刀剣乱舞 薬研+前田+歌仙
※伝聞のみですがキャラ濃いめの審神者注意





「薬研、ちょっと待っててくださいね」
と前田が部屋を出て行って、かれこれ15分。何もすることもなくぼーっとしてとろとろと眠気が訪れてきたころ、ようやく廊下から戻ってきたような音がした。誰かを連れているようだ。
「お待たせしました!ちょっと歌仙さんがごねてしまって」
「人聞きが悪いね。主はいつも楽しそうなのだから、わざわざ誕生日だからと言って特別何かしなくてもいいんじゃないかと言っているんだ」
「ああ、もうすぐ大将の誕生日なのか。俺っちがいた時代は特別何か祝うなんて話もなかったからすっかり忘れてたぜ」
「はい。それで、この本丸最古参のこの三人で何か考えて贈り物をしようと思うんです。知恵を貸していただけませんか?」
「いいねえ!大将にはいつも世話になってるからな。この機会に何か返すってのはいい考えだと思うぜ」
乗り気で賛同する薬研に対して、
「世話をしている、の間違いではないかな。宴の準備だったら既に計画を立てているし、何か贈るのだって、薬研がしょっちゅうしているだろう」
歌仙は渋い顔でやんわりと反対をする。
別に審神者のことを嫌いな訳ではない。審神者が無能で苦労するというわけでもない。むしろ審神者としてのレベルは高く、資材も小判も手伝い札や依頼札も唸るほどため込んでおり、かといって手入れを渋るなんてことはなくためらいなく資材も札も使う有能な審神者であった。
ただ、歌仙の目から見てすこぶる「雅じゃない」のである。というのも。
「贈り物って、俺の靴下のことか」
「あれは主君の生き甲斐だそうですから」
審神者の一番の気に入りである薬研の、使用済み靴下を収集するという謎の行動を頻繁にとるからである。収集したそれをどうしているのかは知らない。理解しがたい変人とはいえ淑女の行動を詮索するなど、それこそ雅でないからである。
「前田、あれは生き甲斐なんて綺麗なものじゃない。ただの悪癖と言うんだ。いずれやめさせたいのだけど」
「だめですよ、歌仙さん。薬研の靴下を取り上げたら主君は干からびてしまいます」
「というかやはり薬研の靴下をあげれば一番喜ぶのだからそれでいいんじゃないか?」
「大将が毎日もっていくから持ち合わせがねえんだ。悪いな」
「まいにち」
歌仙がさらに眉をしかめて復唱する。
「ほんとうに!雅さのかけらもないな、僕の主は!!」
「今更だぜ、歌仙」
「それならば、薬研がなんでも願いを叶える券、なんてのはどうだろう。特別な日に特別なものをあげるというのは良いと思わないかい」
そう提案すれば、短刀二人はそろって少し困ったような顔をした。
「大将のために何かするのに異論はないんだが、その『なんでも』ってのはどこか嫌な予感がするな」
「ええ。うかつに『なんでも言うことを聞く』なんて言ってはいけないよ、悪い人に何を要求されるかわからないから、と主君も言っていました」
「そういう発想がさらっと出ること自体がかなりおかしいと思うのは僕だけか……。――僕から出る提案はこれ以上ないが、君たちはどうだい?」
「俺っちは買い物に出かけてその道すがら考えるってのでいいと思うぜ」
「右に同じく、です。僕も思いついてから色々と考えてみたのですけど、いいのが思い浮かばなくて。歩きながら3人で話せばきっといい案も浮かぶような気がします」
「では、万屋に行くとしよう」




「今、いい鯛があったな」
万屋までの道にある魚屋の前でそう言ったのは薬研だった。
「気になるかい」
「やっぱ、祝い事と言えば鯛だからな。しかし今買っても宴にはまだ早いんじゃないか」
「うちの本丸の冷蔵庫は優秀だからね、数日程度なら鮮度も保つようにできているよ。君の目利きを信用するから買っておいで」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
歌仙から財布を預かり、薬研はぱっと魚屋の店主のところに向かっていった。ただ買うのではなく、値下げ交渉するつもりなのか少し話し込む様子なのが遠目にもわかる。
「彼は鯛が好きだねえ。前の主のいずれかの影響だったりするのかい?」
「いえ、そういう話は聞きませんね。単に薬研個人が好きなのでしょう」
「そうなのか。主の就任一周年記念の宴の時に鯛をわしづかんで厨まで持ってきたときは驚いたものだけど、よその本丸の薬研も同じようなことをしているらしいと聞いて二度驚いたのを今思い出したよ」
「あの政府管轄本丸の刀剣男士の写真集の話ですか」
「そう、あの記念祝画とかいう冊子のね。あちらは結び切りまでつけていたものだから驚きを通り越して笑ってしまった」
「でも主君はあの写真集の薬研も随分気にいってらしたようですよ」
「まあそうだろうね。……ふむ」
「歌仙さん、あなたが今考えていることを当ててみせましょうか」
「いや、結構だよ。ところで君は現代機器はどれくらい使えるんだい」
「主君と同じ程度には」
「なら重畳」
二人は顔を見合わせてくすくすと笑う。
そこに店主との交渉を終えた薬研が戻ってきた。ご丁寧にかの祝画と同じように、しかし両手に1尾ずつ鯛をそのままわしづかんでいる。
「ちょうどよかった。薬研、その鯛も使って面白いものを作ってみようかと思っているのですが、協力してくれますか」
「おう、協力は惜しまねえぜ。しかしコレを使ってっていうのはなんだ?」
「まあそれはやってみてのお楽しみということにしておこうじゃないか」



『面白いもの』のために、歌仙は初期刀権限で本丸の庭の季節をころころと変え、前田が審神者からカメラを拝借し、薬研をたくさん撮った。
ある写真は桜の木の枝に薬研が座っていて、またある写真は紅葉の木の下で杯を傾けていて、さらに別の写真では雪だるまを作っている。
構図やシチュエーションの参考にしているのは、例の写真集であった。ただし被写体はすべて薬研で、構図に少しずつアレンジを加えたり、複数人必要なものは被写体に粟田口の兄弟たちを加えたりした。
それらすべてを審神者のいない隙にプリンターで印刷し、歌仙の私物である特殊紙と飾り紐で和綴じにして、世界に一つだけの『誕生日記念祝画』が出来上がった。
「初めて製本したにしては随分と雅に仕上がったなあ!中身がほとんど俺っちってのがちょっとひっかかるが……」
「それがいいんじゃないですか。主君もきっと喜びますよ」
「どんな反応を見せるか楽しみだね」
そんなことを話しながら3人はぴたりと1カ所で足を止める。審神者の部屋の前だ。
「大将、ちょっといいか?渡したいものがあるんだが」
部屋の中から返事が聞こえ、障子に手をかける。そして開ける一瞬前に3人は顔を向き合わせ、無言でにっと笑った。






薬研最推しの人の誕生日に押し付けたブツ。リク内容は「ニキがお祝いしてくれる話」。
ちょうど祝画発売日の少し後(9月)だったのでこんな感じになりました。