短文まとめ

芋兄弟+犬・ほのぼの
普独・ほのぼの
普独・甘め
普独・甘め?
普独・ほのぼの


芋兄弟+犬


至極まじめな顔でドイツがハグしているのは愛犬の一匹だ。
「毛並、よし」
もふ。
「つやもいい」
もふもふ。
「健康状態良好」
もふもふもふ。
飼い主の容赦のないもふもふに、犬はわふわふとされるがままになっている。彼としては慕う飼い主とスキンシップをとるのはむしろ喜ばしかった。
「脂肪がついたか?冬だからこんなものか」
もにもに。腹の肉をつまむ手には小さく抗議の鳴き声をあげる。
「すまん。……あー、本当にいい毛並だ。素晴らしい。最高だ」
すっかり冬気に切り替わった長い毛並みにドイツはもふりと顔をうずめた。

それをやや遠くからやれやれと眺める影がひとつ。
「ヴェストのやつ、年末進行で相当疲れてんだなあ……」
いつまでももふもふの海に浸って癒しを求める弟に、今日は元気が出る飯でも作ってやるか、とプロイセンは夕飯の献立を考えるのだった。



クリスマスオフ会のワンドロお題「もふもふする」から。
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17.12.24





普独・ほのぼの


夏が短く冬が長いと言われるドイツでも、気温が高くからっと晴れた日ははある。
そんなときは一人は盛大に洗濯機を回し、もう一人は庭にロープをひっかけて準備をし、めったにしないシーツの外干しをする。乾燥機のある現代ではすっかり忘れてしまった外干しの匂いを感じられる希少な機会だからだ。

以前訪れた日本で外干ししたばかりの布団を敷かれたのがその習慣のきっかけだったように記憶している。匂いと記憶は強くつながってるとはよく言ったもので、その匂いにさそわれて二人は同時にぶわっと昔の記憶を思い出したのだった。

幼いルートヴィッヒがうまく眠れないと相談してきた夜、ギルベルトのベットに入り込んで眠っていたことだとか。
逆に、気が向いたからといってギルベルトがルートヴィッヒのベッドに入り込んで童話の読み聞かせをしてやったことだとか。
夕方にうとうととソファで眠るルートヴィッヒをベッドまで運んでやったギルベルトが、その寝顔と寝息に誘われてその場で一緒に眠ってしまったことだとか。その日の晩二人して夜に眠れず、せっかくだからと星を見に近くの丘まで馬でかけていったことだとか。
そういった在りし日の穏やかな思い出が、走馬燈のように駆け巡った。

近くにいぐさの匂いもする中そこまでの思い出が掘り起こされたのだから、自分たちの家でやればなおのことだろうと思ったし、果たしてそれはそのとおりであった。



だから、見事にきれいに晴れた夏の日の夜は、二人で穏やかに思い出に浸る夜である。
今日思い出しながら話したことは、馬に乗って駆けていく兄を見送るルートヴィッヒが同行したいとちょっとしたわがままを言って「たくさん食ってたくさん寝てもっと大きくなったらな」と諭したときのことだった。
「それを真に受けて俺はたくさん寝ようとして、逆に夜に眠れなくなったんだ」
むすっとしたルートヴィッヒの声音は、半分ほど夢の世界に行っているのか随分と子供っぽく、そんなふうに言われてしまったらギルベルトは甘やかさずにはいられないのだ。
「そっかー、悪かったなあ。言葉足らずだったなあ」
自分よりも大きな、今だけは幼い子供の背中をなでながら悪いとも思ってない顔でそう言えば、けれどそれには文句をつけず愛しい弟は続けた。
「いつか一緒に遠駆けに行くのが夢だったのに、大人になったときにはそんな時代じゃなかったんだ……」
「じゃあ、今度どこかで馬乗りにいこうな」
そう言って宥めれば、ルートヴィッヒは納得したような幼い顔で頷いて、そのまま完全に夢の世界に旅立ってしまった。

安らかに眠るかわいい弟の寝顔を見ながらギルベルトはそっと息をつく。
こうやって思いでの共有や在りし日のすれ違いを改めて話し合うのは楽しいし幸せなひとときだ。
だけども、やわらかなおひさまの匂いに包まれて、大人でありながら子供のような安らかで幸せそうな恋人の寝顔を見るだけというのも生殺しのようだといつも思うのだった。



匂いにまつわる短編集を書こうとして頓挫したやつ。
あちらでは寒いことが多いからかあんま外干ししないらしいですね。

17.12.06





普独・甘め


兄は喋ると残念なひとだというのは常々思っている。
自分の気持ちをてらいなく口に出して憚らないのは俺にはない美徳だけども、黙っていればかっこいいのにと思うことはしばしばあるのだ。
例えば、今日の夕方見た光景のように。

