短文まとめ

普独・パラレル
普独・パラレル
普独・パラレル
普独・ほのぼの
普独・ほのぼの

普独・パラレル
※普ではなく独が消滅復活したらというパラレル


彼がその青年を見つけたのは、日課になっている犬の散歩のときだった。その森のすぐ近くに住む彼は、森が雪化粧を落としてから纏うまでの間森を散歩コースにしている。風も冷たくなり空の雲は分厚くなって、「そろそろ散歩コースを街道に切り替える時期かな」と思っていたような、そんな晩秋の頃だった。
いつも大人しい飼い犬がバウバウと吠え道を外れて駆けだそうとし、その力に彼は引っ張られる。どうしたんだと宥めても犬は足を止めようとせず、なにか尋常でないことが起こっているのだと気づかざるをえなかった。

はたしてそこに、『尋常でないこと』はあった。静かな森の深くに青年が倒れていたのだ。
コートが手放せない季節、徐々に色を失いつつある木々のなかでそこだけが深い緑に覆われていて、青年も季節を間違えたかのように薄着だ。柔らかい草をベッドにするように、垂れ下がった針葉樹の枝を天蓋にするように、木の根を枕にするように、金の髪を薄く散らしてその美しい細身の青年は眠るように横たわっていた。頬は陶器のように血の気がなく、ともするとよくできた人形のようだ。いや、この緑に覆われたこの光景ごと何らかの芸術作品のような、幻想的な絵画の中に迷い込んだような、そんな不思議な空間だった。

わふっと犬が飼い主をせっつき、彼ははっと現実に引き戻される。犬が吠えるのをやめていたことにすら気づかないほど見入ってしまっていたが、こんなところに人が倒れているなんてきっと急を要する事態だろう。
見たところ青年に外傷はない、息も静かで安定している。しかし頭を打っていたら危ないと思い、声だけかけた。なんとなく勝手に触れていけない気がして。
「おい、あんた、大丈夫かい」
返事は、ない。あたりを見渡しても身元がつかめそうな手荷物はひとつもない。
この森で行方不明者なんて聞いていないし、昨日もいたなら同じように昨日この飼い犬が気づいていただろう。この青年はどこから来たのだろうか。この木の根元から現れ出たのか? そんな非現実的な考えすら現実的に思えるほど、この青年は現実と幻の狭間にいる存在に見えた。



フォロワさんが提唱したパラレルの一場面・その1

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普独・パラレル
※普ではなく独が消滅復活したらというパラレル

プロイセンはざくざくと足音を立てながら足早に街を抜ける。時間があるなら積もる話をいくらでもしたかった。いくらでも触れたかったし、抱きしめたかった。けど、あんな姿を見てしまったら。
久しぶりに会った弟は、身なりはぱりっとしてきれいだったのに、豊かなひとの持つ安定感が全くと言っていいほどなかった。敗戦濃厚な戦場での姿の方がまだしっかりして見えたと思うほどに、体積が減り細く薄くなり、異様なほどの『危うさ』をはらんでいた。
だから思わず体調を訊ねてしまったけど、「少し、風邪をひきやすくなったが、問題ない」と全く問題なさそうではない顔で言うものだから、プロイセンは眉を顰めずにはいられなかった。何が「問題ない」だ。西よりよほど貧しい東がこんなにも健康体なのに。
やはり弟<ドイツ>の傍には兄貴<プロイセン>が必要なのだ。今は会うことすらままならないけど、すぐに元気になる方法も分からないけど、傍についてやればきっとなんとかなる。そう願ってプロイセンは統一への意識を新たにして帰路についた。
その統一こそが弟の消失への決定打になるとも知らず。



フォロワさんが提唱したパラレルの一場面・その2
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普独・パラレル

もっと早く帰っていればよかった。閉館ギリギリまで図書館にいなければよかった。そしたらこんな場面に出くわさなかったのに。
ちかちかと瞬く切れかけた街灯の下、倒れている女と立っている男。男は目深にフードを被っていて、その下のシャツは血で真っ赤に染まり、刃渡りの大きな刃物を持っていた。明らかに尋常ではない光景。見てはいけないものを見てしまったと瞬時に理解した。
ぎらりと赤い瞳がこちらを向いた、と頭が認識するよりも早く足は動き出し、全速力でアパートの自室に駆け込む。戸締りをして神経を尖らせて耳を澄ませたが、追ってくるような足音は聞こえなかった。うまく振り切れたのだろうか。あの暗さあの位置なら、俺の顔など認識できなかったはずだ。元陸上部だったから脚力にも自信がある。でも安心など到底できなくて、いやに速く鼓動を刻む心臓をおさえて、長い夜をまんじりともせず過ごした。

