刀剣乱舞 日本号×審神者

※ 創作男審神者注意





寝ても覚めても、という程ではないが日本号がなんとなく気にかかっている事柄がある。それはこの本丸の主のことであった。
この本丸に参入したのが遅かった割には日本号は随分と審神者に気に入られているらしく、頻繁に近侍にされたり戦にかり出されたりしている。
勿論それが嫌な訳ではない。近侍として万屋へ付き添いをすればほぼ毎回酒を買ってもらえてありがたいし、戦に出て誉をとって褒められるのは嬉しい。ただ、他の男士とに対する好意とは違うものをあまりにも表にだされすぎて、受け取った側もつられて胸の奥が落ち着かないような気持ちになるのだ。
嬉しいような照れくさいような、ちょっと静かにしてろと抑えたいような、抱きしめてやりたいような、ざわついた心をどうにも制御できない。

今日も今日とて誉をとって帰って来た日本号をかっこいいかっこいいと審神者が連呼し褒めたたえ、それを照れ隠しまぎれにぐりぐりと撫でていると、それを見ていた和泉守が口を挟んだ。
「そりゃあ誉をとったのは日本号のおっさんだけどよ、出撃隊をしっかり率いたのは俺なんだぜ?」
拗ねたように口をとがらせてはいるが、それが軽口であるのは日本号にもわかった。きっと審神者も分かっていたのだろう。しかしその軽口に乗っかって審神者は日本号からぱっと離れ、「兼さんも勿論かっこいいよ!」と言い出した。
「皆が無事に帰って来てくれたのは兼さんのおかげ!さすが兼さん!」
そこに出陣隊を出迎えにきていた堀川も混ざって、その場のノリでにわかに和泉守を褒めたたえる会のようなものができあがった。発端は自分が言い出した軽口であってもやはり褒められるのは彼とて嬉しいらしく、フフンと得意げに笑っている。
一種の冗談、ある種の掛け合いであるはずのそれは、日本号の波立った心に墨汁を落としたように黒い影を作りどろどろと淀んでいった。


その日の酒宴の時間になっても日本号は浮かない顔をしていた。
原因は言うまでもなく胸の奥のわだかまりである。頭で理解していることと胸の内にある心情がここまで乖離することなど今までなかった。ちぐはぐであることが腹の奥底をじわじわと締め付けて、折角の酒もどこか苦く感じる。
不機嫌もあらわに眉間にしわをつくりながら盃に口をつけていると、打って変わってとてもご機嫌そうな声がかかった。
「おーおー、なーにをそんなに仏頂面しゆうが?」
酒瓶を抱えた陸奥守だ。声はしっかりしているが足元がややふらついているあたり、随分と呑んでいるらしい。
「あんたにゃ関係ねえだろ」
「皆の悩み事を聞くんも初期刀の役割やき、ドーンとまぁかせちょけ!」
言いながら陸奥守は日本号の隣にどっかりと座り、一升瓶の口を向ける。それを受けるように盃を向ければ、手元が危ういなりにいい塩梅にとくとくと注がれた。
日本号と比べれば上背も厚みもさほどないのに、本当になんでも受け止めてくれそうな安心感があるのはやはり初期刀の貫禄というものだろうか。
どうせ酒の席だ、話半分にでも聞いてもらえたら多少は解決できるかもしれないと思い日本号は口を開いた。
「この体を得てから持った感情って奴ぁ、どうにも厄介だよなあ」
そう切り出して、ぽつぽつと語り始める。
主に好意を示されて嬉しいこと、それでいて照れくさいこと、笑顔を向けてくる彼がふと可愛く見えること、そして、彼が自分以外の者に好意を示すと他意がないのは分かっているのに不愉快になること。
「この正三位様がそこらへんにいそうなただの若造にここまで心乱されるのは柄じゃねえ……おい、何笑ってやがる」
何がおかしいのかにやにやした笑いを抑える様子もない陸奥守を、日本号はじとりと睨んだ。
「おんしゃあ主をちっくと迷惑がりゆうように見えたがやけんど、そうでもないようで安心しちゅうぜよ」
「そりゃあ、好かれて悪い気はしねえさ。時々妙な心持ちになることがあるけどな」
「けんどな、日本号。誉を褒められて誇らしく思うことはあるがやけど、誰っちゃあ主を可愛く思うたり、ましてや嫉妬なんてせんじゃろうなあ」
「……」
「主がおんしに向けちゅうのとおんなじ特別な気持ちをおんしも持っちょるなら、思うままに動けばえい。そんせいで何ぞ悪い方に転がりゆうなら、わしらがそうなる前に止めちゃるきに」
日本号が盃を干したのを見、流れるように陸奥守がそこに酒を注ぐ。
「じゃけんどあのお人にもプライドっちゅうもんがあるき、何か向こうが行動を起こしたがっちゅうんやったら、遮らず急かさず見守っちゃあくれんかの」
「……あんた、あいつの保護者かよ」
「初期刀やき、一応相棒のつもりじゃけどのう。――あー、わしばっかりちっくと喋りすぎたぜよ。それよりも主のことが気になりゆうきっかけでも話しとうせ!」
「そんな面白いもんでもねえよ」
「それを判断するのはわしじゃ。ほら、酒ならあるき、呑め呑め!」
「あっ、こら零すようなことすんじゃねえよ!勿体ねえ」
「まっはっはっは!」
陸奥守が勧めるままに飲んでいたらすっかりペースに飲まれて、日本号はすっかり泥酔してしまっていた。



そんなこともあったなあと、さほど昔の話でもないのに遠く日本号は思いをはせる。
ちらりと横目で視線を向ければ、審神者がどこか不本意そうにするめをかじっていた。
前からこちらを見ては何かを言いかけて止める、ということを繰り返すものだからすっかり焦れて、陸奥守のいいつけを破って無理矢理主導をとって二人きりの飲みに付き合わせたのだけど、ここまでお膳立てをしてさえ言いたいことを言い損ねるものだから、一周まわってなんだか愉快な気分になってしまった。
これもまた楽しさと思えば待ち続けるのも悪くない。だけどこちらの気持ちも察して早く思い切ってほしいとも思う。
自分の仕損じを内省しているのかうつむき加減なその頭がまた可愛らしくて、またぐりぐりと力を込めて撫でる。



さっさとこの腕の中に落ちてこい。受け止める準備はとうに出来ている。







『恋試し』と『月見酒』の日本号サイド。
番外編なのにシリーズ中一番難産でした。おもに土佐弁のせいで。なんかココ変じゃねって指摘ありましたらいつでも受け付けております。