無用組 梅雨の庭、という景趣が実装されたらしい。 それに浮かれ切った審神者はこの本丸をずっとそれにしているようで、ここ数日ずっとじとじとと雨が降り続いている。時折雨上がりの庭にするようだが、気が済んだらまた雨になる。実に梅雨らしい季節になっていた。 かんかんと日が照り付けるよりは曇り空の方がいいという者もいる。 鮮やかに紫陽花などが咲き、雨の露に濡れたそれが美しいという者もいる。 出陣用のゲートをくぐってしまえば本丸の天気など知ったことかという者もいる。 しかし彼らはそのどれとも違った。雨ゆえの湿度に辟易して、かつ出陣もろくにできなくて、身体を動かしたいのにそれが億劫になってしまう。そんなタイプにあてはまるのが、同田貫と御手杵だった。 二人とも練度は上限に達しており、出陣は控えられていて、暇を持て余していた。 「あづい」 「暑いな…」 「錆びそう」 「いつも『錆びの内に入らねえ』って手入れ渋ってるくせに」 「俺はそれを撤回する。錆びはつらい。体が壊死していきそうな気がする」 「そうかよ」 「お前はそうじゃねえの」 「錆びた記憶も折れた記憶も大切にされた記憶もあるから、どれがどうとか言えねえな」 「へええ、おもしれえな」 「そうか?」 「俺たち一品モノにはない感覚だぜ、それ」 「ああ、そうかもな」 そんなだらだらとした会話が垂れ流されているのは本丸の道場で、二人とも動く気力を湿度に奪われて床に寝そべっていた。 「身体動かしたいのに、動かしたら不愉快ってどういうことなんだろうなあ」 「ナントカ熱っていうのが逃げないから暑いらしいぜ」 「ナントカってなんだよ」 「俺だって知らねえよ」 「ヒトの身体って面倒だなあ」 「本当にな」 瞼さえ落ちて来そうな無気力感が二人を覆う。 そんな折、がらっと道場の扉が開いた。 「おお、こんなとこのおっちょったか!主が呼んどるぜよ!」 この本丸の初期刀である陸奥守である。 「新しい戦場が解放されるとかでな、わしらカンスト組の出番じゃって言うちょった」 「「なんだって!」」 話を聞いた瞬間二人とも立ち上がり、自らの汗で滑ってこけた。そんな情けないような姿をみてなお陸奥守はにこにことしていた。 くすぶっていた二人の瞳に少年のようなきらきらとした光が宿っていたからである。 梅雨の庭ネタで何か書いてって言われたような気がする(うろ覚え) |
同田貫+大和守 文月の中旬ごろ、政府からの唐突な告知があった。和泉守兼定、大倶利伽羅、同田貫正国の刀種変更である。 三人とも血気盛んな方であるから今まで苦手だった夜戦に参加できることに大いに喜んだが、同時に今までやっていた戦い方が通用するとは限らないということである。 「というわけで、あんたたちに打刀の戦い方を教えることになった訳だけど」 初期刀である加州が3人を集めて言う。 「誰から教わりたいとか、ここがわかんないとか、何かリクエストある?」 「あ、俺長曽祢さんからがいい。レア2打刀で一番強いし、縁があるしな」 真っ先に言ったのは和泉守だ。 「はーいわかった。素直に注文してもらえると助かる。あと二人は?」 「どうでもいいな」 「誰でも構わねえよ」 異口同音に似たようなことを言う二人に、加州はひとつ溜息をつく。 「そう言うと思ったよ……。絶対慣れあわないマンの大倶利伽羅は一番付き合い長い俺と一緒にお勉強しよっか。同田貫はー…どうしようかな、ま、あいつでいっか」 「なんてことが、1年前にあったよね」 そう言ってきたのは、同田貫の指導役になっていた大和守だ。 「あ?ああ、そんなこともあったな。すっかり忘れてたけどよ」 「前は投石はずしまくるノーコンだったのに、今では誰よりも誉を掻っ攫う1軍になってくれて、僕も指導役としては鼻が高いよ」 「そうかよ」 当時はずいぶんしごかれたな…と過去に記憶を馳せる。本丸では穏やかにしているのに、殊投石指導に関しては鬼教官だった。 前の話を今さら話題に乗せる大和守をいぶかしげに見れば、随分と機嫌よくにこにことしていて、しかも後ろ手に何かを持っているのが見えた。 「で?本題は」 「んー、やっぱ君にもおすそわけってことで、これ」 大和守が差し出してきたのは、巷で話題の洋菓子店の箱だった。 「君達には悪いけどちょっと賭け事させてもらってたんだ。これはその戦利品。君のおかげで貰ったものだから山分けするのがスジかなって」 賭け事という単語で大体の事情を察する。あの鬼教官っぷりはそのせいだったのか、と思えば苦い気持ちになるのだが。 いくつか入っているシュークリームを1つだけとる。 「あれ、1個でいいの?」 「戦で活躍できるようになったのはアンタのおかげだからな。俺はそんだけで十分だ。残りは正当な報酬だと思ってとっておけよ」 そう同田貫が言うと大和守は目をくるりと丸くして、おお、と呟いた。 「君、そんなにかっこよかったっけ」 「知るかよ」 妙な褒められ方をして照れくさくなったのを、シュークリームを頬張りながら同田貫はごまかした。 誰かが図録を無作為に2回開いて該当ページのキャラで何か書け、という無茶振りに応えたブツ。 やっさだは本丸と戦場のギャップすごすぎると思う。 |
