ギルッツ・甘め 最近の兄の流行り事は、絵を描くことなのだろうか、とドイツは思っている。 クロッキー帳にがりがりと何かを描いては唸り、ページを捲ってまた描いては唸って、ということを繰り返していた。 「何を描いているんだ?」とのぞき込もうとすると、あわててクロッキー帳を抱えて隠し、「ケセセ、ひーみつ!」と言うものだから深追いはしなかった。手先の器用な兄のことだから好きなものを描いて楽しんでいるのだろうと思ったからだ。 そんな一時のブームが過ぎて少しした頃、プロイセンがにやにやとしながらちょいちょいと手招きした。 「なんだ?」 「ちょっと贈りたいものがあってよ。手、出せ」 「贈りたいもの?」 言われるままに手のひらで器をつくるように両手を出せば、その片方、左手だけを取られる。そしてその薬指にするりと滑り込ませるようにリングをはめられた。 軍服の襟元につける鉄十字と同じ意匠に蔦が絡んだようなデザインのそのリングは、ドイツの白い手によく映えるつややかな黒で、華奢なようにも見えるけども簡単には壊れないような丈夫な作りであることがすぐに分かった。 「これは……?」 「ペアリング!俺たち、一緒に住んだ後にコイビトになったからさ、贈るタイミングなかったよなーって思って」 手の甲をかざしたその薬指には、そっくり同じデザインの指輪があった。 「もしかして、兄さんがこれを?」 「そうだぜ!このへん俺様の得意分野だからな!こっちの指輪の裏側にはサファイヤ、そっちにはルビーはめこんであるんだぜ!ちっちゃいけどな。俺とお前の目の色!」 そういってプロイセンは指輪を外し鉄十字の裏側と見せると、確かにそこにちかりと光る青い宝石があった。 彼が器用なのは知っていたが、まさかこっそりとこんなことまでするなんて本当に予想外で、薬指を眺めながらしばし呆とした。 それきり何も言わない弟に、プロイセンは首をかしげる。 「どした?気に入らなかったか?あー、お前外出るもんな。恥ずかしいか。中指用にサイズ変更しようか」 そう言ってリングを抜き取ろうとする手を、あわててドイツは押さえて止める。 「いや、違う!待ってくれ。その、嬉しくて、びっくりして、言葉を失っていただけだ。上手く言葉がみつからなくて。ああ、ほんとうにうれしい。ほんとうに。ありがとう、兄さん」 押さえた手に指をからめ柔らかく握る。そして薬指にはめ込まれた宝石と同じいろの目にそっと唇を落とした。 じゃんぷらで兄さんがアクセも作れるという設定が出た瞬間、フォロワさんがさんが言ってたペアリング妄想を受けて。 ダイヤの指輪よりも黒い鉄十字の指輪の方が彼らの誓いを表すに適してると思う。 |
普独・学パロ・シリアス 「俺、好きな奴いるから」 それはあまりにも聞きなれた声だった。思わず植え込みに身を隠して声のした方、校舎の間の日陰になっている中庭を窺いみる。 そこにいたのは兄と、見知らぬ女生徒の姿。また兄への告白現場を目撃するはめになったようだ。 兄さんはモテる。華やかな外見と明るく優しい性格のためだろう。だからこんな場面は何度も見ている。けど、こんなに間近なのはさすがに初めてだ。 「試しに付き合って、少しずつ私のこと知ってくれればいいから」 言い募る女生徒を、兄はみたことがないほどに冷たく突き放す。 「あいつ以上に好きになれる奴なんかいないから、そういうの無理だ」 女生徒と俺の顔が青くなるのは同時だった。 兄さんにそこまで想うひとがいたなんて。 カノジョとかそういうの興味ないから、友達と遊んでいたいから、なんて断りの台詞は聞いていたけど。きっとそれらは言い訳のひとつでしかなかったんだ。だってあんなに真剣な声音で、嘘なんかつけるひとじゃない。俺が一番知っている。誰よりも近く長く彼を見てきたから。 ずっと秘め続けてきた恋が、こんな不意打ちで破れるなんて。 じくじくと痛む胸と、涙がこぼれそうになって熱くなる目頭を賢明にこらえて、そっと立ち去る。どこかで身を隠さなければ。こんなひどい状態で次の授業になんかでられるはずがない。 校舎に身を隠す背中に「ルッツ?」と声がかけられた気もしたが、それは混乱した頭が聞かせた幻聴のような気もした。 新年会暇すぎてツイみてたらTLで学パロの話が出てたので。 フォロワさんに続きかいてもらったりしたので更にそれにつなげてハピエンにしてあげたいなあとは思ってる(思ってるだけ) |
普独・ほのぼの(?) 家に帰ると兄さんが玄関で倒れ伏していた。 瞬間、嫌な想像が一気に頭を過る。朝はうるさいくらいに元気だったのにいきなり体調でも崩したのだろうか。それとも怪我?まさかとは思うが強盗にでも入られて刺されでもしたのか? 外傷はないだろうかとよく見れば、腹にじわりとひろがる赤が見えてざっと血の気が引く音が聞こえた。 駆け寄って、兄さん、と呼びかけようとした声は大きな毛の塊に遮られた。正確に言えば、俺を出迎えにとびかかってきたアスターに。ブラッキーとベルリッツもそれに続くが、倒れ伏した兄さんを一瞥だけしてその横を通り過ぎた。 仮にも同居人の異変に三匹がここまでスルーを決め込むだろうか、と思い至って数秒後、俺は深く深く息をつく。そしてつとめて平静な声で帰宅の挨拶をした。 「ただいま、アスター、ブラッキー、ベルリッツ。