刀剣乱舞 青江+歌仙





眼前で石切丸が祝詞を唱えながら大幣をばさばさと振っている。
後ろで山伏が経だか真言だかを唱えながら座禅を組んでいる。
二人に挟まれ、青江は正座で俯いて冷や汗をだらだらと流している。頭のなかでは「どうしてこうなった!」という言葉がぐるぐるとうずまいていた。



事の発端は、彼と同じ青江派である数珠丸が期間限定で鍛刀できるという政府からの告知を、皆が一同に会した夕飯時に審神者が皆に知らせたからだ。
途端、場が一気にどよめいた。あるものは期待で。あるものは不安で。
数珠丸恒次といえば、天下五剣の一振りである。同じく天下五剣である三日月は所謂レア5と呼ばれる刀剣で、潜在的な力も強い。ならば数珠丸も同様であると考えられる。ならばその男士を本丸に迎えることができれば戦力として十分期待できるだろう。――それが期待でどよめいた者の思考である。
対して不安でどよめいた者は、共通して本丸の古株であった。つまりこの本丸がどういう傾向を有しているか熟知している。つまり鍛刀運が無いことを知っているのである。
今まで鍛刀でしか来ない刀剣などなかった。ドロップ運というものはそこそこあった。故にこの本丸には実装されている男士の全てが揃っている。
しかしここに来て、鍛刀のみでしか来ない男士の実装である。古参の者、特に初期刀である歌仙はひときわ蒼褪めた。
「これまで順調だったのに、ここでまさかの大番狂わせが来てしまったか」
「そうみたいだねえ」
「なんでそんなに他人事みたいにしているんだい、青江。君と同じ刀派の者が実装されるというのに」
「そう言われても、刀匠(ちちうえ)も違う、面識もない相手にどう接したらいいかなんてわからないよ。君だって最初は和泉守くんと接しあぐねていただろう」
「ふむ、言われてみれば。――さて、鍛刀の近侍は誰になるのだろうね。皆からの期待に押しつぶされそうな者でなければいいんだが」
「誰が鍛刀してもたいして変わらないと僕は思っているけど。交代制なら歌仙が思うような負担にはならないだろうから、そうしてくれるとありがたいねえ」
「主のことだから、運の良さそうな者を抜擢する、とかありそうだ」
「物吉君みたいな子ってことかい」
「それもあるだろうね。あとは、今までレアを持ち帰った回数の多い刀剣だとか」
「へえ、なるほど」
それもあるかもな、と思いながらこの本丸にいるレアが来た状況や隊員を青江は思い返す。
そしてしばらく思案して、ふと思い至った。
「僕、レアドロップのとき毎回居合わせたかもしれない…」
瞬間、隣で盛大にがちゃんと音が鳴る。歌仙が箸を膳に叩くように置いた音だった。
「なんだって!!」
歌仙の大声が広間に響く。
「歌仙、君、いつもの雅はどこへやったんだい」
「ああ、これはすまないね。いや、今なかなかに聞き捨てならない言葉が聞こえてね」
「いやほら、脇差は皆の手助けをして力を引き出す補助役を担ったりするだろう?僕はこの本丸で一番初めに来た脇差で、自然練度が高かったから、墨俣や厚樫山や三条大橋や連隊戦でよく隊員として組み込まれたのさ。だから毎回レアドロップのときは僕がいた気がするなあ、って――」
「主、主!!ここに豪運刀剣がいるぞ!これは間違いなく運命だ!」
歌仙の二度目の大声に、その場にいる全員からの視線が青江に集まる。瞬間、逃げ場が断たれたのを察したのだった。



祝詞と真言が終わり、審神者に腕を掴まれて青江は立ち上がる。その顔からいつもの笑顔がすっかり消えていることに誰も気付かない。
手をひかれるまま鍛刀部屋に連れていかれ、鍛冶妖精に資材の指示をするためのパネルを手渡され、いよいよ青江は蒼褪め、パネルを受け取った手が震える。
正面には鍛冶妖精、横には審神者、すぐ後ろにはついてきていた石切丸と山伏。その後ろに数多の気配。なまじ偵察が高いだけに、どれだけの人数が野次馬にきているのかなんとなく察してしまった。
(遠征に行ってる子以外全員じゃないか!!内番放り出して見に来るもんじゃないよ!!)
頭の中の自分がそう絶叫するが口には出ない。
ぐるぐると頭が色んな情報をリピートしながら迷走するのを感じる。ふと、審神者が100万DLがどうのこうの言っていたのを、辛うじて残っていた理性が捕まえた。
(100…それだ!!)
all100なら脇差が出る可能性が高い。脇差が出るなら今なら一定以上の確率で青江自身が出来るはずだ。それなら「青江派違いができてしまったよ」と笑い話にできる。これだ!
正直確率はそこまで高くない。しかし数珠丸を引き当てるよりはよほど高い。
震える指ですべての資材を100と入力して、パネルを妖精に手渡せば、表情の読めない彼がこくりと頷いてそれを受け取る。
その場にいる全員が数珠丸の登場を願う中、青江だけ違うことを考えながら、ぎゅっと目をつぶった。






書けば出ると聞いて、数珠様祈願に書いたブツ。
ちなみに当本丸では刀帳順にじゅんぐりに鍛刀させてたのにマジで青江が呼んでくれました。さすが青江!