昼に書斎の掃除をすると言ったきり休憩ですら戻ってこない兄のことが気にかかって、様子を見に行ったときのことだ。
傾いた西日が書斎を茜色に染め上げて、本棚や机や出されて積みあがった本がさまざまに長い影を作る。あたたかでありながら静謐なその空間に、兄はいた。
椅子に腰かけ脚を組み、まっすぐに本に目を落としている。銀の髪が夕日色を映してきらめいて、緋色の瞳とも相まってそれは美しい絵画か彫刻のようだと思った。
しばらくして長い指がぱらりと捲った瞬間、それが静止画ではないとはっきりとわかってはっと息を呑んだ。
そこで俺の気配に気づいたのか兄さんは俺のほうを向き、「どうした、ヴェスト」と掠れた声で喋った。
「ああ、もうこんな時間かよ!気ィ抜くと片付け途中に本読み返しちゃって進まねえのってあるよなあ」
そこから読み返してた本のことをしゃべりながら散らばっていたものをてきぱきを片付け始めた。
掃除が少しでも進むのは喜ばしいことのはずなのに、そのとき俺はあの美しい光景があの声によって破られたことが残念でならなかったのだ。

ずっとそのことがひっかかっていたからだろう。
夕食後もしゃべり続ける兄の話の合間にふとぽろりと、あんなことを言ってしまったのは。
「黙っていればかっこいいんだから、少しは静かにしてくれ……」
遠回しにうるさいと言っているようだと次の瞬間気づいたが、少しだけ驚きで目を丸くした兄さんが「わかった」と言うものだから、軽く謝る機会すら奪われてしまった。
そこから兄さんはすっかり口をつぐんだまま、だけど目を微塵もそらさずに俺を見つめ続けた。口元には淡く笑みをのせていて、厭味も自慢もないその笑顔に妙に心臓が高鳴る。しかしこちらから視線を外すことはなぜかためらわれて、まっすぐにそれを受け止めざるをえなくなった。
一瞬視線が外れたと思えば兄さんは俺の手をとり、また俺の方に視線を向けてその指先に口づけた。そして唇は指の付け根、手の甲へ。性的なことをされているわけでもないのに、唇を落とされるたびに心臓が痛いほどに高鳴る。
次に手を返されて、俺の手のひら自分の頬に誘導する。そしてそのままするっと滑らせて手のひらに唇を落とされた。瞬きすら許さぬほど、熱のこもった赤い瞳をじっと合わせたまま。
目は心の窓という。その窓一面に俺への愛情が張り出されて、ほんのわずかに隠し立てもされてなかった。こちらがカーテンをしてくれと言いたくなるほどに。
つまり、観念したのは俺の方だった。
「やっぱり、今までのままでいい……」
目をつむって絞り出すようにそう言えば、なんだよ!と抗議の声が上がった。
もっとこういう無言のふれあいを続けたかったみたいだが、俺が限界だった。
もし神というものがいるなら、うまくつくったものだと思う。彼は喋ると少し残念だからこそ、俺が受け止めきれる器に収まってくれているのだ。



「黙っていればかっこいいのにと兄さんに言ったら、黙って微笑まれてかっこよすぎて直視できないルッツさん(要約)」というフリー素材をいただいて。
最近相手の手のひらにキスがにわかにマイブームです。
17.12.27





普独・甘め?


それはほんの出来心だった。
ずっと自室にこもって持ち帰った仕事をしてるヴェストに構ってもらいたくて、根を詰めてるであろう弟に息抜きをさせたくて、ちょっと邪魔をしてやろうと思ったのだ。

まずはこそっとすこしだけ部屋の扉を開けて中をうかがう。視界に入る範囲にはいない。デスクにいないということは、別の部屋か死角にいるのだろうか。
もうすこし扉を開いてもう少し奥を覗けば、そこに弟はいた。こちらに背を向けて、本棚に向かって立っている。じっと書面に目を落として集中しているようだ。
これはまさに都合がいい。どっきりをしかけるには誂えたようだといえる。
できるだけ音をたてず部屋に侵入し、足音を忍ばせて近寄り背後に立つ。
ここまで近寄っても気づかないのはちょっと危機意識に問題があるようにも思えるが、ここがどこよりも安心できる自宅だからという安心感がそうさせているのだと思えばまんざらでもない。
今の今まで何をしかけるか決めかねていたけど、この後ろ姿を見ていたらすぐに決まった。この綺麗で扇情的な尻を見たら、することなんてひとつだ。

