刀剣乱舞 今岩





自分自身は延享江戸への出陣が重なり、あちらは長時間遠征が重なり、すれ違う生活が続いたところでようやく一緒に本丸で過ごせる時間ができたと思ったらそろって畑当番を任された。
ぷくーっと頬を膨らませて今剣は下駄の先で畑の土をつついていた。馬当番ならまだ楽しくできるのに、一番嫌いな仕事である畑仕事だ。隣を見上げればさんさんと照る日を眩しげに見上げる巨躯が視界に入ってちょっとだけもやもやした心が落ち着いた。
「神通力でばーっとかたづけられればいいのに」
そしたら余った時間でたくさん一緒にいられるし、たくさん遊べるし、畑仕事なんかするよりずっとずっと楽しいのに。あと単純に地道な作業は面白くない。
「はっはっは!残念ながら我らにはそのような便利なものは無いからな!地道にこなすしかあるまい」
そう言って岩融は今剣の頭をわしわしと撫でるが、膨らんだ頬はまだそのままだ。そのむくれた顔を見、ふっと笑う。
「そんなに畑仕事が嫌か」
「そりゃあ、そうですよ」
「ならば俺が二人分やっておこう。今剣は木陰で休憩でもしておれ」
「えっ、いいんですか!?」
「はっはっは、あまり良くはないだろうなあ!だが、俺は力仕事は苦ではないし、おぬしも連日の出陣で疲れているだろう。ここは任せておけ」
「ふふっ、じゃあまかせちゃおうかな?おねがいしますねー」
「心得た!」
岩融の提案にすっかり甘えて、今剣は畑の傍の木にぴょいと飛び乗って木陰で涼むことにした。



穏やかな風が吹き、木の葉がさやさやと音を立てる。太陽は元気に照っているが木陰に入っている今剣にとってはちょうどいいくらいだった。
こんな心地の良い日は笛のひとつでも吹きたいくらいだけれども、先ほど吹いていたら下にいる岩融に「笛の音を聞かれたら怠けているとどやされるぞ」と笑って指摘されたので、おとなしくしまっておくことにした。
「しずかだなあ……」
外で元気に遊ぶのも大好きだけど、穏やかな時間も好きだ。なのに胸がすうすうするような、どこか空しい気分になる。
人にも刀にも適材適所というものがあるのだから、畑仕事を任せていることには何も問題ないと思うのだけど。
そう思いながら畑に立つかの薙刀の姿をなんとなしに見れば、視線を感じたのか否か岩融と目があって、にっと笑って手を振られた。振り返そうと手を上げた拍子にふと、偵察の高くなった視界の中にちかりと光るものが目に入る。岩融のこめかみから頬、喉とつたって胸元に吸い込まれていく光の粒を目で追った瞬間、凪いでいた胸の内が大きくざわめいて、いてもたってもいられなくなって木から飛び降りた。

「おお今剣、休憩は終わりか?それともこっちを手伝う気にでもなったか?」
「うーん……きのうえはひまなんです」
「はっはっは、そうかそうか」
「でも、ごほうびもらえたら、がんばりますよ!」
「褒美?そう俺から渡せるようなものはそんなに無いぞ」
「ものがほしいんじゃないんです。そうだなあ、ちゅー、したいです。そしたらとーってもやるきでちゃいますよ!」
傍で誰かが聞いていたら「何を言っているんだ」と呆れるような今剣のおねだりに、岩融はひとつ目をまるくしてから「なんだ、そんなことか」小さく笑った。
「ちゅー、というのは口吸いのことでよかったな?それならいくらでもしてやろうぞ」
「ほんとですか!やったぁ!じゃあ岩融、かがんでください」
「応!」
その巨躯をほとんど座るくらいに屈めれば逸った今剣がその唇に、ちゅ、と口づけた。
「おっと。今ので良いのか?」
「まだまだ、もっとです」
小さな白い手を頬に添えられて、ちゅ、ちゅ、ちゅと浴びせられる口づけをしばらく黙って受け取っていたが、さすがに長いと思い薄い肩をそっと押して身を引き離した。
「ちょっとぉ、まだたりないですよ!」
「残りは当番の後にせぬか。このままでは日が暮れても終わらんぞ」
「む、それもそうですね……」
「なに、この身ひとつでできる『ごほうび』くらいなんでも付き合おう」
「ほんとですか!ぜったいですよ!」
「おうとも。俺がお前に嘘を言ったことがあったか?」
「じゃあばびゅーんとおわらせちゃいましょう!どうぐとってきますね」
「はっはっは、あまり急くと転けてしまうぞ」
あっというまに小さく遠くなる白い背中を岩融は目を細めて見つめる。
修行を経て「すこしおとなに」なった今剣が次はどんなおねだりをする気なのか、勿論彼には知る由もなかった。






久々に書いた今岩。
好きなのになんとなく書きづらいなあと思う原因が、突っ込み不在カプだからだと最近気づきました。