翌朝、殺人事件の報道やパトカーのサイレンなどなかった。細いとはいえ近所の人が通る道だったのに。もしかしてあれは何かの見間違いだったのだろうか。
少しだけ胸を撫でおろして身支度をし、一応覗き穴の向こうに誰もいないことを確認してから玄関のドアをあける。
すると扉の向こう側にたしかに誰もいなかったのを確認したはずなのに、黒い人影がそこにあった。咄嗟に閉めようとしたドアを、足を挟んで止められる。
「ひでえなあ、そんなに警戒するなんて」
聞こえた掠れ声が想像よりもはるかに軽く、そろりと視線を上げる。長めの銀髪の隙間から昨夜見たあの赤い眼光がまっすぐ突き刺さって、思わずヒッと声が漏れた。
「なあ、昨夜俺を見てたな? 『見えてた』な?」
問う声は相変わらず軽快で、けども俺は恐怖に喉が詰まって声が出ない。
「今は殺さねえよ。前に死相はないからな。なのに見えてる……お前、何者だ?」
そんな問い、こちらこそが聞きたい。お前は何者だ、見えてたとはなんだ、シソウってなんだ。問えないまま視線を逸らせば、彼のベルトには大ぶりの鎌が差さっていて、その後ろに蛇のようにぞろりと動く長い尻尾がはっきりと見えてしまった。



某BL漫画の広告の攻めと思しき殺人鬼が兄さんにしか見えなかったという話題から。
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普独・ほのぼの

ヴェストの通勤鞄が前と変わったな、とふと気づいた。前のも年季入ってたからなあと思って見ていると、その向こう側に黄色の毛玉が見えてぎょっとした。
「おいヴェスト! これどういうことだ!!」
それを手に取って大声で呼べば、愛する弟はぐっと眉根を寄せる。隠し事がばれたときの癖だ。
「俺にはヴェスト鞄買うなって言っておいて! お前が俺様モチーフの鞄使ってるとか! どういうことだオイ!!」
「……男でも使いやすいシンプルなデザインだから、丁度いいと思ったんだ」
「それだったら俺も買ってよかっただろ!」
「買ったら兄さん絶対そこかしこで自慢するだろう! 『弟の立派な大胸筋イメージした鞄なんだぜ』って。それが読めてたし恥ずかしいから嫌だったんだ!」
まさにそうするつもりだったのを予測されてムッとする。
「そういうお前だって、そのことりさんチャーム職場でつついてデレデレするつもりだろうが。俺様としてはそーゆーお前のカワイイとこ周りに見せてほしくねーんだけど?」
図星だったのかあちらもムッとした顔をし、暫し膠着。
「よし、妥協案だ。要するにあれを自慢しなきゃいいんだな? おっぱいバッグなでなでするだけにとどめるから今からでも注文してくるぜ」
パソコンに向かおうとした俺を、強い力が引き留める。
「おい馬鹿やめろ! 兄さんがそれだけで終わるはずないの分かってるんだからな!」

何か月か前もやった攻防戦に、今度こそは勝った。俺様の本気の弟愛ナメんな!



19.9.9





普独・ほのぼの

倉庫掃除をしていたら、新品の使い捨てカメラを三つ発掘した。デジタルカメラが普及してそれなりに経った今見ると、なかなか懐かしい。一つ開封して動作確認してみれば余裕で動いたので折角だし使いきってしまうことにした。ヴェストは「別にすぐ使い切ることないだろ」って言ったけど、フィルム現像してくれるカメラ屋がいつまであるかわかんねえしな。十数年前に比べたら、町のカメラ屋もだいぶ数が減ったものだ。家庭で印刷できるようになったのも善し悪しだな。

そんな訳で、今俺の手元には三つ分のカメラの中身、要するに写真の束がある。ちょうど動物園デートを控えてたから、動物に癒されるヴェストをたっぷり撮った。ほとんど無制限に撮れるデジカメと同じ要領で撮ってたらあっという間に一個使い切ったから少し慎重になったけど、結局一日で全部使い切った。ツーショットを撮ろうと思った時に自撮り棒が使えないことに気付いたり、近くの人に撮ってもらったのもいい思い出だ。
ずっと俺がカメラを持っていたからほとんど全部ヴェストが写っていたけど、一枚だけ俺だけが写っているのがあった。柵にもたれかかって動物を眺めている俺の横顔。俺自身が滅多に見ることのない角度。ヴェストがこっそり撮っていたのか。気付かなかった。
カメラが写しだしたものは、イコール撮った者の視界だ。加工も誤魔化しもきかないフィルムならなおさら。この手にある一枚は、あの瞬間のヴェストの視界だ。ヴェストには俺がこう見えてるんだな。そう思うと、言葉にならない喜びとか嬉しさのような感情がとめどなく溢れ出てきて、胸の内側がむずむずして仕方なかった。



19.9.9