刀剣乱舞 伊達組+長谷部





正月だということで、審神者は全ての刀剣男士にお年玉と称して様々な物品を配っていた。それは決して押しつけがましいものではない。なぜなら事前に彼らに欲しいものを聞いていたからである。あるものは装飾品を、あるものは趣味の道具を、審神者に申し出ていた。
その中で何もリクエストしなかった少数派である者のひとりが大倶利伽羅だった。何を訊いても「どうでもいい」「慣れあうつもりはない」の一点張りで何も聞きだすことができなかった。
そこまでして拒まれると逆に意に反することをしてみたいと思うもは人の情というもので、故に大倶利伽羅には一人ではできないものを渡したのであった。

審神者に貰ったもの一式を大倶利伽羅はまじまじと見る。
竜の紋が描かれた羽子板と、羽子が予備も含めて2つ。慣れあうことをよしとしない自分にこれを渡す意味は何なんだろうかと思いながら、大倶利伽羅は羽子をいじって飛ばしていた。単に舞い上げるよりも回転を付けたほうが面白い動きをすることに気付いてしばらくじっと遊んでいた。
しばらくそうしていると、自室の部屋の外で「大倶利伽羅、いるか」と声が聞こえた。ああ、と端的に答えればすぐに障子が空き、そこには長谷部がいた。
「なんの用だ」
「主命でお前の様子を見に来た。……ふむ」
「なんだ」
「主からもらったものをやはり活用していないなと思ってな」
「こんなもの、子供の遊びだろう」
羽子で手遊びしていたことを脇においてそう言えば、フン、と長谷部が鼻で笑った。
「主の本当の意図がわかっていないようだな」
「どういう意味だ」
「羽根突きというのは相手の意図しないところに攻撃しいかに相手の不意を突いて勝ちを得るか、という遊びだ。つまり、いかに敵の意図の裏を読むことができるかという鍛錬に繋がっている」
「……!」
「お前にそれが与えられたということは、それだけ主にかわれているということだろう。最近力を付けてきているようだしな。どれ、俺がその腕試しの相手になってやろう」
「必要ない」
「それは、今の俺に敵うはずもないという敗北宣言ととってもいいのか」
片頬を釣り上げて長谷部がそう言えば、大倶利伽羅の額にぴきりと青筋が浮いた。



凧揚げをする短刀たちの声がにぎやかに響く傍らで、黙したままカンカンと固い音だけが響く一角がある。言うまでもなく長谷部と大倶利伽羅が羽根突き勝負をしている音だ。無駄な声をかけるでもなく、羽根突きとは思えない素早さと力でもって羽子を打ちあっている。一歩も引く様子はなく、この寒空の下、二人とも汗だくになっている。
その鬼気迫る様子を、縁側で面白げに見ている影が一つ。
「戦況はどうかな、鶴丸さん」
「両者一歩も引かずってとこだな。特に大倶利伽羅は投石に関するキャリアが少ないのを力押しでもって応戦している。長谷部は自慢の機動ですべて受けているがいまいち決定打に欠けている、というとこか」
「ということは止めに入らなければ止まらないということかな?」
「まあ、そうだなあ」
言いながら鶴丸は光忠の手にある盆を見る。そこにあるものは一種の最終兵器だ。
「大倶利伽羅、長谷部くん、障子に穴あける前に羽根突き止めてね。じゃないとこのずんだもちは全部僕が食べちゃうよ」
ずんだもちの名が出た瞬間二人の動きはぴたりと止まり、羽子は二人の丁度間にすとんと落ちた。
「俺たちの分もあるんだろうな?」
たたっと駆け寄った長谷部が光忠に問う。
「ああ、勿論さ。でも手を洗ってからね」
「そうか」
聞くや否や、長谷部が大倶利伽羅を引き連れて手洗い場へ向かう。大人しくそうしているということは、大倶利伽羅もずんだもちを食べたいのだろう。
そこまで考えてから光忠がふと横を見ると、ものほしげにこちらを見る琥珀のと目が合った。
「鶴丸さんも食べるかい?」
「いいのか?」
「予備の分はあるからね」
「では、ありがたく」
件の餅を小皿に移しゆっくりと食べる様は、なるほど平安生まれの刀らしい気品が漂っている。そして餅を食べるその表情はあどけなく思えるくらいに可愛らしく笑んでいて、光忠はほっする。長生きの彼にとって満足がいくくらいには上出来なようだ。
太鼓判を押されたような気持ちで光忠は大皿に乗った餅を数え、あれ?と首をかしげた。



餅の最後のひとつをどちらが食べるかという議題で、長谷部と大倶利伽羅がまた羽根突き勝負をするのはそう遠くない先の話である。






伊達組+へしで羽子板で、とネタふりされて書いた1周年記念小宮刀絵ネタ。
なんで自分の書く長谷部はこんな性格歪んだ感じになってしまうんだろう…。