短文まとめ

小狐丸+鳴狐
日本号+次郎太刀
江雪+小夜(+宗三)
一期一振+今剣
不動+長柄


小狐丸+鳴狐


この本丸において、新入りに真っ先に割り当てられる仕事は畑当番である。
先日鍛刀で来た小狐丸ももちろん例外ではなく、その日は朝から内番着に着替えて畑で仕事をしていた。

なんとなく居心地が悪い。
というのも鳴狐がものも言わずこちらをじーっと見つめてくるからである。何か見咎めるようなことでもあるのかと聞けば、首を振る。
刀をふるうでもない慣れない仕事について何か質問すれば、すべてお供の狐が答え、ここはこうしたらいい、という作業については鳴狐が実践して見せた。
何か話しかけようにも、相手のことを全く知らない上に相手が喋ろうともしないのであれば、話のとっかかりが見えない。
内心やれやれと思いながら畑の端まで水撒きを終えて、ホースを回収する。いちいち井戸まで水を汲みに行くことを考えればよほど楽だが、水の入った長いホースを持ち運ぶのも簡単ではない。重いホースを担いで蛇口の傍にまとめると、かんかんと照る日差しも相まってひとつふたつと汗が頬を伝う。
「何故私がこんなことを…」
独り言のようにつぶやけば、いつのまにか傍まで来ていた鳴狐とお供がそれに答えた。
「なんでも、こういう作業をすることによって体力をつけることが目的のようです」
「なるほど。ぬしさまの深い考えがあってのことじゃな」
「それにそろそろ大豆の採れる時期ですので、鳴狐もわたくしも楽しみにしておるのです!」
「大豆というと、いわば油揚げの元のもとのことか?」
「さようでございます!」
「……本丸で作る油揚げ、おいしいよ」
おそらく初めて聞いた鳴狐本人の言葉に小狐丸は紅い瞳をくるりと丸くして驚く。そのことをつっこむのも野暮かと思いさりげなく彼を観察してみれば、面頬で覆われた表情が少しだけ緩んでいるように見えた。おそらく、好きなもののことを話すのが好きなのだろう。
「私も油揚げは好物じゃ。是非ともその元のもとの豊穣を願わねばな」
そう言って小狐丸は懐から小さな珠を取り出し、畑をぐるっと見回してからその中央にひとつ立っている案山子に近寄った。すると鳴狐もその後ろを鳥の雛のようにとととっとついてくる。
「小狐丸様、何をしておられるのですか?」
「この畑の主に稲荷の力を貸してしんぜようと思ってな」
「稲荷……?」
「知らぬか?稲荷は元々五穀豊穣をつかさどる神。稲荷の狐が持っている宝珠は霊力の象徴とされておるのじゃ」
宝珠を模したらしい小狐丸の珠には炎のような紋が描かれていて、言われてみればなるほど霊験あらたかなもののように見える。その珠を小狐丸は小さめの手ぬぐいで簡単に包み、予備の髪紐を通して案山子の首に下げた。
「私に加持祈祷などはできぬが、畑の主殿、よろしく頼むぞ」
そう言って笠越しに案山子を撫でて、ふと振り向けば、鳴狐が金の瞳をきらきらと輝かせてこちらを見上げていた。
「なんじゃ、なんじゃ」
「小狐丸様は稲荷神のことにお詳しいのでございますか!」
「稲荷のゆかりのある刀ゆえ、それなりにはな」
「鳴狐は狐と名のつくものや狐にまつわるものにとても興味があるのです」
「…狐、すき」
「ですので、よろしければ小狐丸様ご自身のことも含めていろいろお聞かせねがえませんか!わたくしも狐の眷属の端くれとして聞きとうございます」
「それは構わぬが……ならば、そなたらの収穫したものを洗いながらでも話をしようぞ」
泥や砂埃のついたままの野菜を指し示してそう言えば、鳴狐は頬をほんのりと紅潮させてこくこくと頷いた。子犬のようにぶんぶんと振られる尻尾が見えた気がしたのは気のせいだろう。


初仕事はどうだったと他の者に訊かれ、鳴狐となかなかに楽しく話が出来たと答えれば「あの鳴狐と会話!?」と驚かれたのは、その日の夕餉の頃のことであった。




某所でリクを募ったところ、狐回想コンビの指定がきたので。
なっきーの「好き以外の感情表現のほとんどを狐が行う」=好きの表現は自分でするという設定は実に美味しいと思います。

