英&仏・シリアス気味 フランスが家に帰ると、すでに先客がいた。 「よおフランス。まずい飯食いにきてやったぜ」 「なんだイギリスか…はぁ」 「ん、どうした?何かあったのか」 「いや、たいしたことねーよ」 「そう言われると気になるじゃないか」 「ま、『俺達』にとってはよくあることなんだけどな」 「?」 「今日うちんとこの街歩いてたら、ばあさんに名前呼ばれてさー。あ、人間名の『フランシス』の方な」 「知り合いだったのか」 「昔の彼女だった」 「あー……なるほどな。でその人は、名前も顔も昔と違わないお前になんか言ったのか」 「『不思議な人だとは思ってたけど、まさか40年前と同じ姿のまままた会うなんてね』とか言われたから『俺は全ての美しい女性の恋人なんだ。あんまりはやくよぼよぼになっちまったらこれから生まれるまだ見ぬレディ達に失礼だろ?』って言って誤魔化してきた」 「フッ、お前らしいな」 「人間に混じって生きてると、俺達が『国』であることを忘れちまうよなぁ…。でも時の流れが現実に引き戻してきやがる」 「今ので、昔上司に『お前は会った時から今までずっと幼いくらいに若いまま変わらない』って言われたことを思い出したぜ」 「俺も似たこと上司の嫁さんに言われたぞ。『ずっと若いままでいわれるなんて羨ましい』ってさ」 「俺がさっきの言葉聞いたのが、上司が亡くなる寸前でさ、同じ言葉を聞いて何も出来ないままこれから先もずっと見送らなきゃいけないのかって。それでも人間は俺達を羨ましいって言うのかって思った」 「…じゃあお前は『国であること』を辞めたいのか?」 「いや」 「あら即答」 「じゃあフランスは辞めたいって思ってるのか」 「いんや」 「たった今まで溜息ついてたお前だって即答じゃないか」 「今日みたいに凹むこともあるけど」「散々な目にあったりもしたけど」 「「お前みたいな馬鹿がいるからまだやっていける」」 過去拍手お礼再録。 イギリスとフランスは悪友萌え。 過去とか上司との関係とかは果てしなく捏造です。 |
仏独・甘め? 「スペインが見たら喜びそうだな」 足元に落ちた薔薇を拾い上げながらドイツが言う。内職用のテープと針金があれば一輪の造花ができそうなそれは、フランスのウィンクひとつで飛び出してきたものだった。どういう原理なのかは本人にも分からないらしいが、会議中によく内職をしている件のスペインはウィンクをすればハートが飛び出しおまじないをすればきらきらした何かが飛び出すそうなので、『国』という人間の中ではそんなに珍しいことではないのかもしれないとドイツは思う。 「なんだよ、お兄さんのこの彫刻のような肉体の感想がそれ?」 「これは薔薇への感想だがな。―――ふむ、感想か…もうすこし筋肉をつけた方が良くないか」 「ちょ、EU主要二ヶ国がそろってむきむきになったら半端じゃないむさ苦しさになるでしょーが!俺だったらそんな会議欠席するね」 「そうか」 率直な感想を言ったら言ったで文句をたれるのかと思いながらそれは口に出さず、フランスがばちーんばちーんとウィンクをしながら薔薇の花を生産する様を見ていた。愛の国を自称するフランスらしく、一つの例外も無く真っ赤な薔薇のみがあたりに広がる。 こんなもんか、と言いながらフランスはそれを拾い集めドイツに差し出す。 「おにーさんの愛の形、どうぞ」 「……それが俺の国でどういう意味をもつか分かって言っているのか」 「そりゃあお隣だし長い付き合いだからね」 随分と安上がりで随分と情熱的な愛なんだな、と率直な感想を言ったら言ったでやっぱり文句をたれられそうなので、ドイツは「そうか」とだけ言って薔薇の山を受け取った。物理的にも地理的にも隣に居るこの男が満足そうだから、それでいいかと思った。 ご本家のタンクトップ兄ちゃんに触発されて。タンクトップ祭り万歳。 |
