刀剣乱舞 薬研+審神者他
※ (暫定男)審神者注意




その日薬研は連戦に次ぐ連戦でかなり疲弊していた。夕飯を摂ってすぐに短刀部屋の奥で床をしいてうとうとと寝ていたのだが。
どん どどん どん ぱぱぱぱぱぱ
火薬のはぜる音に目を覚ましがばりと起き上がった。
枕元の本体を手にし構え音のした方、短刀部屋の広間へ駆ける。
「敵襲か!!」
鬼気迫る薬研の様子にその場にいるもの皆がぽかんとした顔で薬研を見る。その間にも火薬の音は鳴り響く。それは短刀の半数と審神者が見ていた画面から発せられるものだった。
「起こしちゃった?音大きかったかな、ごめんね」と乱が言う。
「怖いものじゃないです。ほら、とらさんたちも大人しいし」と五虎退が言う。
「そういえば薬研は江戸の前に焼けたんだったな。じゃあ花火を知らないのも道理か」そう言ったのは審神者だった。
「はな、び……?」
薬研が首を傾げてくりかえす。
「そう、花火。江戸以前まではあんまりなかったらしいから薬研は初めて見るかな」
画面の向こうでドンとまた銃声に似た音が響き、夜空に光の花がまあるくぱあっと開く。それがぱらぱらぱらと音を立てて落ちていく。その横でまたドドンと音があがりまたひとつふたつと光の花が開いた。火薬の音がするからには、この光の花もまた火薬なのだろう。
「大将!なんだこれは!すっげえ綺麗じゃねえか!」
「だから花火だって。気に入ったか」
「ああ。俺は雅なこたぁわからねえが、これが綺麗で凄いモンだってのは分かるぜ」
「そんなに気に入ったなら、そうだなあ、丁度1週間後にうちでも花火するか。この花火大会の中継程じゃないが、火薬の平和的利用を理解するには十分な量を用意しておこう」



そして一週間後。
「あの場に居たメンバーだけのつもりだったんだけどなあ」
そう審神者がひとりごちる。
花火中継がいたく気に入った秋田が一期に例の件を話して誘い、傍にいた鶴丸が面白そうだと食いつき、そこから伊達・織田勢の耳に入ることになり、話は瞬く間に本丸中に広がった。
江戸から現代にかけて打ち上げ花火を見た者はいても、手持ち花火を見た者は少ない。誰に似たのか新しもの好きな傾向のあるこの本丸の男士たちは揃いも揃って花火に参加すると言い出し、審神者は当初予定していた10倍の量を用意することになった。

いつもなら広間や自室でくつろいでいるような時間、ぞろぞろと総勢50名超が庭や縁側に集まって来た。
流石に全員が手持ち花火で遊ぶというわけではなく、皆が遊ぶ様子を見ながらうちわで扇ぎながら縁側に座る者もあり、麦茶を用意して風鈴のそばで夕涼みするものもあり、水をはった盥に足を付けて涼むものもあり、厨番は氷水で冷やしたキュウリを用意して、花火というよりは納涼会の様相になっていた。
「えー、夜になってある程度涼しいが火のそばはやっぱり暑い。水分はこまめにとること。使い終わった花火は水桶に入れておくこと。遊びであるとはいえ火を使うものだから、建物や庭の木、ましてや人には絶対に向けないこと。ふざけて火傷したって手入れしてやらないからな!着物が焦げても同様だ。――おい聞いてるか、そこの新撰組連中と平安ジジイども!」
「うむ、あいわかった」
「わーってるって、危険なことしなきゃいいんだろ?」
にこにこと三日月が、にやにやと和泉守が言うが、どうにも理解している気がしなくて審神者は頭を抱えた。
「まあいいや、くれぐれも安全に気を配って遊んでくれ。じゃあ、はじめ!」
とたんに皆が花火の場所にわっと集まってそれぞれ手にとっていった。

庭のあちこちで賑やかな声が上がる。最初はおっかなびっくり触れていた者も、すぐに慣れて花火の両手もちをしだしたり、数本まとめて火をつけて火花を大きくして遊んでいた。
「あれも危ないんだけどなあ……まあいいか、エスカレートしてきたら注意しよう。――こっちの良い子のみんなは危ないことせずに遊んでるかな?」
審神者が車座になった短刀の中に入っていけば、花火の遊び方のお手本のような光景がそこにあって心底ほっと息をついた。こういうときに子供の姿をしている彼らの方が大人の姿をしている者よりよほどやんちゃをしないのは刀剣男士七不思議のひとつではないかとこっそり審神者は思っている。
「薬研、楽しんでるか?おお、後藤も一緒か」
「大将、こういう場を用意してくれて礼を言う。ありがとう」
「薬研が花火知らないって言ってたから、俺が今まで見たのを色々教えてたんだぜ」
「そりゃあよかったなあ。楽しい話は聞けたか?」
「ああ、江戸の空で見る花火はそりゃあもう綺麗だって。俺っちもこの目で見たかったな」
「その分今楽しんでくれればいいさ。よし、いい子の皆にはこの主様がちょっといいものを見せてやろう」
「いいもの?」
「まあ、花火セットについてきた噴き上げ花火なんだがな」
そう言って審神者はその場にいた良い子たちを手招いて呼び寄せ、少し離れて見ているように言う。
言われた通りにした短刀たちを確認して、審神者は噴き上げ花火を5つ並べて手早く次々着火してさっと離れた。
着火した順にシュウウウウと軽い音をたてて火花が吹きあがり、歓声が沸き上がる。噴き上がった火花は橙から緑、青と色を変え段々と鎮火していく。
その様子を横目に隣を見れば、薬研は瞳を見開いて一心に噴き上がる火花を見つめていた。大きな菫色の瞳に火花の光が反射してちかちかと瞬いている。
平和な時代を知らないこの子供に、かつて兵器であったもののうつくしさをこうやって教えることができたのなら、安くはなかったこの投資も決して無駄ではなかったと思うのだった。






「花火が物珍しくて目をきらきらさせてるニキください!」って言われたので。
なんでこの時期に納涼ものアップしてるのかといったら、書いたのが8月だからです(震え声)