16.04.30





日本号+次郎太刀



刀剣男士にも給料というものがある。月に一回、働きに応じて金銭を受け取るのだ。その給料を貯金するものもいれば、趣味に使う者もいる。
そして本丸には早々に給料を使い果たして給料日が近づくにつれて目が死んでいく二人の飲兵衛がいた。
なにせ出陣するにも酒が要る二人だ。酒代は必要経費だと言い募って審神者に交渉したことがあったのだが(別に示し合わせたわけではない)、「酔ってれば痛くないもーん」「飲むことで傷を癒してるんだよ」などと言って手入れ部屋に行くのを渋るような二人なので、「自分の怪我すら把握できないようになる代物が必要経費で落ちるか!」と反論されて却下されたのであった。

そんな給料日前のある晩。
することもなく飲む酒もなく、日本号が自室でぼーっとしていると、のしのしと足音が聞こえ陽気な声が障子の外から聞こえた。
「日本号ー!起きてるかぁい?」
「ったく、そんな大声聞こえたら寝てても起きちまうぜ」
「おや、それは悪かったねえ」
「起きてたからいいんだがな。俺になんか用か?」
「いいモン持って来たから一緒に楽しもうと思ってねェ」
この二人に共通する「いいモン」と言ったら勿論酒である。しかし次郎太刀も給料を早々に酒代で使い切るひとりだ。むしろ身を飾る物にも妥協しないのもあって日本号より浪費は激しい。時折酒を融通してやることもあった。
首をかしげながら障子を開ければ、化粧を落とした着流し姿の次郎太刀が甕を小脇に抱えて立っていた。その甕からふわりと酒精の匂いが漂い、予想が外れてないことを知る。
「お前さんが酒持ってくるなんで珍しいじゃあねえか。どうしたんだ」
「試しに作ったものが案外上手くいってさ、いつもお世話になってるあんたにおすそ分けにってね!」
「作った!?」
日本号にしてみれば酒とは買うもの、もしくは貰うものである。
しかし人間と酒の歴史は古い。さかのぼれば紀元前4000年にまで至るし、極論を言えば糖分と水と酵母さえあれば、どぶろく程度なら簡単に出来るのである。……それが良いことかどうかは置いておくにしても。
「密造酒たァなかなかやるなあ。毒味くらいはしてんだろうな?」
「兄貴にも試飲してもらったお墨付きだよっ」
にこにこと次郎太刀は甕の蓋を開ける。そこには透き通った水面がきらめく清酒がなみなみと入っていた。
「次郎、あんた、この量を絞りまでやったのか……」
「うん?なんのことだい」
「こっちが訊きたい。どうやってこんな上等な酒を造ったんだ」
「そりゃあ、蒸した米をちょいと拝借して井戸水汲んで、ちょちょいっと念じてしばらく放置して、仕上げに石切丸が加持祈祷してる祭壇の陰に隠して1晩寝かせれば、本丸製お神酒の出来上がりって寸法さ」
「……」
無言で日本号は天を仰ぐ。辛うじて、大太刀連中はバケモノか、と呟くにとどめた。
「アタシらはみんな付喪神なんだから、バケモンみたいなのはみんな一緒さぁ。大太刀も槍もかわりゃしないよ」
「まあ、そうなんだがな」
日本号はつっこみを放棄することにした。
「だけど、酒のアテまでは都合できなかったのさ。日本号、なんか持ってるかい?」
「そういうことなら丁度いいもん持ってるぜ」
ニィと笑って日本号は部屋の奥から干し肉の塊のようなものを取り出してきた。
「なんか上等そうなの出してきたじゃないか。買ったのかい?」
「いや、燭台切が厨番の職権乱用してなんかけったいなモン買ってたのを都合よく目撃してな?主にチクられたくなかったら半分寄越せって言ってもらってきた。プロ…なんとかっていう外国の熟成肉だとよ」
「あんたもなかなかワルだねえ」
「お前さんこそなぁ。ちょっと待ってな。食いやすいように切ってくる」
「じゃあこっちも酒を注いでおくよ」

悪い大人の秘密の夜は、こっそりと賑やかに更けていく。




何かってーとすーぐ祝杯あげようとする飲兵衛たち可愛い。この二人は酒の為ならわりとなんでもやる子たちだって信じてる。
あと、比較的現世寄りだとはいえじろちゃんもでかい神社でおねんねしてる刀なので割とさらっとヘンなこと出来ると思ってる。
16.05.01