加玖 side:Canada あの人がいわゆる『身内』と喋っているのを聴いたのは偶然だった。 彼らと同じ訛りで喋る彼。それは僕にとって初めて見るもので、どうしようもない寂しさを覚えた。彼らとの関係には多少の複雑な感情はあれど、それは今までの過去や歴史の上に成り立った絆だと思い知らされたから。 同時に一つの壁が彼との間に出来たように見えた。『身内』との対応と僕との対応が違うということは、僕は彼にとって『他人』なんだ。ずきんと心が痛む。国としての関係も良好だし、個人同士の付き合いもこの上なく良いと、親友以上とすら思っていたのに。 「あ、カナダじゃねえか。いたなら声かけてくれよ」 その言葉遣いにまた心が痛んで、きっとひどい顔色をしているだろう僕を気遣ってくれる言葉にも上手く普段通りの返事ができない。 とても仲良くなったと思ってたのに、そう思ってたのは僕だけだったのかな。 side:Cuba 自称親分達と喋っているのをあいつに見られたと気づいたとき、正直しまったと思った。どうも奴らと喋ってると地が出るというかガラが悪くなるというか、あまり積極的に見せたくはない部分が出るからだ。特に一番好きなあいつの前には出したくはない。怖がられそうで。 動揺した心を取り繕いながらいつも通りに振る舞って声をかければ、ぎこちなく挨拶をかけられた。何か悩んでいるような、心の中を隠したがっているのは直ぐに分かった。こいつは嘘が下手だから。それが分かるくらいには一緒にいたつもりだ。 一番傍にいるのは俺のはずなのになんで悩みを打ち明けてくれないんだ。 キューバさんは河内弁っつーのはオフィシャルだっけ?でもカナダさんと喋ってるときは普通っぽかったので、親分譲りの方言隠してるといいなー。 |
朝菊・コメディ 世界会議の休憩中、力自慢大会もどきが始まったのはイタリアの一言(?)からだった。 「ねえねえスペイン兄ちゃん聞いてよー、この間俺と兄ちゃんが変なやつらに絡まれてた時にさ、ドイツがたまたま通りがかって俺達を小脇に抱えて逃がしてくれたんだよー!すごくない?ねえすごくない?」 ドイツだからそりゃあできるだろう、という思いと、それなりに動く成人男性二人を抱えて移動するとか自分にはできないだろう、という思いと、まあ片方だけなら……?という思いがその場にいたほぼ全員によぎった。 そこからなぜかイタリア兄弟リフティング大会がにわかに始まって、片方すらだっこできなかった者、だっこできても走れはしなかったもの、両方抱えて動けた者などふりわけられていた。 言い出しっぺのイタリアはひっぱりまわされてずいぶん楽しそうだったが、ロマーノは完全に巻き込まれた形で、でも逃げ出すこともできず青ざめた顔をしていたのがはた目にも可哀そうだった。 その様を、やや遠くから眺めていた者が2人。日本とイギリスだった。二人とも力自慢をするには程遠い体系であるために、傍観を決め込んでいたのだ。 「ばかなことで盛り上がってんなあ、あいつら」 「楽しそうなのだからいいじゃありませんか」 「もうすぐ休憩時間終わるってのに議長があん中にいるのは問題だろ」 はあ、と大げさにため息とついて見せたイギリスに、日本はちいさく笑う。 「な、なんだよ」 「貴方が、本当はあの輪の中に入りたがっているように見えたので」 「はああ!?あんなパスタ野郎抱えて楽しいことなんかなんもねえだろ!べ、べつに体力で負けるのが怖いとかそういうのなんかじゃないんだからな!」 「おや、そうですか」 「そりゃああいつらに比べたらちょっとはあれだけど、日本くらいならだっこできるんだぞ」 「え、はッ?!何いってるんですか!私だって多少筋肉は――」 「この大英帝国様ナメんなよ!」 そう言ってイギリスは立ち上がって、有無を言わせず日本の膝裏を右手で掬い左手でその背中を支えた。いわゆるお姫様だっこだ。 えええええ、とうろたえる日本を見、イギリスは満足げに笑う。 「ふ、ふははは!ほらできた! お前は軽いな!羽根が生えてるみたいだ」 顔を近づけてにっと笑ってそう言えば、日本は恥ずかしがるどころかどころか少し青ざめて見えた。 「え、あ、悪い……そうだよな、いきなり足が浮くの怖いよな」 「いや、そうではなく……すいません、おろしてもらえますか」 「ああ」 ちょうどタイミングよく議長であるアメリカが会議の再開を宣言し、そのやりとりはそれっきりになった。 後日。 「私、知らない間に随分とやつれてしまったみたいなんです……鍛えてもらえませんか」と日本がドイツに依頼したこと。 