思いもしない」
「それはご苦労だったな」
「まことにお疲れ様です」
ぐだぐだと話していると、餅がたっぷりとはいった大き目のボウルを抱えた上機嫌な歌仙の後ろについて、岩融と今剣も縁側に寄って来た。
そしていち早く今剣が目ざとく三日月と小狐丸が手にしているものを見つけた。
「あっ、なんかあったかそうなもの飲んでる!ずるいですよーぼくにもください」
「ならば俺にももらえるか。少々喉が渇いた」
「あれだけ動けばそうだろうね」
「ふむ」
三日月は甘酒が入った水差しを見る。元々粟田口全員に用意されたものだったためか中身は三分の一も減っていない。だが。
「湯呑が足らんな」
「だったら僕が持って来よう。ちょうどこれから厨に向かうところだからね」
「おお、頼んだ」
「では私の分もお願いできるかな」
「追加で3つあればいいかい?ではすぐに持ってくるよ」
「ああ、甘酒で忘れるところだった。今剣、岩融、主からお年玉だよ」
「やったー!ありがとうございます!」
「ありがたく頂こう。後で主に礼を言わねばな」
ゆるく会話を続けながら、彼らの正月は穏やかに過ぎていった。






某所で「囚人さん(SKYのサブ垢名)からのお年玉欲しいなあチラッチラッ」って言われたので、箱押し三条で正月ネタでした。
ちなみに当本丸は正月が来るより先に兄者が来ました。