刀剣乱舞 日本号+同田貫





年越しの宴会が始まってもう数時間が経った頃。
喧噪の真ん中の方から不穏な気配を察知して日本号は酒瓶を持ってそろりと宴会場から抜け出した。半分弱はもう居場所を変えてるくらいにぐだぐだとした雰囲気になっていたから、今更一人減っても大したことではないだろう。
自室で飲み直すか?と思いながら廊下に目を移せば、夜の闇の中でぼんやりと浮かぶ人影があった。
「うおぉっ!?」
「あぁ?」
「あー、同田貫か。正月前にして幽霊でも見ちまったかと思ったぜ」
「御神刀やら幽霊切りやらがいるこの場所で幽霊なんか出るかぁ?」
「わかんねえだろ。そんだけ人がいると思わねえ場所で会ったってことだよ。こんなとこで何してんだ」
「何って、見りゃわかんだろ。酒飲んでんだよ」
確かに同田貫の座っている縁側の、その腰の横に酒瓶とつまみの乗った皿が置いてあり、手には猪口の代わりか湯呑があった。
「わざわざ宴会場の外でか」
「騒がしいの嫌いなんだよ」
「あー、そのせいか!お前さんがいつも宴会の途中で消えたり端っこで飲んでたりするの」
「……よく見てるな。あれだけいれば一人ぐらいいなくなっても気づかれねえと思ってたんだが」
「そりゃあ、いつか飲みながら話してみたいと思ってたからな」
そう言って日本号は、よっこいせっと言いながら皿を挟んで同田貫の向かい隣に座る。ここに腰を据える様子を見、同田貫は訝し気にかの槍を見る。
「あんたがわざわざ俺にィ?」
「おう!」
「正三位サマにわざわざ話して聞かせるような話なんざ持ち合わせちゃいねえよ」
「はっはっは、謙遜しなさんな。本丸にいる他の誰よりも話題が豊富なのは、俺はちゃあんと見抜いてるんだぜ?――あ、これもらうぞ」
二人の間にある小皿に手を伸ばしながら言えば、
「構わねえが、さっき小夜がラストオーダーだって言って持ってきたから、あんま食いすぎんなよ」
「おおっと……了解した」
飲食店を経営してるはずもないこの本丸では、宴会の場においてなぜかラストオーダーというものが存在する。そしてそれは誰かが注文して作られるものではなく、厨番が適当にありあわせのもので作ったつまみのことを指す。
同時に、それ以上厨の食材を勝手に持ち出したら厨番からの鉄拳制裁およびペナルティを容赦なく受けるという意でもある。先日ペナルティとして明石が遠征中の弁当をすべて白米にされたのは記憶に新しい。
「これが最後なら食い過ぎないようにしねえとなあ」
「宴会場ならまだいくらか残ってんだろ」
「次郎がまた何かヘンなこと始めようとしてたからなぁ……避難しねえと巻き込まれる」
「おい、あんたが止めなきゃ誰があいつ止めんだよ」
「太郎が止めるだろ、多分」
「太郎太刀なら蜻蛉切んとこいったぞ」
「はぁ?なんでまた」
「自分より背が高い奴の傍行くと落ち着くことに気付いたんだって聞いたぜ。まああいつらは特に姉川での縁があるみたいだしな」
「ああ、だから最近ちょくちょく槍部屋まで来てたのか」
「なんだその面白い構図」
「こっちの部屋まで来て何するでもなくぼーっとしてるからな、たまに昼間から一緒に飲んでた」
「あいつも結構上戸だからなあ」
「で、その蜻蛉切はどこいったんだ」
「物吉と鯰尾に連れられて脇差部屋行ったぜ」
「……脇差部屋が随分と狭くなってそうだな」
「御手杵といい蜻蛉切といい、槍ってのは脇差と仲が良いモンなのか?」
「俺にそれ言うのか?どっちかと言えば俺の場合は、博多が兄弟連れて絡みにくるくらいだ」
「確かに粟田口と一緒にいるのよく見るな。この間畑当番さぼろうとして博多に蹴とばされてたろ」
「自分のワーカーホリックをこっちに押し付けんなっつぅんだよなあ。しかも力はそんなにないくせに的確に痛いところ狙ってくるんだぜあいつ」
「最初っから真面目にやってりゃ済む話だろうが」
博多に蹴られたときのことを思い出したのか渋面を作っていた日本号は、ふいにぱっと顔を明るくして同田貫の方を見、にやりと笑った。
「ンだよ」
「いやあ、やっぱお前、色々見てんなあって思ってな」
「そうか?」
「戦にしか興味ない、それ以外どうでもいい。みたいな顔しておいて、案外結構好きだろう、人のことも仲間のことも」
指摘された同田貫は目をみはり、数瞬後顔を背けぐっと眉根を寄せながら酒を呷る。
「……悪いか」
「悪かねえさ。むしろ共に戦う仲間のことをよく知るのは、戦を有利に進めるのに通じるからなぁ」
「ああ、そうだ。分かってるならいい」
「そんなお前さんの目から見たこの本丸のこと、人の世のこと、今まで見てきたこと、これからのこと、そういうのに俺は興味あるのさ」
「偉いさんの考えることはわけわかんねえなあ」
「そうか?それに、お前が案外話好きなこと知ってるんだぜ?内番してる片手間に秋田に色々話して聞かせてたんだってなあ?」
「おま…どこでそれ――くそ、博多経由か」
「丁度コレも空になったことだし、ちょっと良いつまみくらいなら奢るからよ」
空になった小皿を持ち上げてぷらぷらと振ってみせれば、同田貫は打刀棟の方を見、煌々と明かりがともっているのを確認して、しぶしぶといった様子で了承した。
「戻っても寝れそうにねえしな……しょうがねえ。槍部屋向かえばいいのか?」
「その前に貯蔵庫言って酒拝借するか。こっちの瓶ももうだいぶ少ない」
「俺だけで飲んでたときはまだ半分くらいあっただろうが。あんたどんだけ飲んでんだよ……」
「へへっ、いいじゃねえか。あ、御手杵がこっち戻って寝るつもりだったらちょっと言っておくか」
「そうだな」
そこまで喋ったところで、テレビをつけたままにしている宴会場からごーんごーんと除夜の鐘の音が聞こえ、しばらくした後わっと喧噪のような声が聞こえた。
「明けたみてえだな」
「だな。おめでとさん」
「ああ、おめでとう」
「せっかくだから祝い酒ってことで、移動する前に此処で一杯やっとくか」
「今更祝い酒もクソもねえだろ」
「半端に残った瓶もってっても邪魔なだけだろ、ほら湯呑よこせ」
そう言って日本号は同田貫が持っていた湯呑を奪い残っていた酒を注ぐ。湯呑2つ分できりよく瓶が空になった。
「お、新年早々幸先いいな」
「幸先いいっていうのか?それ」
「めでたいって思っておけば気分いいだろ?うっし、それじゃあ、えー、本丸のますますの発展と俺たちの戦勝を祈ってー」
「「乾杯」」
静かな縁側でカチンと軽い音が響く。
ちらちらと舞い始めた雪と機械越しの除夜の鐘の音を背景に、本丸の夜が更けていった。






『月を見る』シリーズの元ネタ氏が12/31、『下戸』シリーズの元ネタ氏が1/1に誕生日だそうなのでそれに寄せて。
たぬはいろんなこと知ってるし唆せば色々喋ってくれる子だという印象が強くあります(だいたい台詞が長いせい)