短文まとめ


歌仙
石切丸+青江
歌仙+薬研
御手杵(+手伝い妖精)
小狐丸


歌仙


一周年記念の宴の準備が大方終わり、歌仙は一旦自室に帰った。珍しく徳利と猪口を手にしている。
歌仙はあまり好んで酒を飲む方ではないが、別に嫌いな訳でもない。どうせ宴の最中は厨の切り盛り
に駆り出されるのだから、今のうちに一足早く宴気分を味わっておこうじゃないかという算段だった

その際酒蔵に立ち寄ったが、宴に向けて審神者が大量に酒を買い込んでいたがそれがもう既に三分の
一程消えていた。消えていたもののひとつが次郎太刀用に確保しておいた四升樽だったから、気の早
い飲兵衛連中が宴の前にもうどこかで呑み始めているのだろう。同じようなことをしようとしている
手前、注意しに行く気もなくしたのだが。


初期刀である彼は本丸の最初に自室を決める権利を与えられ、審神者の部屋から遠くはなく、椿の木
が綺麗に見える一部屋にした。丁度去年の今頃のことだった。あのときも真っ赤な椿が咲き誇ってい
た。
自室のすぐ外の縁側に脚を崩して座し、椿を眺めながら猪口に酒を注ぐ。
この自室を決めたとき、審神者は椿は縁起が悪いのではないかと言っていたが、とんでもない。それ
は近代に流布した迷信で、椿は古来より生命力の強い魔除けの木とされてきた。
ほとんどの花が眠る冬、雪の降る中その重みに負けず咲き誇る椿は愛でるのにふさわしいと歌仙は思
っている。
審神者に選ばれ、人の身を与えられ、聞き知っていたことを見て触れて知り、まったく知らなかった
ことまで教えられた1年だった。刀としては何百年も生きてきたのに、そのうちのたった1年である
この1年は今までのどの時よりも濃密だった。大変だったこともつらかったことも嫌だったこともた
くさんあったはずなのに、振り返ってみればあたたかいものばかり満ちる心地がする。確かにこの1
年は楽しかった。
戦いはまだ終わる予定はない。だから少しでも長くこのときを過ごしていきたい。
この椿のように美しく、そして力強く。

「これからの我々に幸あらんことを」

宙に向かって乾杯する仕草をしてから歌仙は猪口を傾ける。するりと口当たりのいい液体が喉をすべ
り、少ししてかっと熱くなる。
ほら、人の身はこんなにも楽しい。



素敵なもらいもののお礼ということで歌仙推しの人に押し付けた40分クオリティ。「人の身を謳歌する歌仙ちゃん」というお題で書かせてもらいました。
16.02.02





石切丸+青江


石切丸が祈祷所から自室に帰ると、その部屋のすぐ外の縁側に白装束を肩にかけた細い影が見えた。
「青江くん?こんなところでどうしたんだい」
「加持祈祷お疲れ様。君に用があってね」
「おや、何の用かな」
「ふふふ、まあこれから暇だったらお茶でもどうだい。ちょっといいお菓子も用意したんだ」
「それではお言葉に甘えて、ご一緒させてもらおうかな」
差し出された皿を見、石切丸はあどけなく相好を崩した。