鶴丸+宗三 「ああ……空はあんなに高いんだな……」 遠い目をしながらそう呟いた声を聞いた。だから彼はふと彼を驚かそうと考えた。 どんよりと曇った空の下、鶴丸と宗三は今日も今日とて畑当番をしていた。 審神者いわく、同刀種の中ではステータスの低い彼らの自力の底上げをしたいからだと言っていたが、鶴丸にはその言葉の意味がよく理解できていなかった。簡単にいうと畑当番をすることで強くなれるという話だったから素直にそれを受け入れているだけである。 そして宗三はやっぱり手を止めてぼーっと空を見上げている。空がそんなに気になるのだろうか。遠征も出陣も十分にこなしているはずなのに、どうにも空が気になるらしい。鳥の名を持つものとしてはその気持ちを分からなくもないが、空に固執するのもあんまり良いことではないんじゃないかとも思う。それは鶴丸自身がさまざまなひとの間を転々としていたからかもしれない。 だから、審神者から貰った端末を使って得た知識を元にちょっと試したことがあったから、それを彼に見せてみようと思ったのだ。 「宗三、宗三、これを見てくれないか」 鶴丸は手元に咲いた花を見せる。この季節に満開に花をさかせるそれは紫陽花だった。桃色であったり青色であったり紫色であったり、同じ品種のものであるのに彩りはさまざまだ。 「紫陽花、ですか。天下人の間を転々とした僕のことを花言葉になぞらえて『移り気』だと言いたいのですか。僕の意思でそうなった訳ではないのに…」 「おお、そんな解釈をされるとは驚きだな。いや、そんな嫌味を言うつもりで摘んできた訳ではないぞ。この紫陽花はな、俺が育てたんだ。この本丸の太刀棟でな」 「同じ場所で、このように彩の違う花が育つのですか」 「そうとも!どうやら土の質が変わると花びらの色が変わるという、不思議な性質をもつ花らしい」 「へえ」 興味なさげに言う宗三に鶴丸はひとつ苦笑する。 「だからな、今ここの地に足を付けている以上、この土の色に染まったらどうだと俺は言いたかったんだ。空に焦がれる気持ちは分からないでもないが、土の上というのもなかなかに刺激的で面白いものだとは思わないか」 そう言われて宗三は鶴丸の金の瞳と見、足元を見、紫陽花を見た。そのそれぞれがこの曇り空の下でも鮮やかに息づいて輝いている。 鶴丸の笑顔につられて、ほんのすこしだけ宗三は笑う。だけど素直ではない口はそんな気持ちを言葉にはしなかった。 「能天気ですね」 しかしその素直じゃない言葉に込められた宗三のこころを読み取ったのか、鶴丸は晴天のようににかっと笑った。 安価で男士二人募って20分で書いたもの。 紫陽花の色の原理はなんか鶴好きそうだなあって思う。 |
薬研+一期 どこの本丸でも初期刀やチュート短刀がその本丸の仕切り役に任命されるというのはよくあることである。 この本丸では初期刀がこじらせ刀筆頭である山姥切であったため、チュート刀である薬研が仕切り役を一手に担っていた。まあ、よくあることである。 他人を拒絶する気がある山姥切が段々と増えていく仲間、つまるところ名刀相手にコンプレックスをこじらせまくってひきこもっている間も薬研はきりきりと働いて初期刀の分もいろいろなことをこなしていた。堀川や山伏といった山姥切の兄弟刀がいれば幾分苦労は違ったかもしれないが、良くドロップすると聞く割にはまだこの本丸には迎えられていないという現状である。 今日も今日とて薬研は本丸を駆けずり回っていろんな指導をしていた。 ただでさえ白い顔をさらに青白くしているのは、審神者さえ気付かないことであったのに、たったひとりだけそれに気付いた者がいた。 「薬研、おいで」 つい先日本丸に迎え入れた一期一振、粟田口の長兄そのひとである。 縁側に座った自分の横をぽんぽんと叩いて座ることを促せば、なんとなく逆らえなくて薬研はそこに座る。 「大変そうだね」 「そんなこたあないさ。大将のために働くのは楽しいぜ」 「楽しいということと、無理をしているかいないかっていうことは、別の次元の話だよ」 そう言って一期は薬研の頬に手を添える。そのまま親指で薬研の目元をさすった。 