刀剣乱舞 三名槍





刀剣男士はそれぞれの刀種によって手入れ資源が変わり、それに比例して普段摂る食事の量も変わる。
例えば短刀なら見た目相応にしか食べられないし、大柄なものは大人の何人前も食べる、というようにである。その大食いの代表格が槍の3人であった。

さて、そんな彼らであるが流石に食べる量を減らすように審神者からお達しがあった。
ただでさえ資材貧乏の本丸なのに、エンゲル係数がやたらと高いのである。食費にまで金がかかっては大赤字で資材を買う金もなくなるのだという。そこまで本丸の経営が火の車であるとは知らなかった3人は目を丸くした。
それくらい自分たちが遠征で稼ぐという彼らの進言は遠く、「お前たちの手入れ資材(もしくは資金)で重傷の短刀が何人回復できると思ってるんだ!」と言われれば黙るしかなかった。

いつもなら頬に米粒くっつけてご飯をかっこむ御手杵はどこかしょんぼりとしながらちまちまと食べ、いつもなら照れ笑いしながらお代わりをねだる蜻蛉切は手のやり場もなくしょんぼりと空のお椀を見つめている。いつも通りに見える日本号さえ、酒のつまみを塩のみにしていた。
その様子を不審に思う者はいるものの、いい大人がすることなのだから口を出すまいと見守っていた。
御手杵がぼーっとしながら「からあげ」と言う。
御手杵の視線が日本号の方へ向く。すると日本号が「げそ」とぼそっと言う。
御手杵と日本号の視線が蜻蛉切の方へ向く。からあげ、げそ、と来ればしりとりだろうと予想がついた。そして蜻蛉切も腹を減らしていた。故に「そーめん」と言い、そして失態に気付いた。
それを他二人は責めるでもなく、少しだけ間をあけて、おもむろに日本号が「はまち」と言った。
日本号の視線を受けた御手杵は、「ち…ちんすこう」と言った。
再び御手杵と日本号の視線が蜻蛉切の方へ向く。「う……」視線に急かされた出てきた言葉は「うどん」であった。
「「「……」」」
不思議な沈黙が彼らの中に落ちる。
「蜻蛉切、おまえさん疲れてるのか…?」
「腹が減ってちゃ頭回んねえもんなあ」
二人のフォローが逆に胸に痛い。そしてタイミング悪く鳴く腹の虫の声が耳に痛い。
「空腹もまた、修行……」
「なんか山伏みたいなこと言い出したぞ」
「すっげえ似てるな。あれ……あんた、顔色悪くねえ?」
御手杵がぐっと蜻蛉切の顔を覗き込む。それに驚いて少し身を引けば、視界がぐらりとぶれた。自覚がなかったが数日の栄養不足は相当無理がきていたらしい。座っている体勢すら辛く、意識がふっと遠のく。
自身が倒れた音を最後に蜻蛉切の視界は暗転した。



蜻蛉切が次に目を覚ましたとき、隣の部屋で大層な剣幕の声が聞こえた。しかしその声に聞き覚えはない。
いまだ重い体を引きずって隣の部屋に続く襖をそっと開ければ、正座する審神者を前に金髪の少年が説教しているのが見えた。二人の間には帳面らしきものが置かれている。
訛っていて聞きづらいが、少年いわく「こんな無駄の多い金銭管理をしておいて、まず食費から削るとは何事だ」「身体が資本なのだからそれで倒れる者がでてはその世話で赤字になる、本末転倒だ」「日々の節約が大事」とそんなことを言っているようであった。
その説教がふっと途切れ、二人の視線が同時にこちらへ向く。
「蜻蛉切!ほんっ…とうに、申し訳なかった!」
審神者が深々と土下座するのを慌てて押しとどめながら、おろおろして少年の方を見る。
「初めまして、俺は博多藤四郎!博多商人出身のこの俺が、ここの財政をめいっぱい良くするけん、安心してよかよ!」
にかっと笑う少年の笑顔は、Lv1短刀とは思えないほど頼もしく大きく見えた。

そして彼の宣言通り、本丸の財政はがらりと改善された。こまごまとしたところは節約し、その代わり畑は以前の数倍の広さにし、採れた野菜は博多が自ら売りに出して本丸の収入とした。
火の車だった本丸の台所事情は余裕が出来、勿論食を減らされることはなくなったどころか、お代わりまで自由になった。
その知らせを受けた三名槍は大いに喜び、蜻蛉切は功労者に深々と頭を下げて礼を言い、御手杵は感極まって博多を高い高いし、日本号はぎゅうぎゅうとだきしめた。
最後の筋肉の全力プレスのせいで、まだ低レベルであったかの短刀は中傷を負い流石に審神者に叱責されたのだが、もう誰の顔にも暗い影はなかったという。






いっぱい食べる槍がすき!
三名槍回想のせいか、3人そろうとしょーもないことぐだぐだ喋ってるイメージがあります。