普独・ほのぼの(?) 兄さんの瞳の色はよく見てると少しずつ変化している、ということに気づいているのは俺だけのようだ。 俺の一番旧い記憶、会ったばかりの頃の兄さんは濃い赤紫だったように思う。豊かな風味をもつワインを思わせる豊穣の色。 それより時代が下ると、更に赤みの強い色に。流し流された血を思わせる色。長い別離の後、再開したときはどの記憶よりも真っ赤な瞳をしていて、兄が知らない人になってしまったようで少し怖くなったのを覚えている。話してみればそうでないことはすぐに分かったが。 そして今。兄さんの目の色はかなり青に近くなっている、ように思う。光の加減ではほぼ完全に青に見えるほどに。 その変化の原因について一人で考えみたのだが、自意識過剰に思えるかもしれないが、俺の影響を強く受けているのではないだろうか、という結論に達した。俺の影響が少なくなれば赤に近く、強くなれば青に近く。 どの色も美しいと思うのだけど、俺ばかり兄さんに迷惑をかけているような気がして複雑な気分だ。 そして俺だってあのひとのいろを欲しいと、少しだけ思っている。もちろん口にはしないけども。 今日も兄さんの目の色は、青と赤のグラデーションのような不思議ないろだ。昼と夕のあわいのような。 そんなことには気づいていないらしい兄さんは、いつもの顔でこちらを見、あれ、と言った。 「おい、ヴェスト、充血してるぞ。また夜更かししたのか」 「……?いや、昨夜は十分睡眠をとったが」 「んー、でも目が――」 そう言って兄さんは俺に近寄り、俺の目元を下にひっぱってぐいとのぞき込む。そしてまた、あれ、と言った。 「充血じゃねえ、なんだこれ、瞳孔に赤が入ってるな。ちょっとだけ。お前前からこんな色してたっけ?」 「えっ……本当か」 「おう、鏡見て気づかなかったか?」 途端、胸の内にじわじわと喜びがこみ上げる。欲しかったものが手に入ったことと、それに気づいたのがこのひとであることに。 嬉しくて口元が緩むのを抑えきれないでいると、兄さんは不思議そうにきょとんと首を傾げた。きっとこれはあなたのせいだ、なんて言ったらさらに困らせてしまうのだろうな。 公式ルッツさんのおめめにピンクが入ってた記念(?)に。 最近の兄さんもおめめが青っぽくて、あー兄弟イイイイってなる…… |
普独・ややすけべ 自室のベッドで浅い眠りについたころ、プロイセンはふと寒気がを感じて意識が浮上した。体調不良によるものではなく、すっと冷気が肌をなでるような寒気。 布団が肌蹴ちまったのか?さみいな、と思いながらうっすらと目を開ければ、視線の先には掛け布団ではなく愛する弟が自分の体をまたぐように覆いかぶさっていた。 驚いて思わず、ふぁ!?と妙な声が漏れる。それをきちんと聞きつけたのか青い瞳がこちらを向き、「起きたか、兄さん」と至極冷静に言われた。朝寝坊している兄を起こしに来たような声音で。 「ヴェ、ヴェスト、さん……?何してるんです?」 なぜか敬語になりながら尋ねれば、見て分からないか、と視線が語った。 勿論、見れば分かる。寝巻のボタンをぷつんぷつんとはずされ、外気に晒された胸を、そして腹、わき腹と順に熱い手のひらで撫でられて、わからないほど鈍感ではない。先月初めて『した』ときは、自分が彼にしたことだから尚更。それきりまだ一回もしていないけど。 もしかして襲われる!?と一瞬ひやりとしたが、裸にシャツだけ羽織ったドイツの、ゆるく主張する下腹部の更に奥、足の付け根にてらてらとひかる滴が見えた。それがひとりで準備した跡だと察した瞬間、ごくりと喉がなる。潔癖だとずっと信じていた弟の淫猥な姿はひどく倒錯的で、夢でもみているようだった。 「は、はは……俺様の弟はいつからこんなすけべになっちまったんだ?」 混乱を誤魔化すようにそんな軽口をたたけば、熱に潤んだ瞳がいたずらっぽく薄く笑んだ。 「元からだ……知らなかったのか?」 知る訳ないだろう。完璧に隠していたくせに。 