「今日ここに来たのは、お礼参りみたいなものでね」
青江がそう言ったのは、石切丸が羊羹ひと切れと団子1本を食べ、お茶を飲んで一息ついたころだった。
「お礼?私が何かしたかな。というかむしろ私の方が君に助けられてることの方が多いと思うのだけど」
「日常生活ではそうかもしれないけどね。僕が言っているのは精神的なことさ。――以前、神剣についての話をしたのを覚えているかい」
「戦場で喋ったあれかな」
「そう。君に話を聞いてもらって僕はなんだか救われたんだ」
いつものにっかりとした笑みではなく、柔らかく穏やかな笑みを浮かべて彼は言う。
「僕はね、自分の名の由来になったあの件は、自分を構成する一部であるし功績であるし誇りにも思っているのだけど、きっとどこかで罪だと認めてもらいたかったのだろうね。僕のやったことは皆が褒めるような綺麗なものではないと、誰かに知ってもらいたかったんだ。無意識のうちにね」
「へえ」
「だからね、君に幼子を斬ったことを罪だったと言ってもらえて、僕はとてもほっとしたんだ。このお菓子はそのお礼というか、お供えというか、そういったものさ」
「ははは、深く考えず言った私の言葉でこのようなものをもらってしまうなんて、なんだか勿体ないねえ」
「いいんだよ。僕が勝手に救われて勝手に感謝しているだけさ。――あと、これもまた僕の勝手な推測なのだけど」
「うん、なんだい」
お供えだと言った羊羹を青江も一切れつまんで、飲み下しながら少し思案する。そして意を決したように切り出した。
「君はもしかして、僕が言ってほしいことを読み取っていたのじゃないかと思ったんだ」
「面白いことを言うね。その根拠を聞いてみようか」
「君の言葉があまりにも僕にとっての最適解だった、というのと、もうひとつ。君はずっと人々の願いや祈りや悩みを聞いてきた御神刀だろう?そういった類の想いに敏感でそれを察知できてもおかしくない、なんて思ったのさ。どうかな?」
「さあ、どうだろうね。君の悩みの助けになれば嬉しいと思っていることは確かだけど」
湯呑を手ににこりと笑う石切丸の顔からは、あどけなさが消え感情が読み取れない。
それを見て青江もにっかりと笑う。人好きのする穏やかさで振る舞っておきながら、やはり彼は幽世の住人なのだと改めて確信した。


青江は誰かにあの功績を罪だったと誰かに知ってもらいたかったのではないか、という考察を聞いて。
親しみやすいぱっぱも好きだけど、ふとした時に人外感のでる御神刀なぱっぱもだいすきです。
16.02.29





歌仙+薬研


歌仙が厨で調理器具の洗い物をしていると、珍しい人影が入口にひょっこりと現れた。
「おや、薬研。こんなところに珍しいねえ。何か用かな」
「さっき酒飲み連中と一緒に桜でも見ながら酒飲もうかって話になってな。何か肴になるもんでもないかと思ったんだが」
「桜って、まだ一分咲きがいいところじゃないか!まだ肌寒いのに随分と酔狂なものだ」
「そこはほら、飲めば寒さなんて気にならないって寸法だ」
「だろうと思ったよ。でも残念だね。すぐに出せそうなものはちょうど切らしてしまっているんだ。明日保存のきく食料をまとめ買いするつもりでね」
「うーん、間が悪かったか……」
「魚や野菜なら余っているから、ここにきたついでだ、料理していくかい?」
「歌仙、あんた他の連中に厨に入られるの嫌うだろう」
「それこそ酒飲み連中が酒のつまみを探しに来て、あちこち頭やら体やらをぶつけて仕舞ったものを落としてはぐちゃぐちゃに戻していくからだよ。君ならその心配がないからね」
「ははは、間違いないな。しかし、料理はちょっとな…」
薬研は藤色の瞳を苦くゆがめて厨の奥を見る。そこには電化製品の溢れたこの厨で唯一前時代的な、火を使うコンロがあった。
「ああ、そういえば君も燃えていたね…」
「とりわけ嫌いって訳でもないんだがなあ、進んで近づきたいもんじゃあない。だから料理はちぃっとな」
すると歌仙は目をぱちくりと瞬かせてからふふっと笑った。
「料理イコール火を使うものと思っているなんて、随分古い考えじゃあないか」
「何かおかしいこと言ったか?」
「ははは、せっかくの客人だ。僕の城を案内しよう」


それからの怒涛のような歌仙の話は、せっかくだから帳面にでも書き留めておくべきだったかと思うほど内容が濃密であった。
薬研が「料理をあたため直す機械」としか認識していなかった白い箱が、野菜をゆでることも肉を焼くこともできるということを初めて知った。
歌仙は「雅じゃない」と言っていたが、その白い箱で解凍するだけで供される料理があることを初めて知った。
生魚=刺身としか認識してなかったが、味付け次第で異国の料理になることを初めて知った。
火を見なくとも魚を焼けることを初めて知った。
様々な器具を駆使してまたたく間に料理ができていくさまは魔法のようだ、と眠っていた子供心みたいなものが沸き立つような思いがした。