「こんなにくっきりと隈をつくって……それで『大変じゃない』なんて言うものではないよ」 「うーん、無理してるつもりはないんだけどな……ははは、いちにいにはお見通しなのかもしれねえ」 くくっと笑う薬研の声音にも疲れは見て取れる。 「もっと人を頼ることを覚えると良い。ここに来たばかりの私にだって、この後に来た刀に何か教えらえることもあるだろう。全てお前が担う必要はないのだよ」 「そんなこと、考えたこともなかった」 「なら、これから考えると良い。私にできることならいくらでも協力しよう」 言いながら薬研の頭を撫でれば、すぐにこくりこくりと船をこぐのが見えた。それにくすくすと笑って、ちいさな弟をそっと抱え上げて部屋の中に運ぶ。 蒸した手ぬぐいを極力早く用意して薬研の目元にあてながら、一期は審神者に上奏する内容を考えていた。 随分とぐっすり眠ったなあという実感を感じながら薬研が身を起こせば、随分と誇らしげな笑顔で座る兄の姿が見えた。 後に聞くことによると、練度も足りてないのに様々な戦場に赴いて新入りの刀剣を拾ってきたのだと言う。その中には山姥切の兄弟である山伏と堀川がいるのだとも。 自分のためにそこまでしてくれるひとがいるのだと思えば、勝手に不摂生をし続けているわけにもいかないな、と思って薬研は一期に礼を言う。 なんのことかな?ととぼけられたけど、長兄の想いはしっかりと受け取っていた。 安価で男士二人募ったやつ。 甘えベタなニキばっかり書いてる気がする。 |
数珠丸+一期 ぴた、ぴた、ぴた、と太刀棟に水音が響く。 この棟では今出陣や遠征などでほとんど人は出払っていてここを訪れるものは少ない。自分以外に誰かいただろうかと思いながら一期は部屋を出て廊下を見渡した。 だが、だれもいない。水音だけがだんだんと近づいてくる。不気味に思いながら曲がり角まで向かい、その先を見る。 すると、白く長い着物を着て水に濡れた長すぎる髪をべったりと垂らせた青白い顔の痩躯が、目の前にぬっと立っていた。 「ぎゃああああああ!!!」 「う、わぁ」 思わず叫んだ一期の声に驚いたのか、人影も低く驚きの声をあげる。 「その声は、数珠丸殿、ですか……?」 「はい」 人影が長く垂れた髪をかき分ければ、瞼を閉じた麗しい顔が見えた。 「そんな水浸しでいったい何をしているのですか!タオルを持ってきますので、そこで待っていてください!」 「え、いや、その」 わたわたと慌てて部屋に戻る一期には、たどたどしく引き留める声は聞こえなかったようだった。 宣言通りタオルをたっぷりと持って来た一期は、問答無用でタオルで数珠丸の髪をごしごしと拭き始めた。数珠丸は渡されたタオルで体の水気をぬぐっている。 「ああ、廊下も水浸しに……後で拭かなければなりませんな」 「お手数をおかけしてすいません」 「いえ、弟たちの世話で慣れておりますのでお気になさらず。しかし、一体何があってこのようなことに?」 「本丸裏の滝に打たれて瞑想をしていたのですが、うっかり着替えやタオルを持っていくのを忘れてしまいまして」 「瞑想」 驚いたような声音で一期が繰り返す。 「ええ。……おかしいでしょうか?」 「おかしいとは言いませんが、意外な感じがします」 「これでも仏剣ですので」 「なるほど、そう言われてみれば、そうでしたな。あちらへ行くというと滝行をする山伏殿や祈祷の前に禊をする石切丸殿の印象が強くて。しかし、次は着替えを忘れないでくださいね。失礼を承知で言ってしまいますが、幽霊に出くわしたのかと思ってしまいました」 眉をハの字にして笑う一期の表情には、大声を上げてしまったゆえか照れくささが見て取れる。 「それは申し訳ないことをしました」 「いえ、こちらが失礼な勘違いをしてしまっただけですので」 言いながら一期は数珠丸の髪を拭く手を止めない。随分と毛量があるのでなかなか終わらないようだ。よく見るとその豪奢な服にまで水気が散っていて濡れている。 「ああ、私のせいで一期殿の服まで汚してしまいました。続きは私が自分でやります。重ね重ね申し訳ありません」 「え?ああ、いえこの程度、弟たちの泥汚れに比べたらなんてことないですよ。それより早く水気を切ってしまわね風邪をひいてしまいます。――謝罪の言葉よりも、感謝の言葉を述べられる方が、私は嬉しいですよ」 「申し訳……いや、ありがとうございます」 そう述べれば、一期は「よくできました」と言わんばかりの穏やかな笑みを浮かべていた。 ひとの外見をさして「多くのことがわかるだろうよ」と山伏は言った。 だけど豪奢な服を着て尚汚れることを厭わない彼のようなひともいる。 その意外性や多様さに人の心のありかたを見て、数珠丸はひとりくすくすと笑った。 安価で男士(ry 弟たち以外にも兄力を発揮するいちにいと、うっかりずずさま。 |