短文まとめ

小狐丸+白毛
今剣(極)+岩融
小夜+宗三
燭台切+小狐丸
骨喰+獅子王


小狐丸+白毛


大体いつも感情の読めない笑みを浮かべている小狐丸は、この時ばかりはぐっと眉根を寄せていらだちとも悲しみともとれない表情で馬小屋の中をうろうろとしていた。
時刻は夕餉も終わった夜更け。小狐丸の手元には懐中電灯があるが、馬の大きな影や飼い葉の影が伸びて十分な明るさがあるとはいえない。そんな中でかれこれ四半刻ほど彼は捜し物をしている。
というのも、髪をまとめるのに使っていた髪留めがいつのまにかなくなっているのに、風呂に入る直前になってから気づいたからだった。今日は本丸から出ていないし、朝身支度をしているときにはあったのを確認している。歩いた範囲を灯りを頼りに探してみたが見当たらなくて、馬当番をしていたときに落としたとしか思えなかった。
小狐丸が持っている他の髪留めだったら諦めていたかもしれない。だがその鮮やかな赤いそれは、小狐丸が初めて誉をとったときに審神者から褒美として貰った大事な思い出の品だったのだ。使い過ぎてすこしくたびれてきていたものだったけども、なくしたままにしておくのは絶対に嫌だった。

やはり飼い葉の中に埋もれているのだろうか。間違えて馬たちが飲み込んではいないか。もしかしたら道具置き場で落としたのだろうか。
嫌な想像ばかりが頭を占拠して、小狐丸の顰め面はだんだん半泣きの表情に変わっていく。
半分投げやりのつもりで、馬たちに「私の髪留めを知ってるものはおらぬか」と聞いてみたが、懐中電灯の光がまぶしいと言わんばかりに睨まれただけだった。
はあ、とため息をついて半分あきらめかけていたそのとき。ちょいちょいと髪が引っ張られた。
振りむけば新入りの小柄な馬の一頭、白毛が小狐の髪を一房食んでいる。
「あっ、こら、私の髪を食うでない!大事な毛並みじゃ」
言いながら髪をこちらに寄せても白毛はその髪を離さず、ぐいぐいとひっぱる。
そしてその足元でカラン、と軽い音がした。
「ん?」
小狐丸がそちらに目を向けるとやっと白毛は髪を離した。音のした方に光を当ててしゃがんでよく見れば、小さな赤いものが落ちている。それは間違いなく小狐丸が探していた髪留めだった。
「これは……!白毛、おぬしが見つけてくれたのか!」
応える言葉を持たないのは知っていながらそう話しかけると、白い頭が首肯するようにこくりと動いた。
「……!今まで所詮獣と侮っていて悪かった!本当に恩にきる」
白毛の首を抱えるようにしてその背を撫でれば、ぶるると嬉しげに鳴く声がした。


「小狐丸、そんなに機嫌よく馬の世話をしているなど珍しいな」
三日月がそう声をかければ、笑顔のまま小狐丸はこたえる。
「この白毛だけは特別じゃ。なにせ私の恩人、いや恩馬じゃからな」
言いながら白毛の毛を漉く小狐丸の髪には、あのときの赤い髪留めが光っていた。




ひょんなことで「小狐と白毛がお互いぺこぺこしてる話書いて!」という無茶振りをされて書いたもの。どういう状況だ。
16.7.3





今剣(極)+岩融


此度の宴は今剣が修行から帰って来た祝いのものであった。
しかしその主役たる今剣はそっと宴の席を抜け出して庭に出ていた。
今の主の影響なのか、理由が何であれ酒を飲むのが好きな男士が大半を占めているこの本丸では、そのことに気付く者はいなかった。ひとりを除いて。

