刀剣乱舞 薬研+一期+男審神者
※ 男審神者注意




「参りましたな」
一期が言う。
「参ったなあ」
審神者が言う。
二人して見上げる空はバケツをひっくりかえしたようなという表現がぴったりの大雨で、万屋の軒下で揃って途方に暮れる。
店に来たときは、曇ってはいたが降ってはいなかった。梅雨も明けようという頃であったし降水確率は30%以下だったし大丈夫だろう、と油断したのが甘かった。やはり梅雨はちょっとした隙に雨が降る季節らしい。
とはいえここまで大振りにならなくてもいいじゃないかとは思う。道を1本挟んだ向こうにある紫陽花の低木は、雨にけぶってぼんやりとしか見えない。

審神者はちらりと横を見る。さきほどと同じく困った顔で空を見上げている一期が目に入った。
多少身体が丈夫なことが自慢な審神者は、自分ひとりだったらこの雨の中でも全力疾走で駆けて本丸に帰るという判断をするだろう。買った荷物は店からビニール袋を買ってさらに服の下に入れ込んでおけば多少雨水から守れるだろう。
だが今日は御付きがいて、しかもそれは豪奢な服を来た一期である。風邪をひかせないようにという視点でも、洗濯が大変そうという所帯じみた視点でも、心配する弟たちがいっぱいいるだろうという視点でも、この大雨の中につっこませるという選択肢はありえなかった。
ちなみにこの突然の大雨は他の客や店側としても予想外だったらしく、彼らが帰ろうとするときには傘はすっかり売り切れていた。
「うーん、参ったなあ」
もう一度溜息のように呟けば、
「参りましたなあ」
と呼応するように一期も続けた。


この雨の中買い物をしようとする者などいるはずもなく、同じように軒下で雨宿りしていた客もぽつぽつと消えてきて人もだいぶまばらになった頃。
けぶった紫陽花の影から少しずつ近づいてくる小さな影が見えた。
「この雨の中買い物か?酔狂だな」
「いえ、あれはおそらく……」
一期が目をこらしてその影を見、少しして「やっぱり」と呟いて微笑んだ。
「大将、いちにい、大丈夫か?迎えに来たぜ」
小柄な体躯ながら男前に微笑んで声をかけてきたのは薬研だった。
「よかった、助かったよ」
「さすがニキ!俺たちの救世主!」
「俺っちが迎えに来る前にこの雨の中無理矢理帰ろうとしないか心配だったぜ。大将ならやりかねねえからな」
「思考回路よまれてやがる……さすがに一期をつれてそれはしねえよ」
「そりゃあよかった」
「ところで薬研、傘は2本だけなのかな?」
「えっ」
一期が指摘し、審神者は薬研の手元を見る。片方の手には1本の傘を、もう片方の手にはさっきまで差していた傘を持っている。つまり2本。そしてこの場に居るのは審神者と一期と薬研の3人である。
「あっ……あーあ、やっちまった」
「ははは、こりゃあまたベタな間違いだな」
「自分でも驚いてるぜ」
「しかし…いかがいたしましょう」
相変わらず雨はやみそうにもない。この中でだれかひとり傘を差さずに外に出たらびしょぬれになるのは必至だろう。
「俺っちのミスだ、傘は大将といちにいで使ってくれ」
「いやいやいや、そういう訳にはいかんだろ!うーん……そうだ、一期、悪いが荷物全部もっててくれるか」
「え?ええ、構いませんが」
そう言って審神者は万屋で買った荷物と傘を1本、一期に渡した。
そして薬研からもう1本の傘を受け取り、
「で、俺がこっちを持てば解決だな」
薬研を片腕に担いだ。さすがに岩融が今剣によくやっているように軽々ととはいかないが、丁度腹話術師が大き目の人形を抱えているような格好で抱えることはできた。
「ちょっ……大将!なにやってんだ!」
「こら、暴れるなって、水たまりに落っこちたらどうすんだ。この恰好でお前が傘持ってくれたら誰も濡れずに済むだろ?」
「だったら並んで歩きゃいいじゃねえか!この体勢は流石に恥ずかしい!」
「相合傘だとどっちかの肩が濡れるんだよなあ。どうせこの雨だったらどこからも見えないさ。だよな、一期」
そう話を振れば、粟田口の長兄はくすくすと笑って同意する。
「そうですな。薬研、甘えてしまいなさい」
「くっそ、いちにいもそういうなら……わかった、大将」
「よし、決まりだな」
そうやってにこにことした大人二人と、顔を赤くしてそっぽを向く少年は雨の中足を進めていった。



審神者の言う通り、誰にも見られることなく本丸についた。
が、しかし、審神者たちを出迎えに来ていた男士たちにはばっちり見られたために、審神者は薬研にむこうずねを思い切り蹴飛ばされることになった。






「雨の日に審神者といちにいを迎えにくるニキ」というお題で即興でかいたもの。
なんでアジサイが出てくるかと言えば梅雨終わりくらいに書いたものだからです(現在10月)