刀剣乱舞 薬研+不動




新しく実装された男士・不動行光は、なんというか厄介な刀だった。
信長公に最も寵愛されたというところは誇っていいしそうしている。それなのに自身をダメ刀と称し、卑屈になっている。その気分の上げ下げは山姥切と通じるところはあるが、兄弟に軌道修正されたりフォローされたりしている彼とは違い、不動には保護者にあたる者がいなかった。
更に悪いことに、かの不動行光という刀剣は短刀でありながら赤ら顔の飲兵衛であるらしい、という情報が審神者から提示されていた。つまり飲兵衛仲間が増える、と次郎太刀や日本号が色めきだったのだ。
薬研が記憶している右府殿と言えば下戸で知られていたはずだ。その影響を強く受けているならそれは……、と懸念したとおり、不動は下戸であった。具体的に言えば酒とも言えない甘味である甘酒で酔うほどの下戸であった。
もっと悪いことに、新入りの歓迎会といえば酒宴、というのがこの本丸の通過儀礼であった。つまりは、そういうことである。



薬研は遠い席にある今回の主役を見る。常の赤ら顔をどことなく青くしているのは、脇を固めた飲兵衛どものせいだ。というのは薬研には分かるけども、飲兵衛こと次郎太刀と日本号には分からないらしい。彼らにはその手にした瓶の「甘」の字が見えていないのだろう。
素面だとどことなく人見知りな気のある彼が、ほぼ初対面であるデカブツ二人に囲まれ狼狽えている。その距離の近さが、悪意に由来するものであれば刀剣らしく戦ってどうにかしようもあるが、完全に好意と仲間意識である分たちが悪かった。
不動は困惑を極め蒼褪めた顔でおろおろとしている。短刀の手には余る大きい盃を渡され、日本号が常に腰に下げている酒瓶からとぷとぷと酒が注がれていた。不動は促されるまま口を付けようとするが、立ち上る匂いで既に酔いかけているのか身体が後ろに傾いでいる。それを次郎太刀の手のひらが支えている。つまり彼には逃げ場がない。
隠れ飲兵衛である岩融や陸奥守までもが不動の席に寄ろうとしているのを目の端で確認し、このあたりが限界だろうと薬研は確信した。彼の長い前髪と赤い頬の隙間から見える懇願するような視線まで受けてしまっては、もうすることはひとつしかない。

「よう、お二人さん。そのへんにしちゃあくれねえか」
いつのまにかすぐ傍まで来ていた薬研に、次郎太刀と日本号は瞠目する。
「どうもこいつ右府殿に似て下戸みてえだからな」
それをばらすなよ、という不動の視線を無視して薬研が言えば、二人は一瞬間を置いた後破顔した。
「おや、そうなのかい。そりゃあ悪いことしたねえ。酒ってのは楽しく飲むもんさ」
「うわばみと一緒に飲む時は、相手の空気に飲まれちゃいけねえ。坊主、覚えときなァ」
大太刀と槍の大きな手が、髪を高く結ったかの子供の頭をくしゃくしゃと撫でる。それが不服なのか不動はゆるく頭を振るが、その程度で退く力ではなかった。
「これ以上潰されねえように、こいつは回収してくぜ」
そう言って薬研は、短刀にしては骨太で大きい不動をひょいと横抱きにしてさっと宴会場から退室した。



短刀部屋までの道中、アルコールのの匂いだけでふらふらしていた不動がまともな意識を取り戻し、抗議した。
「ちょ…、何してんだよ!馬鹿!おろせ!」
「お前が下戸なのは魔王の刀だった奴ならみんな分かってることだ。ヘンな片意地張らないようになったら介抱するのをやめてやるよ。ははは」
そういって用意していた水を張った盥に手ぬぐいを浸し絞ってから、横たえたかの新入りの額に置く。
酒精に茹った頭にそれは心地よかったらしく、何かしらむにゃむにゃと文句らしき言葉をつぶやきながら不動は眠りに落ちて行った。
面倒な者は参入したものだ、と薬研は思う。だが悪い気はしない。兄の言葉を借りれば、弟を率いるのを同じようなものだ。同じ主をもった刀同士と思えば親近感も強い。
「信長公……」
寝言までかの魔王の名を呼ぶ彼にひとつ苦笑しその頭を撫でれば、やや硬質な髪が指を通る。かの右府殿の影響を強く受けた彼だから、この髪質ももしかしたら彼と似ているものなのかもしれない、とちらりと思った。






不動くん来たらニキと不動くんの話書いて!!って言われた2時間後くらいに不動くん来ました。審神者の呪いすごい。
というわけでニキ推しさん用に薬研の男前度盛って書いてみました。