「おや、主役殿がこんなところで何をしておるのかな」
座った木の枝の少し下で声がする。喉元でくつくつと笑うそれは今剣のよく知る声だ。
「岩融こそ、ここでなにをしているんですか」
「なあに、俺の一番親しい者と一緒に静かに呑もうと思っただけよ。それとももう酒には飽きてしまったかな?」
「あんまりおさけのあじは、すきではないんです」
「そうか。ならば俺はここで一人寂しく呑むとしよう」
どかりと木の根元に腰を下ろし、岩融は持って来た盃に酒を注いだ。寂しく、と言われてしまったからには傍にいなければ、部下想いだった義経公の沽券にもかかわるだろう。今剣自身は実際のところ彼の守り刀ではなかったのだけど。
「本当の歴史を知ってしまったことを後悔しているか」
ずばっと核心を突いて岩融は言う。
「こうかいは、してません。でもずっとしんじてきたことが、ほんとうではなかったのは……ぼくはいったいなにものなんだろう、とはおもいます」
真っ赤な瞳を地に落とす今剣を岩融は大きな手で撫でる。
「義経公は多くの民に慕われていた。義経公が悲劇の死を迎えたから、多くの物語が作られた。そしてその物語の中にお前がいた。わかるか?」
「……」
「つまりお前の存在は、義経公が慕われた証を体現しているのだと俺は思う。――その答えでは不満か?」
他の誰でもない岩融がそう言うのならばそうなのだろう。自分にはなかった答えを貰って今剣は顔を上げる。
「もしかしたらぼくは、それをしるためにもういっかい、しゅぎょうしたほうがよかったのかもしれませんね!」
そう言うと
「おお、それはやめてくれ。これ以上お前がいないと俺は寂しくて死んでしまうぞ!」
おどけたように岩融が言うものだから、それがおかしくて今剣はけらけらと笑った。



擬似テンドロお題:極今剣で書いた物。
このネタはもう少し練って独立した話にしたいところ。
16.7.3





小夜+宗三


貞ちゃんを掘りあてるんだ!と命を受けて兄である江雪はしぶしぶ白金へ赴いている。
明石を掘りあてるんだ!と命を受けて弟である小夜は無表情なりに少し嬉し気に三条大橋へ出陣している。
一方宗三はといえば、特さえついたもののそれ以上の出陣は特になく、たまに遠征要員として呼ばれるだけ。戦すらまともにさせてもらえない、と思いながら今日も夕餉の下ごしらえをしていた。

夕餉の時間が近づくにつれて戦場となる厨がなんとなく嫌で宗三は自分の部屋の縁側でえんどうまめをさやから出したりもやしの根をもいだりということを黙々とこなしている。
演練で聞くことによると籠の猛禽と言われるほどに戦場で活躍している宗三もいるようだが、この本丸の主はそうではないようだ。それもまた運命、所詮は2度も焼けたお飾りの刀ですよ、と自虐的な思考になるのはしょうがないことだった。

下ごしらえという名の単純作業がやっと半分終わろうとする頃、軽い足音が聞こえた小さな青い影が見える。小夜だ。
「手が空いてるなら手伝ってきなさい、って、歌仙が」
「そうですか。ではこれを半分お願いします」
いくらでも戦に出してもらえる弟をねたむ気持ちは多少なりともある。しかしそれを表に出さないだけの演技ができないほど宗三は単純でもなかった。
「にいさま」
豆をとりだしながら小夜は言う。
「また『拡充』があるんだって」
「へえ、そうですか」
どうせ自分に縁のないことと宗三は聞き流す。
「それで、主がにいさまに虎徹兄弟を探しに行ってほしいって言ってる」
「へえ……え、なんですって!?」
「だから、主がにいさまに出陣してほしいって。それで投石の指導を縁のある僕にしてほしいって言ってて。もし時間が空いてたら―――」
「時間なんでいつでもあいてますよ!いつやるんですか!今でしょ!!」
「ちょ、ちょっと、まって、まだこれ終わってない」
「ならさっさと終わらせてしまいますよ!小夜も早くなさい!」
「う、うん」