折角恋人になったんだからと、俺様好みに仕立てあげようと計画していたのが全部ぱあだ、そんな恨みがましい気持ちが少しだけよぎる。 それを敏感に察知したのか、ドイツは愛撫の手を止めて、やや悲しげに兄のほうを窺った。 「もしかして、すけべな俺は嫌いか?」 「最高」 食い気味なくらいにそう答えれば、プロイセンのよく知ったやわらかい笑みが浮かぶ。そこで静かに混乱していた頭が、やっといつもの動きを取り戻した気がした。どれだけ意外なことをしてたって、可愛い弟は少しも変わってやしないのだ。 再び動き始めようとする手を掴んで止め、ほとんど格闘技みたいな要領で勢いよく二人の上下を反転させる。ベッドがぎしりと悲鳴をあげるのなんか気にならない。目の前にぶら下がった美味そうな餌の前ではすべてがどうでもいい。 驚きの表情のまま見上げてくる弟に、やっと得た余裕の表情で片頬を引きあげて笑って見せた。 「でもさ、俺、やられっぱなしは性に合わねえの。知らなかったか?」 返事は待たずに、ぽかんとあいた唇にかぶりついた。 攻めの理性をゆらがす襲い受けっていいよね、って話からごりごりかいた普独。どいちゅさんがあほっぽく見えるのは書いてるやつがあほだからです。 |
普独・シリアスもどき 玄関で身なりを整え鞄を持ち、ドイツは振り返った。 「では、いってくる」 空はすがすがしいくらいに晴れ渡っているのに、出発の挨拶をする面持ちはどこか陰鬱だ。しかし彼を見送るプロイセンの方はもっと陰鬱でどんよりとしていた。 「なあ、行っちまうのか」 「ああ」 「俺が行くなって言っても?」 「……ああ」 「どうしてもか」 「上司の命令なんだ。しょうがないだろう」 「お前はいっつもそればっかりだ」 「……すまない」 毅然としていてくれればまだ気持ちのぶつけようがあったのに、素直に謝られてしまうとどうしようもない。行き場のない怒りや悲しみや悔しさを握った拳に込めて、プロイセンはドン!と壁を殴った。 「ずっと前から約束してただろ!一緒にサッカーの試合見るって!!あいつのブンデスリーガのデビュー戦見るって!!」 続いてドイツも下駄箱をドン!と殴る。 「俺だって見たいに決まっているだろう!!でも仕事なんだ!」 そして二人は同時に深くため息をついて、ずるずるとその場にうずくまった。 十年以上前、彼らの家のごく近所にひときわサッカーの上手い少年が住んでいた。少年とは特にプロイセンが一緒に遊んでいたりもしたし、時々はドイツも参加していた。将来はプロサッカー選手だな、なんて軽口をたたいたりもした。 その少年が本当にプロになるなんて当時は思ってもみなかった。めきめき頭角を現した彼がフースバル・ブンデスリーガ(サッカー連邦リーグ)の某チームに入って1年、スタメンとして出場するのが今日この日だったのだ。 そんな試合、見たいに決まっている。デビュー戦の日付を聞いた瞬間ドイツはその日が休日であることを確認して歓喜に叫びだすのをぐっとこらえたし、プロイセンはとっておきのビールで祝おうとはりきって準備していたのだ。 なのに。こういう日に限って急に仕事が入ってしまった。数日前先方の都合で急にキャンセルになった顔合わせの会食が、急遽今日に決まってしまったのだ。 これが国内の人間だったら無理を言ってでもこちらがキャンセルするのだが、他国の高官だからそうもいかない。失礼になってしまう。 そんなわけでドイツは盛大に後ろ髪をひかれつつも仕事に行かなければならないのだった。 先に気持ちを切り替えたドイツは立ち上がってドアノブに手をかける。だがプロイセンはその背中にしがみついて引き止めた。 「なあああああ、ヴェストオオオオオ!ほんとに行くのかよおおおお!」 「しょうがないって言っているだろう!俺だって休みたいのは山々なんだ!……よし、決めたぞ」 ひときわ低くなった弟の声音にプロイセンはぴくんと反応する。こういうときのドイツは一度決めたことは絶対に揺るがさない。 「今回の休日出勤は上司に大きな貸しにしておく。その代わり彼の次の試合のときは絶対に休むぞ。