刀剣乱舞 日本号×審神者

※ 創作男審神者注意



イベントが始まって、資材と札の消費が激しい。
普段以上に忙しく、出陣のデータや資材の出納を書類にまとめていると、障子の向こうでふらりと大きな影がよぎるのが見えた。
「うぃーっとぉ、今いいかぁ?」
聞きなれた、そして審神者の鼓動を強制的に速くする低音が聞こえる。
「ああ、いいぞ」
できるだけ平静を装ってそう言えば、すぐさま障子が開けられ、黒いつなぎ姿の人影が現れる。日本号だ。その顔はかなり赤く、随分と酒が回っているのだろうと簡単に推測される。
飲み取りの槍と言われるだけあって、元主の飲兵衛っぷりを見てきた日本号は酒の飲み方は心得ている方だ。それでもかなり酔っているということは、彼に張り合うだけの飲み相手と酒宴でもしていたのだろうか。
いいなあ、と審神者は思う。一緒に酒を飲めたらいいのに、と。
彼は下戸で、アルコールの類はほぼ苦手としている。それでも飲兵衛の日本号に少しでも近づきたくて、甘酒から慣らしていこうと少しずつ努力している最中であった。(単に不動行光ドロップ祈願の意味もあるのだが)
「うーん?何やってんだァ」
日本号が赤い顔でディスプレイを覗き込む。ずいっと近づいたその距離に審神者の鼓動は見事に不整脈を刻みだしたが、その動揺をすべて押し殺してひとつ大きく息をついた。
「仕事だよ。資材の収支くらいは把握しておかないとと思ってな」
「ふぅん、それって休む時間削ってまでするモンかあ?」
「職務のうちだからね。何か俺に用があった?」
「どーにも主はこの正三位様と仲良くする気が無いようだからなァ、ちーっと酒でも入れてとっぷり本音で話してみようかと思ってな」
片頬を釣り上げながら日本号は腰に下げた酒瓶をちゃぷちゃぷと揺らす。
その言葉を聞いて、審神者は少し片頬を引きつらせる。日本号に本音を話さないのは自分が抱いた思いを伝える勇気がないからで、酒の席すら辞退するのは下戸だからだ。好きな相手が飲兵衛なのに自分が下戸とはなんとなく言いづらかっただけである。
そんな妙なプライドが邪魔をして、手元にあったコップを軽く持ち上げる。
「俺にはこれがあるからさ。心だけ受け取っておくよ」
「そりゃどぶろくか?」
「いや、甘酒だけど……」
「ハァ?そんなん女子供の飲みモンじゃねえか!」
「いいだろ、好きなんだから」
「俺は一杯やろうぜって言ってんだよ――うん?」
日本号がぐるりとあたりを見回す。おそらく酌をするための杯を探しているのだろうが、審神者の仕事部屋であるそこにはそういった類のものはなかった。仕事以外のものは、甘酒のストックがいくらか置いてあるだけである。
「この部屋、なーんも無えな」
「仕事部屋だからそんなもんだろ」
内心の動揺を悟られたくなくて若干早口でそう言えば、ふうん、と気のない声が聞こえた。その顔をそっと窺い見れば、思案したような難しい顔から余計なことを思い付いた子供のような、にやっとした悪い笑顔になっていくのが見えた。
「じゃあこうするしかねえか」
そう言って日本号はさらに身体が触れるほどに近づき、ぐいっと酒瓶を呷った。その距離の近さに審神者が静かに狼狽えていると、その隙をついて肩をひき顔をこちらにむけさせ、口づける。
合わさった唇からぬるまった液体が流れ込む。思わずそれを飲み込めば、喉の奥がかあっと熱くなる。とっさに瞑った瞼をそっと開けば恋い焦がれた彼の顔が間近にあり、ぎらぎらと紅い瞳がこちらを撃ち抜いた。
ということは、いま唇に当る柔らかい感触は間違いなく彼のもので。
そこまで考えると、追い討ちのように腹の奥から顔に向かって熱が駆けあがる。一瞬で頭がゆであがって、ふっと意識が白く遠のくのを感じた。

おぼろげになる意識の中、がっしりとした腕が背後にまわって力の抜けた身体を支えてくれていることにうっすらと気が付いた。
日本号が狼狽えているような挙動や、心配するようにかけてくる声が、その腕を通して振動として伝わってくる。それがあまりにも幸福でそのまま彼は完全に意識を手放した。






某所で某男審神者がおいちゃんに口移しされる夢を見たとか言っていたので、それを妄想補完して形にしてみた。
いつもと書き方を変えたつもりもないけど、想像以上にいい反応があって驚いた。