刀剣乱舞 薬研+歌仙+審神者
※性別不明でキャラ濃いめの審神者出ます注意





毎度地獄を見る鍛刀キャンペーンが終わり、もはや「いつもの」といった戦力拡充も後半戦といったころ。精神的にも肉体的にも疲弊した男士たちにとって、祭や宴会は歓迎すべき気晴らしだった。
いつも奇行ばかり目立つこの本丸の審神者の誕生日会という名目で合ったとしてもそれには変わりない。


というわけで、審神者の一番の贔屓刀剣である薬研は台所でレシピ本を見ながら唸っていた。今年の審神者からのプレゼントのリクエストは、薬研お手製のバースデーケーキだったからだ。
曰く、「ニキからは(無許可で)いつも色々貰ってるから、誕生日は何か手作りのもの食べたいな!好きな子が作ったお菓子ってロマンだよね」だそうだ。(さらに言うには「不味くても美味しくいただくよ!」という日本語の崩壊した補足も付け加わったが、とりあえずスルーすることにした。)
実は料理の得意な審神者は、当然の知識としてカップケーキやパウンドケーキというのも「ケーキ」のうちに含んだつもりで話していて、ケーキなんて計って混ぜてオーブンでブンするだけ!簡単!というつもりでいた。
しかし洋風だったりハイカラだったりするものに詳しくない薬研は、万屋のある通りにある洋菓子屋にあるきらきらして甘い繊細な菓子こそがケーキだと認識していた。つまりこれはとんでもない無茶ぶりだな、と思っていた。
厨番の一人である初期刀の歌仙には、生クリームといくつかのフルーツを手配をするように頼んであったのだが、いざレシピ本に向かうと思った以上に難解だったのだ。1カップってなんだ、オーブンとやらのワットってなんだ、温度計も入れれないのにどうやって温度を測るんだ?と頭を悩ませて、フルカラーの華やかなレシピ本がさながら魔導書か何かに思えてきていた。

とはいえ、薬研はあれこれ悩むのは性分ではない。生むがやすしだ!と動く方が性に合っている。
「ま、なんとかなるだろ!」
そう言って、ぱたんと本を閉じ、薬研は立ち上がった。

結果、なんとかならなかった。

それどころか、オーブンからもくもくと黒煙がたちこめ、歌仙が慌ててそれを止めに来る事態になった。
「ばか!一体何をしてるんだ!」
「わ、悪い。途中までは上手くいってたんだがなぁ。なんか機械の設定間違ったみてえだ」
「使い方がわからないなら、わかる者に訊けばいいだろう」
「あ、そうか。なんか俺ひとりでやらなきゃいけないと思ってたぜ」
「君はそろそろ誰かに頼るということを覚えたほうがいいと、僕は思うね。――あーあ、こんなに焦がしてしまって……。材料の予備までは買ってないよ?」
「ま、まあ、大丈夫だろ。こういうのは焦げたとこを切り落として、クリームで塗って粗をごまかせば……」
そういって薬研は生クリームの紙パックを取り出し開封しようし――勢いあまって側面まで破いて、中身はぼたぼたと床にこぼれた。
「……。」
「……。」
「……悪い」
「いや……、とりあえず片付けようか」
「だな」

こぼした生クリームと、ついでに真っ黒こげになった物体Xを片付け、二人は膝を突き合わせて作戦会議を練った。
「とりあえず、ケーキ用の材料として調達したものはもう缶詰の果物しかないわけだけども」
「代用できそうなものはもうないのか」
「薄力粉や卵ならまだあるけど、無塩バターがもうないし、生クリームもああなってしまったからね……」
「今日の夕飯の材料とかは?」
「手巻き寿司パーティーの予定だから、ケーキの材料からはかけ離れてるよ」
「……!」
「何か思いついたことがあるのかい?」
「前、ちょっと見た写真があってな。端末貸してくれねえか」
言われるまま歌仙が携帯端末を渡すと、薬研は検索語句を入力して出た画像を歌仙に見せた。
「これならできそうな気がしねえか?」
「ふむ、たしかに。手伝おうか?」
「ああ、頼む。これ以上失敗はできねえからな」



「大将、入るぜ?リクエストされてた誕生日のケーキ、できたんだが」
そう言って審神者部屋の前まで来た薬研を、うわあああ、とも、おおおおお、ともつかない奇声で迎えた審神者はすぐさま障子を開いて中に招き入れた。
「え、これ、ニキが作ったの?本当に?わ、わあ、涙が……、やばい、もう色々見えなくなってるううう!ありがどう゛ニ゛ギイイイイイ!」
滂沱の涙を流しながら審神者は薬研の手からケーキの載った皿とフォークを受け取った。
「さっそくいただきますううううううう!!」
「あ、ちょ、大将、ちょっと待っ……ああ」
フォークで救ったひとくちを口に運んだ瞬間、んぐ!と審神者は噎せかけた。
「え、なにこれ?え、米?っていうか、寿司?」
「ああ、それ寿司で作ったケーキでな」
洋菓子の材料は無駄に使い果たしてしまい、悩んだ薬研がとったのが「ちらし寿司のケーキ」だった。押し寿司の要領でつくるそれは、酢飯をパンケーキにみたて、酢飯の間にでんぶをイチゴクリームにように挟んである。金糸卵はさながらモンブランのクリームのように上面にちらしてあって、サーモンをバラに見えるように巻いて飾った。
よく見ればすぐに普通のケーキとは違うとわかるはずなのだったが、感涙で視界の曇った審神者にはそうとはわからず、結果想像していた味と実際の味が食い違って頭が混乱を起こしたのだった。
「うん、寿司と思って食べたらちゃんとおいしい……あーびっくりした」
「ごめんな、大将。最初はちゃんとしたケーキ作ろうと思ったんだけど、失敗しちまって。こんな出来だけど許してくれるか?」
本当に申し訳なさげに眉をハの字に下げて、上目遣いにこちらを見る薬研を視界に入れた瞬間、審神者はフォークを持ったまま仰向けに卒倒した。
「た、大将!?」
「ニキ……かわ……」
「ああ、いつものか」
薬研がいつもよりかわいらしい仕草をすると審神者が引き起こす一種のショック症状だった。よくあることだ。放っておけば数時間後に目を覚ます。
よくあることだけど、こんなときに失神されては困る。あと30分後には宴会が始まるのだ。主役がいなければ始まらない。
「……しょうがない、歌仙呼ぶか」
こんなときにも大変頼りになる歌仙は、初期刀故の容赦なさで審神者に接する。
「雅を解さぬ罰だ!」の一言とともにビンタでも食らえば目も覚めるだろうと信じて、薬研は窮地を救ってもらうべく審神者の部屋から退室したのだった。






9/17誕生日の薬研推し審神者さんの「鯛将のために初めてケーキを焼くニキ→でも真っ黒こげに」というリクを受けて。
ケーキと聞いた瞬間「the cake is a lie」を思い出したのでフェイクケーキのお話に。別にPortal関係ないけども。