そこからの宗三の手さばきは小夜の目には追えないほどであった。
弟から指導を受けることになるなんてどう思うだろうか、なんて懸念も吹き飛ぶほどにその気迫はすさまじいものだったと後に小夜は語る。



擬似テンドロお題:宗三で書いたもの、だったはず。
籠から助走つけて飛び出す勢いの宗三さん素敵だと思う。
16.7.3





燭台切+小狐丸


厨番と言えば本丸の皆の生命力ややる気の基である日々の料理をつかさどる者である。今日誉をとれたのは、今日良い働きを出来たのは、いい食事をとれたからだと思うものが少なくはなかった。

「ならばと思い、あなたにご教授頂きたく」
小狐丸は厨番志願の願いを光忠に出す。そしてそれを光忠は苦笑しながら受けとった。
「新橋への出陣が重なって歌仙くんが抜けたから、ちょうど担当者が欲しかったところなんだ。主だったところはおいおい話すとして、しばらくは僕の手伝いをしてくれるかな?」
「ええ、もちろん」

言われて小狐丸は光忠のするさまを目に焼き付けるようにしてじっと見つめ学び、そそれを忠実に真似ることに心血を注いだ。そしてそういう制度があればそろそろ免許皆伝を貰えるかと思った頃。

「え、僕が出陣……?」
白銀出陣隊である小夜がそう伝えにきて、光忠はまさにハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。そして光忠は出陣隊長である小夜と厨番の弟子である小狐丸を見比べて困っているようだった。
残念ながら光忠が厨番の座を退くのは時間の問題なのかもしれないと思いながら小狐丸はにこりと笑みを作って言う。
「ならば出陣してくださいませ。未熟ですが私にお任せを」
「え、大丈夫かな……?」
「無論。人真似をするのは狐の得意分野ゆえ」
「ふふ、じゃあ任せるよ。でもくれぐれも危険な真似はしないようにね。じゃあいってくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
小夜に連れられていった光忠を見送り、小狐丸はふむと考える。買いだめしておいた食材はカレーを作れと訴えているが、それだけでは面白くない。やはり狐の眷属としては真似て化かしてあっと驚かせることがしてみたいのだ。
ううむと唸っていると、入り口にちいさな影がひょこりと見えた。
「燭台切、とれたてのおやさいもってきましたよ!……あれ、きょうは小狐丸だけですか」
今剣が両手いっぱいに抱えた籠には青々とした豆が大量に入っている。それを見て、小狐丸はほほうと驚いてから笑う。
「おお今剣、これは良いところにきた。ついでだから手伝ってはもらえぬか。なに、難しいことではない」
「はたけとうばんよりめんどうじゃなかったらつきあいますよ」
「さて、それはどうだろうなあ」

その晩の夕餉はカレーで、そのデザートとして畑の豆から作られたずんだもちが供された。言わずとしれた光忠の得意料理であり好物だ。
「真似るのが得意分野って本当だったんだね。教えた覚えのないレシピをここまで再現されると思ってなかったよ」
「師匠にお褒めいただけるとは恐悦至極」
「これなら貞ちゃんが来たときにも君に作ってもらったほうがいいかな?」
「いえいえ、そういうときこそ光忠殿が作った方がよいでしょう。料理の一番の隠し味は愛情と申します」
「なるほど、それもそうだね。でも下ごしらえは君にもお願いしていいかな」
「勿論」
軽く請けあいながら小狐丸は思い浮かべる。ずんだもちを食べる『貞ちゃん』とやらはもしかしたら今の燭台切そっくりの素敵な笑顔をするのかもしれない。