それと――」 三匹を撫でてからスリッパに履き替え、兄さんに近づく。そしてその背中をしっかりと踏みしめる。足元から聞こえたカエルのつぶれたような声は聞かなかったふりをする。 「兄さんも」 踏み越えてから振り向いて言えば、兄さんはがばっと立ち上がり抗議した。腹に血糊をべったりとつけたまま。 「おいヴェスト!踏んでくことねえだろ!」 「邪魔だったものだから」 「ひっでえの!あー、背中痛え」 「自業自得だ。まったく、一体何をしたかったんだ」 「んー?今日キッチンの戸棚整頓してたらよ、賞味期限切れのケチャップ見つけて。未開封のまま捨てるのもなんか勿体ねえし、有効活用?」 驚くほどくだらない理由だった。 「あ、服はもう捨てる予定のやつ使ったから洗濯の心配はしなくていいぜ」 そして無駄にアフターケアがいい。 「ちぇっちぇっちぇー、ちょっとは引っかかるかと思ったのによぉ」 ふてくされた声には無言を返す。 一瞬、ほんの一瞬だけ、兄さんがほんとうに死んでしまったのかと思った。少し前に怪我の治りが悪くなったと聞いたから。 でも本人がこんな冗談を飛ばせるくらいには、些末なことなのだろう、きっと。 そうであることにひどくほっとした。 診断メーカーで『帰宅すると相手がしんだふりをしていたのでその屍を(踏んで)越えていく』というのが出たので。 兄さんこういうしょーもないことよくしてそう。 |
芋兄弟・ほのぼの 普通に暮らしている人々のほとんどにとってはありきたりな平日のひとつであるこの冬の日は、プロイセンと彼をとりまくひとにとっては少し特別な日だ。 まず、一緒に暮らす弟が有給をとって一日中家にいる。そして家事当番を全て代わってくれる。 仕事も家事もなく暇なプロイセンがすることといったら、まずは愛犬の散歩と世話。そして来客の出迎え。 こんな歳にもなって誕生日パーティーをするでもない、ましてや記念日のパレードがある立場でもないのに、わざわざ家にまで来る者がいるのだ。誰かの記念日や誕生日にかこつけて仕事をサボりたいだけだというのは、ラテンの面々が多いことを見れば分かる。 だが、そうだとしても、祝われるのは嬉しくないわけがない。笑顔で出迎えて、コーヒーとクーヘンでも出して喋ってから、帰るのを見送る。 仕事だったり遠方だったりする友人知人からは荷物が届いたので、それの受け取りもした。その中にはオーストリアからの電報もあって、内容はプロイセン宛ての雑な挨拶なのに一緒についてきたくまのぬいぐるみはどう見てもドイツ宛てなものだから扱いの差に笑ってしまった。 そんな、いつもより慌ただしくて賑やかな一日は、いつもより少し豪華な夕食で締められる。 プロイセンの好物ばかり並ぶ食卓にはもちろんビールもあるし、冷蔵庫にはドイツ謹製のクーヘンが待っている。 「今日はどうだった?」 「んー?良い日だったぜ!なんだかんだ久々に会う奴とか来たし、色々話せたし……ロシアまで来たのは流石にビビったけどよ」 「まあ……悪気はないんだろう」 「知ってるけど、ヤなもんはヤなんだよ。――あ、これ美味え」 クロプセを口にして言う兄に、ドイツは良かったと言って笑った。 「でもさぁ、今日って俺だけの誕生日じゃねえだろ?あいつらみんなそれをスルーしてんのはちょっとムカつくぜ」 一月十八日はプロイセンが公国から王国になった日であり、プロイセンを盟主としてドイツ帝国ができた日でもある。つまりドイツの誕生日と言えなくもないのだ。 「俺の誕生日は特に決まってないんだ、いいだろう」 「よくねえよ!引退した俺が祝われて、現役で欧州のリーダーやってるお前がナシって変だろーが」 唯我独尊で傲岸不遜に見えて案外世話焼きな兄の優しさに触れて、ドイツはふっと笑う。 「俺には統一記念日もあるしな。それに、今日という日は俺が兄さんからいろんなものを譲り受けた日だろう。なら、兄さんが祝福してくれるならそれで充分だ」 すると、プロイセンは目を丸くしてぱちくりと瞬いた。そして、喜びを隠さないにいっとした顔で、そっか、と言った。 「これまでもこれからも共に過ごす俺"達"の誕生日に、乾杯!」 兄さんの誕生日によせて。 実際のとこどいちゅさんの誕生日っていつにあたるんでしょうね。 |
(普)独+伊 「おまえ最近よく笑うね?」 ずっと気になってたことを指摘すると、ドイツは青い目を丸くした。 「そうか?」 「そうだよ、前はもっとこう、むすっとしてたもん!何かいいことあった?」 問えば、少しだけの間のあと、あいつは瞬く間にしろい頬をぽぽっと赤くする。 「な、なくはないが……」 それだけで俺には何があったのかすぐにわかってしまった。あいつがずっと抱えてた辛い恋が実ったんだってことが。 「へへ、そっかあ!お幸せに!」 一番近くで見てきた友人として祝福の言葉を贈れば、ドイツは赤い頬をさらに赤くした。 「そんなに分かりやすいか……たるんでるな、気を引き締めねば……」 そんなことをつぶやきながら、ドイツは恥ずかしげに顔をもにもにしている。 いっつも世界中の苦労を背負い込んでるお前なんだから、一番幸せなときくらい幸せそうにしてても罰は当たらないと思うんだけどなあ。 最近ひまさんが描かれるどいつさんがやたら笑顔なんですよ!!なんで!!なにかいいことあったの!? という独領パッションがはじけた結果。 |