刀剣乱舞 大典太+鶴丸+鶯丸





この本丸には不思議な風習がある。
毎朝皆が目にする掲示板に、探している刀剣男士の絵姿を「Wanted」の文字とともに貼り出すのである。その南蛮語の意味するところは「指名手配」だと聞いて、大いに笑った鶴丸は自分が探されていた際貼られていたその紙を記念に持ち帰って自分の文箱にしまっている。
とはいえ、冗談の一環とはいえ旧知の少年が指名手配犯のような姿で貼り出されるのは心臓に悪い。ようやく太鼓鐘貞宗を見つけ出して掲示板から絵姿が消え、やれやれと思ったところで今度は一気に2人も絵姿が貼り出された。



そんなわけで、鶴丸が彼を一目みて誰だかすぐにわかったのは当たり前といえば当たり前のことだった。
大典太光世といえばその刀が持つ霊力による逸話がいくつかある。その中で特に鶴丸の目に留まったものがあった。だからたった1回しかない初対面のときにやってみたい『どっきり』があった。
ちょうど都合よく、大典太は内番が終わったところらしく(絵姿と違うラフな格好だからすぐにわかった)、鶴丸は遠征がえりだった。この好機を逃す手はない。

日も暮れかかってる中で真っ白な鶴丸の姿は目立つらしく、大典太は絵姿通りの気難しそうな顔でこちらを見ていたため、目が合った鶴丸はにこやかに笑いながら駆け寄った。
「やあ、新人さんかい?俺は鶴丸国永。君は――ウウッ!」
大典太の目の前についた鶴丸は突如胸を押さえてうずくまった。もちろん仮病である。
大典太には蔵に近寄る雀を霊力で殺したという逸話がある。だから鳥の名を持つ自分もその影響をうけた、という演技である。もちろん鶴丸は鳥ではないので影響をうけるはずもない。だからこれで大典太が驚くかあきれるかするだろうと思い、実際大典太は驚いてうろたえているようだった。仏頂面の割にはなかなかにいい反応をする。
そんなところに、偶然通りがかる者があった。
「どうした鶴丸、そんなところで……?」
うずくまっている鶴丸には見えないが、後ろから聞こえるのは鶯丸の声だ。そして大典太を見、鶴丸を見、少し考えたような間があってから、「ウウッ!」と声が聞こえくずれおちたような音がした。
その様子に鶴丸は忍び笑いをする。この鶯丸も、自分の指名手配書を自分で大事にとっておいている程度には冗談のわかる愉快な刀である。鶴丸のやっていることを瞬時に理解してノったのだろう。
「どうした、鶯丸!」
うずくまったまま「鶯」のところだけさりげなく強調して声をかければ、
「急に胸が……!」
端的な言葉ながらなかなかの迫真の演技が返ってきて、鶴丸はいよいよ笑いをこらえるのが難しくなってきた。
大典太がろくに言葉も発しないまま一層おろおろとするのが足元の動きだけでわかったので、そろそろ袖に入れていた『どっきり大成功!』のプラカードを出そうとしたところ、目の前の地面にぽつっと水滴が落ちた。雨か?と思いふっと見上げるとその滴はあの顔色の悪い仏頂面から落ちてきていた。
「ええっ!?」
思わず驚きの声を上げれば、大典太はその声に驚いたのか目を見開いた。その拍子にまたひとつふたつと滴が落ちる。
「な、泣かすつもりはなかったんだ!悪い!ええっと、鳥の名を持ってるからっていって君の霊力の影響受けたりしないから!な?」
「……そうなのか?」
「ああもちろん!ほら、鶯丸もいつまでも座ってないでフォローしろ!」
「そうか、よっ…と、ほら、俺もこの通り何もないぞ。驚かせて悪かった」



その後、ほっとした大典太がさらにぼろぼろ泣くのをソハヤに見つけられ、二人は新入りにこんこんと説教された。鶯丸のとっておきの玉露と鶴丸が気に入りの和菓子屋の茶菓子をふるまうことで許してもらえた。
しかしその後ソハヤの私室から三池兄弟の指名手配書が見つかったため、鶴丸に仲間認定され、泣かせない程度に大典太を驚かせる一員になったという。






鳥殺しの話があると知ったらもう鳥太刀と絡めるしかないと思った。
でんたには泣き虫のイメージがなんとなくある。