なかよくしてるみっちゃんと小狐というお題で書いたような気がする(うろ覚え)
16.7.10





骨喰+獅子王


骨喰藤四郎は、第一印象としては不愛想な人物であるが、付き合っていくにつれてだんだんとそうでもないことが分かる人物でもある。
例えば、記憶を失くしていることを気にしている、だとか。
例えば、人としてよりも物としての意識が強い、だとか。
例えば、兄弟以外と話をするためにどうしたらいいか考えている、だとか。

そんな骨喰は、審神者や男士相手をするよりも動物を相手する方が得意だったりする。
空気を読むとか社交辞令を言うとかをせずに済むというのは、他者と接するのが苦手な骨喰にとってとても楽なことであった。

馬当番に熱中して少し日も暮れた頃、本丸の縁側に近づくと黒いもふっとした何かが見えた。
近づいてよく見るとそれは獅子王が日頃連れている鵺だと分かった。
鳴狐のお供の狐や五虎退の虎とは粟田口の縁もあってじゃれあったり遊んだりしたこともあったが、この鵺と1対1で触れ合ったことはない。
それを頭で認識すると、どうしようもなく好奇心がうずうずと騒ぎだして、足は勝手に鵺の方に向かった。

いつもより好奇心で少しだけ上気した骨喰は、鵺の座す縁側にすとんと腰を下ろす。
それで逃げ出す様子はなかったので、もう少し近づいて、そのふわふわとした毛並みに手をおろす。それでも動じることはない。
毛並みのふわふわっぷりが心地よく、もう少し遠慮なくやってみてもいいだろうかという欲が出て、その毛並みをもふもふと撫でる。それでも鵺は嫌がる様子もなくされるがままになっていた。
とすると欲がどんどん深まるのは人も男士も変わらない。鵺をぐっとこっちに引き寄せてみると見た目の割には案外軽く、猫のように抱えられるくらいの質量であることがわかった。
なので、その鵺を膝の上までもってきてふわふわもふもふを心行くまで堪能した。この場に鯰尾がいれば「楽しそうだな!」とにこにこと茶々を入れてその間に鵺を手放したかもしれないが、生憎鯰尾は遠征中でつっこみ要員はいない。

ふかふか。もふもふ。
ふかふか。もふもふ。
骨喰が無心にその毛並を堪能していると、背後から声がかかった。
「お、鵺、構ってもらえてよかったな!」
夢中になりすぎて飼い主の接近に気付かなかった骨喰は抱えた鵺を思わずぎゅうと抱え潰した。腕の中からぐっと息の詰まったような鳴き声が聞こえた。
「ちょっ、なにしてんだよ!――ああ苦しかったよなあ、よしよし」
獅子王は瞬く間に腕の中から鵺を抱え上げ、肩に乗せてその頭を撫でた。
「こいつさ、結構人見知りで俺以外の誰にも懐かないんだ。なのにあんたに何されても嫌がらなかったってのは珍しいんだ。何か特別なこと、したか?」
「いや、俺は特になにも」
「ふうん、そっかあ。動物ってのは人の中身を見透かすっていうし、こいつに好かれたならお前も中身のすっきりしたやつなんだと思うぜ」
「そう、か……?」
「俺結構内番のときとかこいつひとりにしちまうこ多いからさ、お前に任せていいか?」
「……時間があるときなら」
「やりい!鵺を待ちぼうけさせとくの毎度悪くおもっててさ、一緒に遊んでくれるのがいるなら安心だぜ!――いいよな?」
獅子王は後半鵺に向かって言い、鵺はそれに頷いて応え、身を乗り出すようにして骨喰の手のひらに頭を押し付けてじゃれた。
そのしぐさに、骨喰は胸の奥がふわっと温かくなるような心地がして、衝動のまま撫でまわせば鵺はされるままにしていて、獅子王はそれを見てけらけらと笑った。

もしかしたらこんな日常の一場面も自分が忘れていた記憶のひとつなのかもしれない、と骨喰はちらりと思った。



安価で男士二人募集したやつ。
鵺をもふもふしたい。
16.7.24