「ちょっと話しすぎてしまったかな」
「いや、面白かったぜ。火を使わなくてもできるつまみがこんなにあることに驚いてばっかりだ。料理も面白いもんだな」
「そう思えたならよかった。――この場では僕が洗っておくけど、料理は片付けまでが料理だからね。今後することがあったら、洗って乾かして元あった場所に片づけること。いいね」
「ああ、わかった」
そんな会話をしながら歌仙は流れるように使った器具を洗って拭き、当たり前のように上の方にある棚に仕舞った。175cmある歌仙が少し背伸びをする高さだ。
「いや、やっぱり俺っちには不向きみたいだな」
愉快げに笑う薬研に歌仙は首をかしげてから、自分がとっていた体勢に気付き、つられるように笑った。
「なんなら、明日買い出しついでに踏み台でも買っておこうか」
「邪魔にならないなら頼む。悪いな」
「なに、共に厨に立つ者がいるがいるのは楽しいと教えてもらった礼さ」


後日。個人的な酒宴のある日に限りだが、厨に立つ薬研の姿が頻繁に見られるようになったという。




某所の資材富豪審神者が砥石をカンストさせ、「カンスト祝いに小説書いて!」と名指しでリクしてきたので。お題は「歌仙とニキのお料理教室」でした。

16.03.25





御手杵(+手伝い妖精)


本丸には鍛刀妖精に似た容姿や大きさの手伝い妖精というもの何人も存在する。
あるときは料理当番の手伝いをし、あるときは本丸の掃除をし、あるときは男子の出陣準備の手伝いをする。
これはとある妖精のある朝の話である。


まず彼の仕事は、その男士を起こすことから始まる。時折変な夢を見るというその男士は眠りが浅いのかいぎたないところがある。故に、毎度かけ忘れている目覚ましを直近の時間にして耳元で鳴らす。
いぎたないとはいえ流石に耳元で大音量を流されれば目が覚めるらしく、「うぇー……」と言いながら担当の男士――御手杵は体を起こす。
これもよく眠れてないからか、布団の上でぺたんと座り目をごしごししながらしばらくぼーっとしている。どうも朝に弱いのは性分らしい。
常だったらこうやって体を起こした時点で起きたと判断して妖精は次の仕事をしに別の部屋へ行くのだが、今日はそうもいかない。御手杵は朝一で出陣の予定があるのを知っているからだ。
妖精は布団の上でぼーっとしたままの彼に今日のシフト表を見せ、御手杵の名のあるところを小さな指で指し示す。
「ああ!今日は俺朝一で戦か!」
少しばかり眠気の残っている声音のその台詞に一生懸命こくこくと頷けば、御手杵のはしばみ色の瞳は途端に光を取り戻して朝支度を始める。戦でなければこうはいかない。内番のときも同じくらいやる気をだしてくれればと思うけども、それがかなわないことも十分知っている。
やる気を出した御手杵はためらいもなく妖精が用意した戦支度を見につけていく。それをまじまじ見るのも無礼かと思い背を向けてはみるが、それを気にするでもなく、さらさらと衣擦れの音がする。
「うっし、っと。続き、手伝ってくれよ」
声をかけられ振り向けば、ほとんど内番着のような状態の御手杵を目が合う。彼の戦装束を括りつけるのは妖精の役目だ。
まずは手甲の紐を括る。一人で出来る男士もいるらしいがこの大身槍はあまり器用ではないらしく、手甲をつけるのにも手助けがいる。
次いで、腰の防具の紐を括る。二か所ある結び目がいつもよりきれいに出来た気がして、出来上がった結び目を小さな手でぽんと叩けば、気の抜けた声で「お?」と言う声が聞こえた。
最後の大仕事として、腕の防具をつける。腕が片方丸々ふさがることもあって、これを妖精の力を借りずに装備できるものはほとんどいない。しかし体の小さい妖精にはなかなかの重労働で、コツがいる。そのコツを活用して、槍にしては細くしかし大身槍を振るうにふさわしい二の腕に手早く紐を巡らせ、括る。やはり今日は調子がいいのか最短時間で準備できたように思う。
ふんす、と満足げな鼻息を鳴らした直後、妖精に大きな手のひらが差し出される。握手をしたい訳でも抱えたい訳でもなく、御手杵がほとんど唯一ひとりでやりたがる装飾があるからだ。その大きな手のひらに革の帯を載せれば、人好きのする顔がへらりと笑った。
御手杵はその革の帯――ベルトのを自身の腿に回しくるりと巻いてくっと締めた。
欲を言えばそのベルトの装備も手伝いたいのだが、これだけは自分でやりたいというので本人に任せている。その作業こそが御手杵のなかのスイッチを切り替えるのだろう。
腿の外周よりもやや締まったベルトを軽くたたき、「よしっ」と声がする。
彼の頭の中はすっかり切り替わったようで、目つきはさきほどまでの寝ぼけ眼から武人の瞳にすっかり切り替わっていた。
その目元をにわかににこっと細め、大きな手のひらで妖精の頭をわしわしと撫でた。
「いつもありがとうな。じゃ、いってくる」
撫でた手をそのままひらっと振って御手杵は退室した。