いや、直接スタジアムまで観戦に行こう。VIP席だってとっておこう」 「お、ええ?マジ?」 「大マジだ。どんな手を使ってでも絶対チケットを手配してみせる……」 昏いほどの声音で宣言するドイツに、プロイセンは「それ職権濫用じゃねえ?」とつっこみかけたが、やめておいた。欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れることにかけては人のことを言える立場でもないので。 「じゃあ次の予定あいつに聞いておくぜ。そんで、今日は諦めてひとり楽しく観戦してやるよ」 そう笑って見せれば、そうしてくれ、とドイツも薄く苦笑した。 しかし、のんびりと起きだしてきた三匹の犬たちが玄関に立つ二人を見上げる。その瞳が「あれ、ご主人今日も仕事?あそんでほしかったのになあ」と雄弁に語るものだから、せっかくの決意がまた揺らぎかけるのだった。 ワンドロお題「いかないで」で書かせてもらいました。 こいつらでこのお題ならいくらでシリアスにしようがあったのに、こういう方向になったのは偏に私のギャグ脳故です・ |
普独・現パロ・薄暗い あの頃、兄は俺を愛していた。 きっと兄弟愛以上の、性愛を含む意味で。 5年前のある夏の日。夏休みだからとちょっとはしゃぎすぎて遊び疲れ、部屋のベッドで昼寝していた。昼寝ばかりしていたら夜に寝れなくなるぞ、夜に寝ないと大きくなれねえぞ、なんて兄の小言を聞きながら、それでもどうにもならなくなる前に起こしに来てくれることがわかっていたから眠気に身を任せて眠っていた。 そんな甘い考えで日中の疲れを癒すべくうとうととしていると、部屋に兄が入ってくる気配を感じた。適切な時間になると甘く優しく起こしてくれるのが好きで寝たふりをしていたのだが、その日起きろという声はついぞかからなかった。 まず、短いズボンの裾から伸びる太股をゆっくりと撫でさするあたたかい掌の感触がした。いたずら好きの兄のことだから、このくすぐったさで笑うのを待っているのかと思って、それに対抗するように笑い出したくなる口元をぐっとかみしめて我慢する。 すると今度は緩く着たシャツの裾からもう片方の手が伸びて、腹と胸をそっと撫で上げた。いつの間にか兄の手のひらがそんなに大きくなっていたなんて知らなくて、その妙な心地よさに身を震わせた。そして、両手を使うなんてずるいぞ兄さん、と思いつつその手の動きに耐えていると、兄さんの指が胸の先端をかすめて思わず声が出た。その拍子に目を開くと、予想通りの、そして思いがけない光景がそこにあった。 兄がすぐそばで自分の体を触っていることはわかっていた。でもそれは冗談半分の、いわば日常におけるスパイスのようなものだと思っていた。 なのに、そのときの兄の瞳の色といったら! 何らかの熱にでも浮かされているようないろでじっとこちらを見つめ、身体をそっと撫でていた。その目の色はまるで、通学路に時々いる怪しくて知らないおじさんのような淀んだ色で、狂犬のように野生じみたぎらぎらとした光をたたえ、しかし手つきからは俺に対する際限のない愛を感じるほどにあたたかかった。 その感覚の乖離が不器用な俺の頭を混乱させ、俺は思わずそのままぼろぼろと涙をこぼした。 「にいさん、にいさん、どこ……こわい、にいさん……」 そう言った瞬間、兄さんの目からいつもの光が戻って、はっと絶望したような顔をした。そして、 「ごめん、わるかった、怖かったよな、本当にごめん……ごめんな……」 自分以上に泣きじゃくってそう許しを請う兄に抱きしめられ、こちらこそが抱きしめて落ち着かせてやらなければと思って、小さな腕でそっとその背中をさすった。いつも兄がそうしてくれていたように。 今思えば兄には少年趣味があったのだと思う。 ローティーンの身体に興味があって思わずあのときの俺に触ってしまったのだろう。あの過ち以外ほんの一瞬触れようともしなかったからきっとそうなのだ。 それでもいまだに兄のその空虚を埋めてあげたいと思ってしまう。だけども。 最近よく兄と親しくしている菊の身体を見、今の自分の身体を見る。何から何までちがう。身長も、厚みも、声の太さも、なにもかも。 それを思うたびに、あの夏の日に俺が拒まなければ俺たちの関係はどうなっていたのだろうと無為な思考に浸らずにはいられなかった。 ふぉろわ様の語りに軽率に影響されて書いたものでした。 もちろんこの兄さんはルッツさんなら少年であろうと青年であろうと興奮するタイプのお方です。 |