江雪+小夜(+宗三)


江雪左文字といえば戦嫌いの刀剣男士という特異な存在であることは周知の事実である。
そして能力が高い太刀としても有名である。
後者の方を特に重視しているらしいこの本丸の審神者は、江雪が何を考えているかなど度外視しているようであった。


久しぶりにもらえた休日。江雪は自室のすぐそばの縁側でぼうっと空を見上げていた。
戦いは嫌いだ。話し合いで全て終わればいいのに。和睦の道はないのか。仏の教えはもう廃れてしまっているのか。
晴れ渡った空を見上げる江雪の表情はどんよりと曇っている。
ふぅ、と長く溜息をつくと、ふと横から物音が聞こえた。
そちらを向けば、人影はない。影はないが、桃色の長い髪とぴょこんと跳ね上がった青い髪が柱の陰から見えていた。
「宗三、小夜、どうしたのですか。用があるならおいでなさい」
そう声をかければ柱の陰からひょこりと弟たちが顔を見せた。
ちょいちょいと手招くと二人はすすすっと江雪の傍に近寄った。その手には数輪の花と湯呑、宗三の手には急須があった。
それを見れば、ただの言伝ではないことなど察せられる。
「……何か私に話したいことでも?」
暫しの沈黙が落ち、宗三が小夜をつついた。
「江雪にいさま」
「はい」
「にいさまは戦が嫌いなんだよね」
「ええ、争いは何も生みません。何故話し合いで解決できないのでしょうか、といつも考えています」
「にいさまの悩み、僕たちも一緒に聞いて解決したいって思う。……けど、僕も宗三にいさまも、戦に出るのが楽しいから。江雪にいさまに寄り添えない気がして。…僕は、僕たちは、どうしたらいい?」
こうやって本丸で顕現するまで見知らぬ相手だったはずなのに、見上げてくる猫の目のような小夜がどうにも愛しく思える。
小夜に喋るのを任せて、その後ろでどことなく居心地悪そうにこちらを窺っている宗三も同じだ。彼のプライドが許すならその桃色の毛並みすきながら縁側でのんびりするのは素敵な時間だろうと思えた。
勿論戦は嫌いだ。しかし弟たちや親しい仲間が築いてきた時代を守るためならそれも仕方あるまいと思う。
なにせ、それらの時代があったからこそ彼らとこの本丸で出会えたのだから。
そう思えば何をするでもない時間すら愛しい。弟たちと共に過ごせるならなおさらだろう。
ゆえに、江雪は小夜から湯呑を受け取り宗三を手招いた。
「すこし、三人でゆっくり話でもしましょうか。折角の休日ですから」




ある日の深夜おしゃべりに長々付き合って頂いた江雪推しの方に押し付けた即興左文字。
お題は「束の間の休日」でした。

16.05.02





一期+今剣



その日一期一振は本丸に来て初めて馬当番をすることになった。
というのも、今まで手合せで弟たちの様子を見ることの方がもっぱら多く、他のことまで手が回らなかったのだ。
今日は元々馬当番だった者が昨日の出陣で手入れ部屋に籠っているとかで、時間が空いていた一期にお鉢が回って来たのだ。


「きょうのあいては一期なんですね!」
馬小屋に向かうと今剣が待っていた。ぴょんぴょんと跳ねながら手を振っている。
「よかった!うまとうばんはちからしごとがおおいから、おとながいないとたいへんなんですよ」
「成程。それなら私にお任せください。しかし何せ初めてのことですので、ご教授お願い申し上げる」
「うまとうばんはじめてなんですか?じゃあぼくにまかせてください!ぼくはうまのあつかいはとくいなんですよ!」