その後ろ姿を見ながら妖精は思う。実に手のかかる愛しきかの槍にに武運あれ、と。


日頃素敵な槍男士絵投下してくれてるぎね推しさんに押し付けた小話。
おだいは「ぎねちゃんのわっか」でした。あのベルトどうやってくっついてるんだろうか…。
16.04.02





小狐丸


井戸水使用権というものがある通り、本丸には井戸がある。
それを使えばある程度まで水を使うことができるが、それなりに制限があるということである。

さて、その日の小狐丸は主命により畑仕事に従事していた。
そして、その日の天候は雲ひとつないカンカン照りであった。
つまり、格好こそ涼しげではあるものの髪のせいで暑苦しく、しどとに汗にまみれ、自慢の毛並みはぺしゃんこになり、彼の美的基準では実にみっともない姿になっていた。
そこで目に入ったのが畑のごく近くにある鍛刀場の井戸である。
いつもの小狐丸ならそんなことはしない。だが今日はとても暑かったのだ。故にその井戸にふらふらと近づいて、涼しげな水面を見つめてしまった。
「こんなにあるなら、これくらい…」
誰に言い訳するでもなく、そう呟く。
汗まみれの服を今更更に濡らしたってどうってことはない、と、暑さでぼうっとした頭が告げていた。

からからから、と井戸の桶を引き上げれば、なみなみとした透明な水が張られ、もう片方の手でちゃぷちゃぷと水面を揺らせば冷たい感触が指先を弄んだ。
その冷たさが心地よくて、桶ごとざばあっと頭からかぶる。
するとどうだろう。水の冷たさだけではない何かがすうっと頭からつま先まで心地よく通り、みるみる力が湧いてくるような心地がした。風呂場で水を浴びたのではこうはいかない。ここの井戸水だからこその清い霊力のような何かがあるように小狐丸は感じた。
不思議に思いながら、顔・腕・胴・脚を順々に触り、最後に髪を触ったときについに確信した。髪のつやが先ほどよりも格段に増している。
「こ、これは……!」
井戸水を手ですくって髪につければ、その部分の髪の傷みが補修されつやが増していくのを感じる。
再び井戸水を手のひらで掬う小狐丸の瞳は、紅くきらきらとつやめいた。



そして日が暮れて秋の虫が鳴く頃、小狐丸は布団の住人と化していた。
原因としては、必要以上に井戸水(鍛刀場では冷却材と呼ばれる)を無断で使い過ぎたことによる謹慎であることがひとつ。
もうひとつは、井戸水の魔力に魅せられて冷水を頭からかぶりすぎたことによる風邪のためである。
自分が引き起こしたことによる失態は自分で思うにつけ恥ずべきものではあるが、それでも小狐丸は上機嫌にくふくふと布団の中で笑っていた。
「毛並みに気を遣うのはいいけど、お前が体調崩すのは心配になるからもうこんなことはやめような?」
さきほど見舞いに来た主は、そう言って小狐丸の頭をわしわしと撫でた。
髪艶のことまでは言及されなかったけども、それだけで水を浴びた甲斐があった、と思いながら瞼を閉じる。いつもよりいい夢が見れそうな気がした。




某所のリク安価で「内番服の小狐!」って言われたので。
小狐はほんとはもっと賢い子だと思います…

16.04.17