刀剣乱舞 大典太+前田
※17/3/1のみわせんせーの絵を見てないとわかんないやつ
※シリーズ前作は読まなくてもいいけど繋がってるやつ



ソハヤと一緒に縁側で食べていた団子がきれいに片付いて、ついでに茶を一服して一息ついた後。
皿を片づけに厨に向かった大典太は偶然、さっき会ったばかりの前田に行きあった。
「あっ、大典太さん。先ほどはおだんごありがとうございました。おいしかったです」
受け取った時にも言われた礼をまた言いながら、前田はぺこりと頭を下げる。
「いや、こちらこそありがとう。なんとなく余ってとりあっていたものだったから、きれいにさばけて丁度良かった」
むしろあの程度で礼を言われる理由などないし、普段から前田には世話になりっぱなしなのだ。そんなことを思っていると、ふと至った考えがあった。
「実はな、さっきの団子は、今日初めてひとりで買い物に行くことができて、そのとき帰りに買った手土産だったんだ」
「ええええ!」
思いがけずあがった大声に大典太はびくりとする。前田ははしばみ色の目をまあるくして両手を口元にあてていた。
「ど、どうした」
「先におっしゃってくれれば、もっと大事に味わって食べたのに……」
「ええと、すまなかった……?」
「ああ、大典太さんが謝る必要はありません。少し前の自分に対してちょっと残念に思っただけですから」
少ししょんぼりとする前田に、たかが団子一粒をそこまで気にする必要はないのだけどな、と思いながら大典太は続ける。
「そうか。――で、だ。こうやってひとりで外に出て問題なく買い物が出来るようになったのは、前田のおかげだ。感謝している」
「いえいえ、大したことはしていません」
「そんなことはない。本屋を見に行こうと言って連れ出してくれたのも、そのあと俺の財布を見たててくれたのも、露店での買い食いの仕方を教えてくれたのもお前だ」
そのとき買った黒のシンプルな長財布を手にとる。その端に小さくつけられているのは前田家家紋に似た紅色の梅モチーフの根付で、前田の財布についているものと同じだ。(ちなみに前田の財布は平野とそろいの藤色で、平野の方には菊の根付がついているそうだ)
「ふふ、そういえばそうでしたね。あなたと一緒にいろんななところに行きました」
「だから、今までの礼にお前に何か渡したいと思ってる。何がほしい?」
「えっ、そんな、わざわざいいですよ!」
頭をぶんぶん振って申し出を遠慮する前田の様子が予想通りすぎて、大典太はふっと口元を緩める。
「俺の心持ちの問題なんだ。してもらってばかりでは心苦しくてな」
「そう、ですか……そういうことなら。ええっと、何にしましょう」
大典太がそう言えば前田は折れて、目をつむって熟考しだした。それがあまりにも真剣なものだから、その様子をしばらく見守ってから、別に今すぐ答えをださなくてもいいぞ、と口を挟もうとした矢先、ぱっと前田が顔を上げる。
「そうだ、素敵なのを思いつきました!」
「なんだ、なんでも言ってみろ」
「こんど大典太さんが街へ行った時、『おいしそうだな』と思ったものを2人分、買ってきてくれますか?」
「おいしそうだなと思ったもの……」
曖昧な指定をされて少々困る大典太に、前田はにこりと笑む。
「ええ。もうすぐで春でしょう?これからいろんなお店の店頭に、春をイメージした食べ物や、旬のものが並ぶんです。桜の葉を使った桜餅とか、桜の花びらが入った羊羹とか、春の花をかたどった練り切りとか、いちご大福とか。いちご味のチョコ菓子なんかもたくさん!店頭が瞬く間に桃色に染まるんです。 それにみんな花見を楽しみにしていて、露店もたくさん出て街がだんだんお祭りの日みたいになるんです」
「ふむ」
華やかな桜色をした和菓子や、今より更ににぎやかになった街を想像する。が、見たことをないものを想像するのは、想像力の乏しい大典太には難しかった。
「いろいろと溢れて並んでいる中で、大典太さんがいいなと思ったものを選んでほしいんです」
「そんなものでいいのか」
「それが、いいんです」
ふふ、と前田は花がほころぶように笑って続ける。
「この本丸の一番大きな桜の木、知っていますよね。去年もおととしもそこでみんなでお花見したから、今年も満開になったころにお花見すると思うんです。その全員でのお花見の一足先に、ふたりで大典太さんの買ったものを食べながらお花見したいなって思って。どうでしょう?」
花見をしたことがない大典太にも、前田がにこにこと語る春の話に引きずり込まれ、そわそわとそれが待ち遠しくなってきた。
「ああ、それはいいな」
「では、そうしましょう。約束ですよ」
前田は大典太の手を取って小指を絡め、軽くぶんぶんと振る。
「ああ、約束だ」
去年の夏にこの本丸に来た大典太はこの本丸の桜を知らない。だがその『約束』のときはとても楽しそうに思えた。

小指同士が離れると同時にふと庭に目を向けると、一番近くにあった桜の木が目に入る。その枝の先には桃色の蕾がぷくりとふくらんで、開く時をいまかいまかと待っている。
本格的な春の訪れはもうすぐだ。






思い付きで続いた「みつよくんとまえだくん」ですが、これで終了かなという感じです。おつきあいありがとうございました。