刀剣乱舞 岩融+巴形薙刀

※ 性別不明審神者がちょこちょこっと出ます



鍛刀キャンペーン。多くの本丸が地獄をみるキャンペーンであるし、この本丸も例にもれずそうだった。特に三池のときは資材庫がすっからかんになって、資材管理を任されていた長谷部と博多が白目をむいて倒れた。
更に言えば今回のキャンペーンでは待望の新規薙刀が実装となる。薙刀の鍛刀資材は重い。薙刀そのものである岩融はそれを重々知っている。
「さて、どうする主よ」
「どうするもこうするも、やるしかないでしょ」
「そうか」
「というわけで、頼んだ岩融!レシピも札も好きなだけ使え!私はなーんも指示しないし、お前に全部任せる!」
「なんだと!」
「私がかかわると物欲センサーさんが仕事しそうだからな……」
「ああ、なるほど……」

といったやりとりの30分後。岩融は鍛刀部屋で茫然としていた。
それっぽいレシピとなんとなく添えた竹札を鍛刀妖精に渡してパネルに表示された時間は5時間。手伝い札を渡して出てきたのは白い長身の男だった。
「薙刀、巴形だ。名も逸話も持たぬ、物語なき巴形の集まり。それが俺だ」
一発だった。
「物欲センサーは本当におったのだなあ……」
そんな呟きをしてしまうくらいの神がかり的な引きだった。
その意味が分からない巴形は、ひとつ首をかしげて問う。
「俺は物欲なんとかという名ではないぞ?――貴殿が今代の主か」
「いや、主は諸事情で席を外しておる。俺は岩融、武蔵坊弁慶の薙刀よ。薙刀同士仲良くしようぞ」
「ああ、よろしく」



「今代の主は、なんというか、不思議な方だな」
「まあ、そう見えるだろうなあ」
「俺が来たのがそんなに嫌だったのだろうか」
「いやいや、逆よ。嬉しすぎて現実を受け止めるのに時間がかかっておるのだ。そっとしてやってくれ」
困惑した顔のまま頷く巴形に、岩融は苦笑を返す。
「ははは、鍛刀運壊滅本丸なのに巴ちゃんが1発で来てくれるはずないだろ?もーこういうリアルな夢見るのほんと心臓に悪いから勘弁してほしいよなあ!うん、寝る。そんで起きたらキャンペーンの進捗聞くわ」と言って本当に布団に入ってしまった審神者を見れば、そんな感想を持つのもしょうがないと思えた。
「とりあえず、本丸の案内をしよう。皆への紹介は、今日の夕餉どきに」
「承知した」
「本丸での暮らしは皆が色々な当番をして助け合って暮らしておる。奥に見える厩での馬当番、右手に見える畑での畑当番などがそうだ。まあ追々皆に教わりながらこなしていけばよい」
「不慣れではあるが喜んで協力しよう。 だが我々の本分は戦だ。戦場にはいつ頃出られる?」
「いくさばに出るのはもう少し後になるであろうなあ」
「そうか……」
「気を落とすな。近々大阪城が開かれると聞いた。その時にその得物を存分にふるえばよい」
「それは、俺が活躍できる場があるということか」
「左様。――となると、いよいよ俺はお役御免となるのだろうなあ」
不穏な言葉に巴形はモノクルの奥でぎょっと目を見開いた。
「それは、どういうことだ」
「今の主戦場は夜戦や室内戦が多く、俺の出る幕がなかなかなくてな。その中で大阪城と言えば、本丸唯一の薙刀である俺がいっとう活躍できる場だったのよ。だがこれからはおぬしがその役割を担うことになる、きっとな」
そこで、はて、と巴形は首を傾げた。
「その大阪城とやらに出られる薙刀は一振りだけということか?」
「いや、そういうわけではないが」
「ならば、我ら二人で担えばいいではないか。今までお前ひとりでやってきたことを、任せられる相手がここに増えたということだ」
「……なるほど。俺はすっかりひとりで戦うことに慣れ切ってしまっていたのだなあ」
「お前を支えられるよう、努力しよう。これからは『ふたり』なのだからな」
そう言って巴形は微笑んで白い手を差し伸べる。それを岩融はぎゅうと握りこんで笑った。
「そうだな!ひとりではできなかったことは沢山ある。まずは薙刀同士で手合わせでもしようぞ!」
「お手柔らかに頼むぞ」
「さあて、そんな器用なこと俺にできるかな」
「なんと」
片方は豪快に、片方は静かに笑んだ長身のふたりは大股で道場に消えていった。




第94回岩受ワンドロにて「お題:薙刀鍛刀キャンペーン」で参加したものでした。
岩受けって表題だけどプラス表現でも良いそうなのでカップリングではないつもりです
だって巴ちゃんも受けやし……(小声)