弟たちと手合せをして指導することが多かったからか、こどもに教えを乞うというのはどうにも不思議な感じがした。
短刀というとほとんどが粟田口だからというのもあるだろう。初めて接する馬よりも、唯一実年齢が年上な短刀相手に一期は接しあぐねていた。いかに自分が刀派で固まって過ごしていたかを再確認する。
そんな彼をよそに、今剣は宣言通り力仕事を全部一期に丸投げして機嫌よく青海波のブラッシングをしている。こんなちゃっかりしたところも、弟たちと違って戸惑うのだ。
なんとなく話すきっかけがつかめず黙々と敷き藁の交換をしていると、背後できゃあと悲鳴が聞こえた。
「ど、どうなされた」
「ちょ、やめ、うわわぁ…!」
鍬を放り出して駆けよれば、今剣は青海波にべろべろと顔を舐められ、望月には髪を食まれていた。結った髪がほどけかかって床につきそうになっている。
「あっ、こら、やめなさい!」
望月の額を軽くぺちんと叩けば大人しく髪を離した。長い髪が床で草まみれになる寸前に救い出して、以前乱に押し付けられてポケットに入れたままになっていた髪紐で応急処置的に括る。いつも通りの結い方にはならなかったがなんとか上手くいった。
その間に今剣は青海波の顔を退けることにどうにか成功したらしいが、顔はすっかりよだれまみれだ。その顔を持って来ていた手ぬぐいで拭いてやれば、今剣はすっかり疲れてぐったりした様子だった。
「大丈夫ですか?」
「な、なんとか……一期、ありがとうございます」
「いえいえ、慣れておりますので。しかし、『馬の扱いは得意』なのではなかったのですかな?」
いたずらっぽく笑いながら問えば、今剣はぷくっとむくれる。
「うまにきにいられすぎるのも、たいへんなんですよ!」
しっかりした良い子の多い弟たちとは違う、その子供っぽい様子がまた可愛らしくてその白い頭を撫でる。すると「こどもあつかいしないでください!」と抗議されて、一期は声をあげて笑った。




ある日の深夜おしゃべりに長々付き合って頂いたいちにい推しの方に押し付けた短文。お題は「内番するいちにい」でした。
いまつるちゃんはほんと動かしやすい……

16.05.02





不動+槍薙刀



ここの審神者はそれなりに新人かつ豪運であった。
既存の刀剣すらひととおり揃ってないうちから、数多の難民を生み出したという不動行光を早々に迎え入れることができていたのである。そして案外気が合ったのか、彼を近侍に据えていろいろと連れまわしていた。

日課の鍛刀で珍しく20分以外が出たよなあ、と思いながら不動は鍛刀部屋に新入りを迎えに行った。
「あぁ…?新入りか。ちょっとここ座れ」
そんな横柄な態度で部屋に入ったのだが。
「ただ今馳せ参じました。蜻蛉切と申します。いつでも出陣の準備は出来ております」
「天下三名槍が一本。御手杵だ。斬ったり薙いだりできねえけど、刺すことだったら負けねえよ!」
随分なデカブツが2人、そこに立っていた。
ぽかんと見上げる不動ときょとんと見下ろす槍二人の間に一瞬奇妙な間ができたが、言葉に合わせて二人の槍はすっとその場に座する。が、座ってなお彼らは大きい。見上げるとまではいかなくても視線がほぼ同じである。
その威圧感におろおろとしていると、
「第二部隊帰還したぜ!大成果あげてきたんだ!近侍殿はどこだ?」
厚の声が聞こえる。
「第三部隊きかんしましたよー!あるじさま、きいてください!とってもいいことがおこったんですよ!」
次いで今剣の声が聞こえた。

少しして、日本号と岩融が近侍が居ると聞いた鍛刀部屋に来て、空気を読んだのかその場で膝を折った。
しかし、やはりしゃがんでなお不動の視線を同じくらいの位置からまっすぐに眼差しを向けられる。本丸一の長身である岩融に至っては正座しているのもあって、見上げるレベルであった。
「ちょっとここ座れ」と言ったはいいものの、不動とて何かを説教できるほどここに慣れ親しんでいる訳ではない。審神者の思い付きと成り行きで近侍をしているだけなのだ。
おろおろとしている不動に3人はなんとなしに事情を察したが、唯一それを裏切った御手杵が、
「もしかして、あんたも何したらいいか分かんねえのか?」
と口を出せば、図星を突かれた不動はぴしっと固まり、直後、脱兎のごとく逃げ出した。
「ばっか、おめえ、短刀にだってプライドてのがあるんだぞ」
「不動殿が気を悪くされなければよいのだが」
「ガッハッハ!呼ばれてから路頭に迷うとは思わなんだ!」


とはいえ、新入りの指導はそのときの近侍がするようにというのがこの本丸の取り決めである。
本丸の基礎的な取り決めや内番や出陣前の支度について不動が長柄4人におっかなびっくり指導してるの見た他の面々が、その様子を逆カルガモの親子と称しているのを当事者たちだけが知らない。




不動くんの鍛刀台詞が愉快すぎて、デカブツたちでとりかこんでおろおろさせたい衝動に駆られた。ので、ぶつけてみた。
不動くんかわいそかわいい。
16.05.05