ギリギリまで気配を消して近寄り後ろからさっとハグをすれば、ヴェストは驚いてひゃっと声をあげて飛びあがった。
前に回した手は服の上から腹筋をなぞり、さわさわと撫でながら胸をなぞって揉む。そしてほとんど同じ高さにある腰は、その尻にこすりあてた。立ちバックをするように。
ほんのちょっとの冗談のつもりだった。ちょっと下品な冗談のつもり。
「なにをしているんだ!」「ばかなことをするな!」そんなリアクションが来るだろうと思っていたし待っていた。だけど。
こちらを振り向いたヴェストは青い瞳をくるりと丸くしてぱちくりとしたあと、頬から首まで一気に真っ赤にして唇をきゅっと引き結ぶ。
何かを期待しながらもこらえるようなその表情に、仕掛けたこちら側こそが煽られた。
ぎゅうと抱きしめて腰をもっと深くこすりつけ、元気になった黒鷲の存在を示す。そして熟れた果実のように赤く染まった太い首筋をがぶがぶと噛みながら衝動を逃がそうとしたが、それだけでは到底収まらなくて、ふうと息をついた。その吐息もまた刺激になったようでヴェストの肩がぴくんと揺れる。
「なあ……したい」
本当はこんなことまで言うつもりはなかったけど、ヴェストがえろいのが悪い。煽るのが悪い。だけど。
「だめだ」
お互い興奮してるくせに、たったひとことがそれを無下にする。がっかりしながらヴェストの首に顔をうずめた。だけど。
「これのきりが付いたら、兄さんの部屋に行くから。それまで待っていてくれないか」
がばりと顔をあげれば、至近距離にとろとろにとけた青い瞳がめいっぱいに映った。そんな顔で、そんな目で、続きの仕事なんてできるのかよ。でも、するといったらやる男だというのは俺が一番知っている。
「わかった。待ってる」
そう言って身体を離せば、その青に寂しさがにじんでたまらなくなる。でもここは我慢のときだ。
空腹は一番の調味料という。ならばここはお互い耐えてそのあと美味しくいただくべきだ。その方が美味しいのだから。



「弟の背後から近づいて冗談で尻に腰を押し付けてみる兄さんとそれだけで真っ赤になるルッツさん(要約)」というフリー素材をいただいて。
お互い無意識に煽られるのは実によき……
17.12.29





普独・ほのぼの


長いアドベントが終わりクリスマスを迎え、次は年越し、という段になってプロイセンは弟の元気があまりないことに気づいた。
クリスマスが終わったことによる祭りの後の寂しさなのかと思っていたのだが、3日ほど経過してもそんな様子ではどうやら推測は外れているようだ。
そんなときはさっさと直接聞いてしまうに限ると経験則で知っている。大事な愛すべき弟兼恋人は、兄たちに強くあれと望まれ育ったせいか甘え下手で頼り下手なところがあるからだ。故に、こちらからつついてやらなければ抱えているものを吐き出そうとはしない。
そんなところが面倒くさくて愛おしい。

「元気がない……一応隠していたつもりだったのだが、そんなに様子がおかしかったか」
「俺様の観察眼にかかればすーぐわかっちまうんだぜ!で、何を悩んでんだよ!年が明ける前に吐き出してすっきりしちまえ!」
そういって物理的にもつついてやれば、ドイツは口をもにゅもにゅとさせて、ぽそっと白状した。
「兄さんが、顔のついた菓子が苦手だと、言っていたから」
「……へ?」
あまりに意外過ぎて、間抜けな声が漏れる。
「え、なんで?それが悩み?」
ぽかんとしていると、ドイツは怒ったような拗ねたような顔で眉を顰める。
「一応まじめに考えているんだ!これでも長い付き合いのつもりだった兄さんの苦手なものひとつ知らなかったこととか、気づかずずっと作っていたこととか」
敢えて言わなかったしなあ、とプロイセンは思う。殊恋人の前ではかっこいい男でいたいのだ。あのときは年明けの大騒ぎの翌朝の寝ぼけ眼だったからついうっかり言ってしまったけども。
「この間、部下が食卓に嫌いな食べ物を出され続けて離婚騒ぎになったなんて話も聞いてしまって。だから、今年は豚のマジパンを作るのはやめておこうと思ってたんだが……やはり無いと寂しくてな」
言われて、いつもこの時期にはあったマジパンの用意が今年はないことに気づいた。キッチンには立つが製菓材料は触らないから考えもしなかったのだ。
「俺の元気がないように見えたのは、たぶんそのせいだ。だから兄さんは気にしなくていい」
口早にそう言って話を切り上げようとするドイツを、プロイセンは引き止める。
「いやいやいや、気にするに決まってんだろ!だってお前お菓子作るの好きじゃねえか!いつも楽しそうに作ってたろ?俺が、まあ、ああいうお菓子苦手って思っちまうのはしょうがねえけど、そのためにお前が好きでやってること辞めんなよ」
「……そのせいで俺と別れたいとか、言わないか?」
「頼まれたって別れるか!お前がしょんぼりしてることの方が俺には辛えの!」
思わず大声でそう言えば、その剣幕に一瞬瞳を丸くしたあと、ふっと相好を崩した。
「そうか……安心した。ありがとう、兄さん」



「まあ、ああは言ったけど、さあ……」
プロイセンの宣言に安心しきって興が乗ったのだろう。並べられたマジパンは豚だけではなかった。3匹の飼い犬をかたどったものもあり、小鳥をかたどったものもあった。菓子作りが得意な弟謹製なせいもあって、どれもクオリティが高くとても可愛い。
確かに愛すべき弟が寂しそうにしているのは辛いけども、やはり菓子と目を合わせるのも相応に辛い。ほとんど実寸大の小鳥マジパンを見ながら新年早々プロイセンは頭を抱えるのだった。



右独ワンドロお題「新年」より。
彼らの新年といえば兄さんの衝撃の告白の印象が抜けない
18.1.3.