「お前見た目ゴツくないのに怪力だよな、どうやったらそんなパワーがつくんだ」とイギリスがプロイセンに相談したこと。 そしてイギリスがあのとき「紳士たるもの惚れた相手のひとりやふたり軽々だっこできなくてどうする!」とやせ我慢していたこと。 その全てをその目敏さ耳敏さで知ったフランスが、それぞれにどうやってアドバイスしようかひとりでこっそりと悩んでいたのだった。 ふぉろわさんが「朝なら菊さんを抱えて『羽根みたいに軽いな』って言いそう、まじ紳士」と呟いていたので、勝手に拝借して短文。 島国はこういうわけのわからんすれ違いをしている印象があります。 |
エリゼ組・パラレル 過去の遺物となりつつある一式のカードを手にし、ポーカーに興じる王が二人。 ひとりはハート国の王・ルートヴィッヒ。 もうひとりは、ダイヤ国の王・フランシス。 かつてこの世界の4国の仲が良かったころに作られたこの54枚のカードは、各国の高官の絵姿をあしらったもので、全ての国で広く売られていた。だが今は販売はさしとめられている。というのも、4国の仲が険悪になりつつあるからだ。 きっかけはほんの些細なことだったと彼らは記憶している。ちょっとした口喧嘩。その口喧嘩をしたのが、スペード国の王とクローバー国の王だったのがいけなかった。この世界で誰が一番強いかなんていう子供みたいなやりとりから喧嘩に発展した二人は、両国の軍事力も含めて強さを争い、今、にらみ合いを続けている。 ハート国とダイヤ国はとばっちりを受けた形だが、この2国の王の友人や親戚がもう2国に居るものだから立場は危ういものになっている。 「もちろん君は僕の味方だよね?」「当然君は俺の味方だろう?」と言われ続けてごまかすのもそろそろ辛くなってきた。 「やっぱりここは中立を貫いて、自国の防衛を固めるべきだと俺は思うんだよ」 フランシスは山札を二人に5枚ずつ配る。 「その意見には賛成だが、お前と手を組むのは危険だと俺は思う」 ルートヴィッヒは配られた手札を見、ふむ、と頷いた。 「なんでだよ!俺自身はまあ置いておくにしてもさ、うちの軍事顧問は優秀なの、ルーイも知ってるだろ?」 フランシスも手札を見、僅かに眉根を寄せた。 「勿論。こと守ることにかけては他の追随を許さない男・バッシュはお前にはもったいないくらいだ。うちのフェリシアーノにも見習わせたい」 「だからさ、バッシュを一時派遣してそっちの防衛力をあげてやろうって言ってるのに。お前ったら観光ばっかり力を入れて、軍事力はポンコツだろ」 「ポンコツ言うな。派遣代が高すぎる、とさっきから言っている」 「いーじゃん、お前金持ってんだもん」 「金があるのは俺じゃなくて、俺の国、だ!国庫をそう簡単にあけられるか」 フランシスはさっさと手札を3枚捨て、3枚山札から取った。 「うち今年不作で財政厳しいんだよぉ、助けると思ってさあ」 「お前がもう少し信用のおける王だったら、そうしたかもな」 「ひどい!」 「ひどいものか。輸出入は今まで通り続けると言ってるのに」 「そうじゃなくてさぁ」 話ながら少しだけ悩んだルートヴィッヒは、1枚チェンジと言って手札をひとつ捨て、フランシスから新しい札を受け取った。 そして目くばせして二人はオープンする。 「役はあんまり良くないけど、なかなか絵面の素敵な役が出来たよ。俺たちの今後を示唆するんじゃないかな?」 フランシスの手札はツーペア。ハートとダイヤのKとAが仲良く並んでいる。残りの1枚もダイヤのクイーンで、色合いがきれいだ。 「ここは俺たちで手を組めって言ってると思うね」 「お前の言うように手札が今後を示唆するというなら、俺の手札は自国のみでどうにかするべきだと言っているように思う。ああ、やはりこんなときばかり俺は勝負強いな」 そう言ってルートヴィッヒが広げた手札は、ハートの9からKのストレートフラッシュ。フランシスの手に渡っているハートのKの場所には、彼とどこか似た顔をしたジョーカーが不敵に笑っていた。 遅刻組でしたが、コンビワンドロ【エリゼ組】【トランプ】で書いたもの。 クールでオシャレを目指して……!某芋領動画主さまの影響で、どいちゅさんはカードの引きがいい印象があります。 |