普独・ややすけべ 最近、兄さんは少しずつ変わってきたように思う。乱暴に、横暴に、強引に。元からそういった素質のある人だったけれど、それに輪がかかったようだった。 だからといって何か他所に迷惑をかけているわけではない。俺に対してだけ、さらに言えばベッドの上でだけそうなるからだ。俺は頑丈だから、多少乱暴に扱われたところで長く後をひくようなことにはならない。翌日とても肌を見せられない惨状になったり、腰がぬけて立てなくなるくらいだ。 でも、以前はこんなことにはならなかった。初めて肌を重ねたときなんか、壊れ物を扱うかのように、不慣れながらもおそるおそる、芯まで溶かすように優しく触れてきたのを今でも覚えている。なのに今では俺を獣のように求め、壊さんばかりの手荒さで抱いている。 別にそれが嫌なわけではない。いや、むしろ――。 「ヴェスト、風呂空いたぜ」 俺の思考を遮るように兄さんから声がかかる。わかったと返事をして振り向き、びくりと固まる。下着だけ身に着けてがしがしと髪を拭いている兄さんがすぐ傍で立っていた。こういうことはよくある。けど、これはいけない。あんな思考をしていたときにこの姿は目に毒だ。 筋張っているが決して細くはない腕。 長くすっと伸びた力強い脚。 鍛え始めたために厚みを増してきた胸と腹筋。 シャワーで温まったせいで赤く浮かび上がる古傷は、興奮してもそうなることを俺は知っている。 男らしく節くれだった手は信じられないほどの握力で俺を掴んで離さないことも、体温が低そうに見える白い肌は意外なほどの熱さをはらむことも。 この躰に昨夜もひどく抱かれたという事実を明るい照明のもとで直視してしまって、背中をぞわりと快感の記憶が駆け抜けた。 ごくりと自分の喉が鳴るのをまざまざと感じる。これはいけないと思いながらも、兄さんからうまく目が離せないままじわじわと体温が上がる。 「ヴェスト?どうした」 「い、いや、なんでもない……俺も風呂にいってくる」 そう言って席を立って、兄さんが出てきた方に向かう。そのすれ違いざま、肩をがしっと掴まれた。 え、と思わず声が漏れると当時に、ヴェスト、と兄だけが使う名を呼ばれる。その声音、その熱さだけで彼が何を言いたいのか分かってしまった。 「今日、いいか?」 俺もそう思っていたなんて上手く言えなくて、おずおずとひとつ首肯すれば、ほっとしたような顔で微笑まれた。 「昨日もだったのに悪ィな。なんか最近ヘンに欲深くなっちまってさ」 「いや、大丈夫だ……兄さんとするのは、す、すきだ、から……」 絞り出すように言えば、兄さんにぎゅうとハグをされた。風呂上がりの湿った肌が直接触れてまた一段体温があがる。 「もーー!あんなひどくしちまってるのに、ほんとお前良い子だよなあ!俺も好き!大好き!愛してる!今日こそはちゃんと優しくするからな!」 そう言って兄さんは、ベッドで待ってると言い残して上機嫌に寝室に消えていった。 風呂に入る前からのぼせそうな熱をうまく逃がせないまま、浮ついた思考が巡る。 優しい兄さんはもちろん好きだ。けれど、俺を手ひどく抱くときのぎらぎらした雄の顔も、逃がすまいと痛いほどに抱く力も、どうしようもなく好きだと言ったら兄さんはどんな顔をするだろうか。 筋トレするとなぜか欲深くなる、という話を聞いてもうこれは兄さんにやらせないといかんやつだな!!!って思ったので…… 兄さんのせいでちょっとMに目覚めかけてるどいちゅさんだいすきです。 |